その国の終焉
定番の逆行ネタを見ていると冤罪で処刑された後って、その後どうなるんだろうなと思って妄想しただけ。
はっきり言ってBADEND
その日。神の娘と偽った罪人の処刑が行われる事になった。
「国家転覆を謀ったとか」
処刑場に集まった人々は噂する。
「皇太子妃になるお方を暗殺しようとしたとか」
「陛下に毒を盛ったとか」
「聞いたところによると魔物の襲撃が来るのを知っていて兵を差し向けるのを止めたんだとよ」
ひそひそと囁かれる噂と共に。
ばしっ
石が飛び、処刑台に居る女性の顔に当たる。
誰が投げたか関係ない。最初に誰かが投げればそれに賛同するかのよう次々と投げられた石が罪人の身体に当たっていく。
「お前の所為で!!」
「悪魔!!」
「魔女!!」
投げられた石で身体がよろめく。
あちらこちらに当たり、傷を作っていく。
「これより魔女エレインの処刑を開始する」
処刑人と国王の代理として、国を預かる立場であると豪語している王太子が宣言する。
「罪状は数多あるが、父上を、陛下を殺そうとしたことは許し難い」
もっとも苦しむ処刑を味わうといい。
勝ち誇った様な宣言。
だが、彼女はそんな言葉は気にも留めず、それを王城から楽しげに嘲笑っている女性の姿を見つめている。
皇太子妃になるのは自分だった。
神の娘として生まれ、予知能力を持ち、神殿で神に仕え続けてきた。
また、神の娘として与えられた知識を使い、薬を作って人々の治療にもあたった。
神殿と王族の繋がりを強化するための婚姻だった。
そこに気持ちが伴わなくても、同じ国を良くする立場としてきっとうまくやっていけると思っていた。
だが――。
『女が政治の話にでしゃばるでない!!』
ある地域ではやり病が広がった時に国全体に広がる前に対策を願い出た時に言われた言葉。
彼は事の重要性に気付いておらず、そんな事にお金を掛けられないとこちらの話を聞かなかった。
『エレインさま。安心してください。私たちが向かいます』
有志で村に向かい治療に当たった医師や薬師はもういない。
彼らは私を逃がそうとして捕らえられ、殺された。
『ありがとうございます。ありがとうございます』
涙を流しながらしわしわの手を重ねて感謝の言葉を繰り返していた老人は、
『息子を助けてくれてありがとうございます!!』
体調がよくなって元気に微笑む息子を抱き上げながら何度も何度も頭を下げていた女性も。
『しんかんさま。おねえさん、ありがとう♪』
お礼にとつるつるに削られた自分の宝物のガラスの欠片をくれた女の子もみんな亡くなった。
私は無実だとデモを行って兵士に射殺されたと告げられた。
………それを私の指示だという噂と共に。
最後にはその村があった事実すら消し去るため、日照り対策で溜めてあった貯水池の水を放水して、その地域を洗い清めるためにと水で流して消し去った。
その水にはその村の人々の怨念が渦巻いているのも視えてしまう。
「……………」
ああ。私はなんのために。
足元に火がつけられる。
誰かが笑う。
楽しげに。
嘲笑う。
いい気味だと告げながら。
涙は流してすぐに乾いてしまう。
「…………私のした事は」
すべて無駄でしたか。
ぷつんっ
それが最後の記憶。
燃えていく神の娘の姿を見て、笑いがこみ上げてくる。
ずっと鬱陶しかった。
綺麗ごとばかり口にして、出しゃばり。
とある地方で病気がまん延したから治療に当たるように言い出したかと思えば、
日照りが続きで水が足りなくなる可能性があるので、貯水池を作れとか。
食糧不足が起きる可能性があるので食糧を備蓄できるようにした方がいいとか。
王都に続く道が老朽化したので修繕した方がいいとか。
ありもしないでっち上げを繰り返して、税金は贅沢するためのものではなく、国のために使う物であるとか説教してくる。
そんな女といつもいつも比べられて、溜め息を吐かれるのがどれだけ苦痛だったか。
第一、神の娘だと言っても神官たちが言っているだけの出まかせだろう。
そんな出まかせを信じている貴族から富を奪う金の亡者どもが。
まあ、そんな輩も神の娘と謳っていたエレインが死んだ事で大人しくなるだろう。神官は愚民どもにありがたい説法とやらを聞かせおけばよいのだ。
「シーラ。これでもう安心だ」
処刑なんて怖いものは見たくないと奥に引っ込んでいった愛する婚約者に声を掛ける。
「もう、お前に酷い事をした女はいなくなったよ」
そっと手を伸ばして告げると。
「あぁ♪ ほんとっ♪ 良かったぁぁぁぁ♡ ずっと怖かったんですぅ~ツヴァイ様~♡」
可愛らしく可憐な小鳥は胸の中に安らぎを求める様に飛び込んでくる。
ああ。コレで愛する人と一緒になれる…。 その幸せを噛み締めていると。
どがぁぁぁぁぁぁぁん!!
すべての音を消し去るような爆音。
耳が聞こえなくて、状況を把握しようと辺りを見渡す。
すると遠くで赤い柱が出現しているのが見えた。いや、遠いからただの赤い柱に見えているが実際は……。
「神の山が噴火した……」
その方角には神の山と言われている山があり、凶事が起きると噴火して伝えると言われている。
『それを代々神の娘が神の山を鎮め、凶事の内容を神の山から直々に賜り、国にお伝えしてきたのですよ』
国の歴史を教えてくれた教師は口うるさいから首にした。そいつが言っていたのは何だったか。
以前起きたのはいつだと言っていた?
耳はまだ戻らない。空から雪のように灰が降ってくる。
神の娘が神の山に向かって、凶事をお尋ねしたと言っていたが、その神の娘はでまかせだろう?
そんなのはただの昔話で、実際にはなかったのだ。
なあ、そうだろう?
「迷信だ」
ああ。そうだ。凶事と言うのなら神の山が噴火する事が凶事であって、それ以外何がある。
神殿が自分達の立場の向上のために言い出したに違いない。
だからこれに対処出来れば、自分こそが語り継がれる英雄になれるのだ。ならばこそ何らかの対策を考えないと。
だが…………。
神の山の噴火は前兆。
災厄は次々と訪れる。
かつて神の娘とその下に集まった有志達が治療した病と同じものが国全体に広がった。その治療方法は神殿に書き記されていたのだが、皇太子が神の娘を偽った者の犯罪の証拠だと持っていき、既に処分されていた。
よって病気はまん延。治療薬も治療方法もあったはずなのに。知っている者は誰一人いない。一から調べ、その対処は遅れていった。
そして、日照りが続き、水がどんどん足りなくなる。提言通り溜めていた水は、こんなもの意味ないだろうと判断して、証拠隠滅を兼ねて使用したばかりだ。
作り手がどんどんはやり病で倒れていくので必然的に食料も足りなくなる。もしものためにと備蓄してあった食べ物も、そんなにあっても無駄になると宴会を繰り返して消費してしまった。
ならば輸入をすればいいと手を回したが、陸路は老朽化で、道のあちらこちらで地盤沈下や橋の崩落が起きていて、海路にすればいいと思ったが、沖では嵐が続いており船を出せないと報告が起きた。
金銀財宝はあっても食料は手に入らない。
民の恨みが憎しみがこちらに向かってくる。
王族を守るはずの兵士や騎士たちも、民と共に反旗を翻した。
ゆっくりと国は滅びに向かっていった。
それは神の怒りだとのちの歴史では語られる。
主人公逆行してないじゃん……。