聖剣抜いた
田舎町マルクでは年に一回『聖剣祭』という祭りが開かれ、その祭りでは祭壇に刺さった聖剣を引き抜くという挑戦が毎回行われ、今回も多くの挑戦者が現れる。
祭壇の聖剣は、その昔に勇者が魔王を倒す際に使ったとされ、役目を終えた聖剣は祭壇に刺さったままである。
その刺さった聖剣を抜こうと、今まで幾多の剛力無双の強者達が現れ挑戦していったが、聖剣はビクともしなかった。
「僕もやりたーい♪」
名家の跡取りであるテオ・カリオス(5歳)は無邪気な笑顔を見せながら若い専属メイドのミリーにお願いをする。
「坊ちゃま、危ないですよ。あそこで金魚すくいやってますから。」
「いやだ!!聖剣抜くんだい!!」
テオは一度言い出すと聞かない子供であり、そのワガママにいつもミリーは振り回されていた。
可愛らしいクリクリとした碧眼の目で見つめられると、ミリーもついつい甘くなってしまうのである。
「もう仕方ないですね。一回だけですよ。」
「やったー♪」
そうして順番が来て、トコトコとした足取りで祭壇の階段を上がっていくテオ。その様子を周りの人々は温かい目で見守っている。
ミリーはテオが心配で堪らないので、テオの後ろを付いて歩く。
「もう!!付いて来ないで良いのに!!」
「そういうわけにはいきません。ほら、前を見てないと転びますよ。」
テオがおしめを付けている時からお世話をしているミリーにとって、テオは目が離せない存在であった。
剣が刺さっている場所に着くと、テオがキャッキャとハシャぎ始めた。
「うわーーー♪カッコいい♪」
無駄のないフォルムの細身の剣。派手さは無いが流石は魔王を倒した剣。見た目だけでは測れない凄みがある。
「じゃあ、坊っちゃん。剣の柄を持ってもらえますか?」
「うん♪」
係員の人に促され剣の柄を持つテオ。その様子を心配そうな顔でミリーは見守っている。
「じゃあ力入れて上に引き上げてください。」
「よし♪とぉりゃ!!」
テオは精一杯の力を入れて聖剣を引き抜こうとするが、やはり聖剣は抜ける様子は無い。
「ぬぎぎぎぎ!!」
顔を真っ赤にして必死の形相のテオ。ミリーはそろそろストップを出すことにした。
「テ、テオ様、もうやめましょう。」
「い・や・だ!!」
ムキになるのがテオの悪い癖であり、こうなると止めるのは一苦労である。
「だ、駄目だぁ〜!!」
ようやく聖剣から手を離すテオ、だが諦めた様子はなく。
「ミリー手伝って!!」
「へっ?私?」
「そう、一緒に引っ張って!!」
突然の救援要請にビックリしたミリーだったが、テオの頼みを断れるわけもなく、握り直したテオが持っている柄より上のところを持つことになった。
「じゃあ、せーので引っ張ろう!!」
「は、はい。」
「せーの!!」
掛け声を合わせて二人で聖剣を引き上げようとするテオとミリー。
野次馬達はその様子を見ていたが、誰も剣が引き抜けるなんて考えてもいなかった。
しかし、奇跡はいつも偶然に起こるものである。
"スポッ"
なんとも聖剣はいともたやすく引き抜けてしまったのだ。
「やったー!!」
喜んでピョンピョンとジャンプするテオ。周りの野次馬達もこれには驚きと称賛の声を上げたが、何故かミリーだけは苦笑いを浮かべていた。
聖剣はカリオス家の客間の一番目立つところに飾られ、これでは伝説の聖剣も単なるインテリアである。
その日、ミリーは屋敷の掃除に精を出していたが、メイド長から客間の掃除をするように言い渡された時、表情には出さなかったが、心底嫌な気分になった。
掃除を始めるなり、頭に声が響いてきた。
『やぁ、ミリーちゃん。グッドモーニング♪』
「・・・。」
ミリーは頭に響く声を無視して、掃除を始める。
『ちょっと無視しないでよ♪俺らコンビでしょ♪』
「・・・。」
頑なに無視を続ける、彼女はこのまま掃除を続けるつもりである。
『もう、聖剣のオイラを抜いたくせに、放置プレイとは感心しないぞ♪』
「・・・黙れ、喋るな。」
あまりにもイラッとしたので、思わず声を出してしまうミリー。
謎の声の主は聖剣に宿る精であり、真の聖剣の持ち主であるミリーにだけ声が聞こえるのである。
聖剣祭の時に剣が抜けたのは、テオが聖剣を抜いたわけではなく、ミリーが聖剣に選ばれし者だったからであり、だから彼女が手伝った時にすんなり聖剣が抜けてしまった。
ミリーは聖剣を抜いた時から、聖剣の精の声が聞こえるようになり、それから聖剣に近づく度にうるさく話し掛けられる様になった。
『ねぇねぇ、ミリーちゃんから言ってやってよ。あの坊っちゃんに乱暴に俺を扱うなってよ。あんなにブンブン振られたら、こっちだって参っちゃうよ。』
「だから喋るなと言っている。」
ミリーがハタキでパタパタと聖剣を叩くと『ゴホゴホ』と聖剣が咳き込んだ。
このメイドが聖剣が振るうことになるかどうかは、まだ分からない。




