ブローボーニの魔女 2
「…魔女?何それ?」
リオーネは小声で反問しながら目を丸くした。
「解らない…命令されただけで、まったく情報が与えられてないからな。」
カインも低い声で言った。
「或いはリュシアンから遠ざけるための作り話か…」
「いくら陛下と公爵様の性格が悪くても、その嫌がらせはないと思うわよ。」
リオーネはクスリと笑って断言した。
「…とすれば、本当に魔女がいるのかも…」
「本気で言ってる?随分と楽しそうだけど…」
「もちろん。」
「おとぎ話じゃあるまいし。俄かに信じろというほうが無理だ。」
「あら、そうでもないわよ。シセルの話ではバルドには魔術士がいて、時々奇跡を起こしたって言ってたもの。」
「はあ…⁉︎」
「まあ、たいがいは偶然だし、ペテン師だとも言ってたけど…」
「ほら見ろ…」
カインはそっくり返って両腕を組んだ。
「その魔女がペテン師かどうかはともかく…あなたに白羽の矢が立ったあたり、少し面倒な任務なのかもしれない。ブローボーニはネスバージとの国境により近い場所。深い森の奥に怪しい人物が隠れている可能性は十分にあるわね。」
リオーネの意見にカインは唸った。
「命令とあれば潜入もするし、職務は全うする。…でも、俺には女を扱う才能がない…圧倒的に経験が足りない。」
「え…」
リオーネは目を丸くした。
「カインの杞憂ってそれなの?」
「…ああ。」
リオーネは呆れた。あるいは命の危険を伴うかも知れない謎の任務を背負わされていると言うのに、心配しているのは女性経験の無さ?
「あの…尋ねにくいんだけど、必要だと感じたら、魔女とでも寝るつもり…ある?」
カインはリオーネを瞠目した。
「必要とあればね。」
「カイン…」
平然と答える弟を見つめながら、リオーネはふと父の言葉を思い出していた。
「カインの完璧主義は見上げたものだが、それだけに退き際を見失う可能性がある…見極めが難しい特務において、それは致命的だ」…と。
「カインはそれで良いの?」
「別に構わない。ただの任務だ。」
カインはそっけなく言ってエールを飲み干し、店員にもう一杯くれと頼んだ。
「それはそうだけど…ね。」
リオーネは思わず苦笑した。この類の男は女泣かせだ…結婚には向いてない…
「私が言うのも何だけど…もう少し自分を大切にした方がいいと思うよ。特務の騎士といっても、カインはブランピエールを継ぐ身で、アンペリエールの嫡子なんだし…」
「嫡子でもなんでも戦になれば駆り出される…同じことだ。」
「確かに…」
反論できず、リオーネは押し黙った。騎士であれば出征は不可避だ。父ユーリも若い頃には何度か出征しているし、シセルも命がけで戦った…
…この子だってそうだ。
リオーネはお腹に手を当てた。この子が男子なら、それも宿命に違いない。
「何の慰めにもならないだろうけど、この任務はカインだから成せるものと公爵様は踏んだのだと思う…私は誰にも言わないし、聞いたことも忘れる。…とにかく、くれぐれも気をつけて…無事な帰還を祈っているわ。」
リオーネはカインの手をそっと握った。その声音はまるで母シャリナのようで、カインの心が満たされる…
「ありがとうリオン。胸のつかえが少し下りたよ。」
「…そう?それは良かった。」
二人は見つめ合って微笑んだ。双子であればこその共感だった。
その後は、シセルも交えて楽しい夜を過ごした。次に会う時、二人は子供の両親になっているだろう。こんな場面も最後になるかも知れない…
…帰りの途中で何か気の利いた祝いの品を見繕おう 。
カインは遠くブローボーニの地に思いを馳せながら、そう心に決めた。
カイン・アンペリエールが宮廷に姿を見せなくなり、王都からも忽然と姿を消したことを知ったリュシアンは狼狽し、著しく情緒不安定になった。
誰に尋ねても行方は掴めず、消えた理由もわからない…
「知らない訳はないだろう!」
リュシアンは苛立ち、周囲の者に当たり散らした。
「これは陰謀だ。僕への嫌がらせに違いない!」
激しく怒ったかと思えば、次の瞬間には落ち込み、哀しげにうなだれる…
誰の慰めにも耳を傾けず、ひたすら嘆くばかりの王太子を見るに見かね、王妃エミリアは実弟フォルトの嫡子、アーレスを呼び寄せた。カインと交流が深いアーレスが来れば、リュシアンの気も少しは紛れるのではと考えたのだ。
アーレスは王妃の招きに応じて宮廷入りした後、先だって父のもとに向かった。
エミリアからの親書で事態は概ね把握しているものの、カインの消息については何らかの情報が必要だと感じたからだ。
「私は王太子のお守り役か…」
アーレスは回廊を歩きながら顔をしかめた。
「私にカインの身代わり役は務まらないと思うが…」
すれ違う人々が次々にお辞儀をする…アーレスがパルティアーノ公爵の嫡子で、王族であることの証だ。アーレスは卒なく彼らを促した。父に似ず『良い性格』で評判の若き騎士は、いまや城内の貴婦人の注目の的になっている。
フォルトの部屋の前に着くと、アーレスは小さく咳払いをした。いつもながら父の前では緊張を強いられる。幼いうちにグスターニュ城へと預けられた後、父とは成人を迎えるまで殆ど関わることがなかった。そのため、今でもその関係性は微妙なままだ。
「父上、アーレスです。」
声をかけると「入れ。」との返答があり、アーレスは扉を開けて中に入った。
フォルトは窓際に立ち、入ってきたアーレスを迎えた。その表情は穏やかではあるものの、笑顔を見せるわけではなく、特に歓迎している様子もない。
「久しいな、アーレス。」
フォルトは言った。
「姉上に呼びつけられたのであろう…?」
「はい。早急にとのことでしたので、急ぎ参りました。」
「ふむ…さもあろう。リュシアン殿下には姉上もお手上げのようだ…まこと困ったものぞ。」
フォルトは渋面を浮かべて言った。叔父であるフォルトも、王太子の我儘に少なからず被害に遭っていたのだ。
「カインの不在が原因とのことですが、父上は消息について把握されているのではありませんか?」
アーレスは無駄な話はせず、単刀直入に尋ねた。
「無論、把握しておる。」
フォルトも即答した。
「…だが、それを殿下に申し上げたところで解決には至らぬ。黒騎士の帰還は当分先になろうはずだからな。」
「…では、やはりカインは遠地に?」
「うむ。特務を命じた。アンペリエールにしか成し得ぬ任務だ。」
「特務…ですか。」
アーレスは呟くように言って眉をひそめた。
…リュシアンが嘆くわけだ。それでは誰も知るはずがない。
特務に限っては総帥である父と、命じられた本人のみが秘密を保持するのが掟だ。それに従い、カインは誰にも告げずに王都を去った。与えられた任務を達成するまで彼が帰還することはないだろう。
「そなたは息子ゆえ打ち明けたが、決してリュシアン様に気取られてはならぬぞ。
狩にでも誘って気分転換を図り、立ち直らせるといい。」
「そうですね…。」
…まったく。
肯定したものの、アーレスは小さく溜息を吐いた。こう言う時に頼りになるリオーネもすでにペリエへと帰ってしまった。王都にいる「お守り役」は今や自分だけになったのだ。
「承知しております父上…対策を考えます。」
素直に応じるアーレスに、フォルトはようやく僅かに口角をあげた。
昨年離縁した妻に瓜二つの嫡子。妻からの悪影響を避ける意味でグスターニュへと預けたのが幸いし、従順かつ利発な青年に育った。成人してからはカインとリオーネとも仲が良く、互いに信頼し合っている様子だった。
「…ときに、リオーネはそなたに別れの挨拶をしたか?」
フォルトは思い出したように言った。
「はい。バージニアス子爵とともに先日参りました。」
「そうか、カインも居らぬし、そなたも寂しいであろう?」
それは真実だったが、アーレスは頷かなかった。カインの孤独を思えばその比ではない。
「シャリナはいよいよ祖母となるか…時の経つのは早いものよ。」
目を眇めながら呟く父を見つめながら、アーレスもアンペリエール男爵夫人、シャリナの顔を思い浮かべていた。実母からは得られなかった愛情と慈しみを惜しみなく与えてくれた女性…リオーネの菫色の瞳を見る度に、幾度優しい眼差しを思い出したことだろう…
「リオーネの子が誕生した暁には、顔を見に行かねばならぬ…」
まるで自身の孫でもあるかのように父は嬉しそうだった。成長してから知った事実だが、父はかつてより男爵夫人に心を寄せており、それは母との結婚後も変わることはなかった。母もそのことを知っていて、二人は初めから冷めた関係であったという…
「…その時は私も同行致します…是非お祝いを申し上げたい。」
アーレスは控えめな口調で言ったが、違和感を感じたフォルトが眉をひそめる。
「…そなた、何ゆえ赤面している?」
「えっ…」アーレスは思わず声を上げた。
シャリナへの思慕のあまり、無意識に高揚してしまっていたらしい…
フォルトは訝しげに息子を瞠目した。シャリナがアーレスを慈しみ、我が子のように育ててくれたことには感謝している。そのお陰でアーレスは歪むこと無く真っ直ぐに成長した。だが…
…私が望んでも得られなかったシャリナの愛…それをアーレスは知っている。
その思いが嫉妬を抱かせていた。シャリナが優しくアーレスを抱く姿など見たくはない…本当に愚かな感情だ。
「とにかく、そなたはリュシアンをなだめることに専念せよ。」
アーレスから顔を背けてフォルトは言った。
「尽力いたします。父上。」
アーレスは素直に頷いた。
ルポワドを離れてから七日-----カインはようやくブローボーニに到着し、まさに目標である深い森を眺めていた。
今は馬に小川の水を飲ませ、自身は付近の村で手に入れたパンを口にしている。森の向こうにそびえ立つ山々を越えれば異国…ネスバージの国領だ。
「いよいよだな…」
カインは思案していた。森に入ればいつ魔女と接触するか解らない。相手が見えない以上、迂闊に足を踏み入れてこちらの正体を知られては任務に支障が出る…
全てを外さないまでも最小限の武装は必要だ。長剣は帯びず、短剣だけを潜ませるべきだろう…
最後のパンの欠片を口に放り込んだ後、カインはゆっくり立ち上がった。
長剣を鞘へと収め、馬の荷の中へと潜りこませる。短剣は背にある革ベルトの留め具に差し込み、上衣で隠した。
自分の体格から考えて、付近に住む農夫を装うのは無理がある。ここは迷い込んだ旅人ということにして森を彷徨い、とにかく探りを入れてみるしかない。
カインは馬を走らせ、木々の生い茂る森の中へと入って行った。季節は早春で肌寒く、草花もまだ色鮮やかとは言えない。奥深く立ち連なる樹木の隙間から差し込む木漏れ日は幻想的だが、眠りから覚めていない森の中は寂しく、怪しい静寂に包まれていた…
しばらく馬を歩かせ、より深く分け入ったところで地上に降り、辺りの様子を用心深く伺いながら更に彷徨う。やみくもに步く事はせず、方向を常に把握しておく必要があった。そうしなければ、すでに生きてこの森を脱出するのは不可能だった。
風が少しだけ頬を撫で始める。その時だった。
…気配を感じる。
直感的にそう感じた。視界に入らずとも判る。何かが居る…しかも、恐らく人間だ。
カインはあえて気づかないふりをした。ここは用意した台本通り、上手く演技をしなければならない…
カインは四方に頭を巡らせながら困惑したように呟いた。
「困ったな…道に迷った。」
静寂の森に自分の声だけが響く…相手の動きは止まったままだ。
「先へ進むか…いや、左かもしれないな。」
独り言を言いながら、気配のする方向へと足を向けた。確信はないが、間違ってはいないはずだ。
慎重に歩を進めた。気配はますます強くなる。相手は動きを見せず、どうやら逃げるつもりは無いようだ…
…そこだ。居る!
カインは僅かに目を眇めた。先にある太い樹木の裏側…その陰に何者かが身を潜めている。
背に隠した短剣に指をかけながらカインは近づいて行った。もう少しで姿が見える…
「そこに…誰か居る?」
カインは立ち止まり、横を向いて尋ねた。
尋ねられた相手は驚いた様に一瞬たじろぎ、俯いていた顔を上げた。漆黒の外套に身を包み、深くフードを被った女らしき姿…まさに魔女そのものだ。
「人間…だよね?」
カインの問いかけに、相手は黙って頷いた。
「良かった…」
カインは微笑んで見せた。相手からは敵意も殺気も感じられない。背に回していた腕を脇へと戻し、穏やかな口調で言った。
「旅の途中でこの森に迷い込んでしまって困ってるんだ。腹も減ったし、日暮れも近い…助けては貰えないかな?」
「助ける?」
鈴の音のような美しい声で魔女は反問した。目もとは見えないが、その口もとは薔薇色の唇に彩られている。
「君の家が近くにあるなら、できれば少しの食べ物と…とにかく身体を温めさせて欲しい。」
魔女の容姿を密かに観察しながらカインは言った。初対面での要求としては極めて図渦しいものだったが、目標らしき相手に接触した以上は深く追求しなければならない。
「…条件をのんでくれるのなら、いいわ。」
暫く躊躇ったあと、魔女は低い声で言った。
「条件?」
「薪を割ってくれるのなら。」
「…薪?」
「ええ。」
魔女の出した条件が至って平凡だったので、カインは拍子抜けして苦笑した。魔女なら魔法で薪ぐらい簡単に割れるんじゃないのか?
「それくらいお易い御用だよ。」
「助かるわ。」
魔女は抑揚なく言って頷くと、すぐに踵を返した。ひるがえった外套の下に見えたのは裾の長い黒のチュニックで、魔女らしく全身黒の服を身に付けている。
「家族はいるの?」
後ろを付いて行きながらカインは尋ねた。
「いいえ。誰も…家族がいれば薪割りを頼んだりはしない。」
「ああ、そうか。」
リオーネと比較するとあまり背の高くないほっそりした体つきの魔女は、服装を除けば、むしろ頼りなげな乙女に過ぎなかった。声、顎の輪郭、薔薇色の唇、どれをとっても年齢は自分より若いとしか思えない。フードに覆い隠された眼差しに、カインは強い興味を持った。
しばらく歩き続けると、木々の隙間から屋根が現れた。それは突如カインの視界に入り、次にはそれこそ魔法でもあるかのように、目の前に小さな城が出現した。
正直、カインは驚愕していた。背の高い木々に守られたこの城の存在を、いったい誰が知っているのだろう…持っていた地図には記されておらず、当然、命じたパルティアーノ公爵でさえ知らないに違いない。
「これが君の家?」カインは尋ねた。
「そうよ。」
「…でも、これ城だよね?」
「‥以前はね。」
…以前?
カインはそれも口にしようとして押し止まった。重要な情報ではあるが、これ以上の詮索は早急だ。
「割って欲しい薪はそこよ。」
魔女は外壁の脇を指差して言った。そこには少しばかりの丸太が積んであり、お世辞にも出来が良いとは言えない作業半ばの薪が転がっている。
「仕事をしている間に食事の支度をするわ。男のあなたなら、すぐに片付けられるでしょう?厩舎は右奥よ。」
そう言うと、魔女はその場を離れ、城の中へと入って行った。残されたカインは厩舎に馬を連れて行き、戻るとすぐに薪割りを開始した。
様々な騎士修行を経験したカインにとっては、薪割り作業など造作もない事だ。
父親としてのユーリは温厚で気さくだが、一度騎士の顔に戻れば激烈に厳しい人だった。グスターニュの後継者たるカインに正騎士達が一目を置くなか、ユーリはそれを許さず、他の者と等しく、否、それ以上に容赦ない姿勢でカインを鍛えあげた。リオーネもそうだが、従者としての役割に始まり、あらゆる知識と経験を学び、優れた判断力と柔軟性を身につけよと命じられている。その教えを守り、精進する事でカインは今や特務を担う正騎士へといち早く昇格を遂げることができたのだった。
割り終えた薪をきちんと束ねて辺りも整理したカインは、脱いでいた袖なしの上着を着直してから城の入り口に向かった。
古びた扉を開いて中を覗くと、薄暗いエントランスに燭台の明かりが灯り、その奥には暖炉のある広間が見えた。魔女の姿は見えず、どうやら厨房にいるようだ…
カインは静かに足を踏み入れ、くまなく辺りを観察した。
城の中は調度品もなく殺風景で、人影もない。階段はあるが使われている形跡はなく、入り口には廃品が積まれている状態だった。
…一人で住んでいるというのは真実のようだな。
カインは確信した。
魔女の住処にしては地味で、怪しい雰囲気は全く感じられない。それは広間に至っても同じだった。暖炉の前に置かれたテーブルの上には皿が二枚用意されており、薄切り肉とパンが置いてある。
カインは妙な気分だった。いとも簡単に目標と接触に成功したかと思えば手伝いをさせられ、あげくに魔女の用意した夕食を食べようとしている…
…任務のためだ。
カインは自分を納得させた。少なくとも魔女に攻撃の兆しはない。食事には注意を払わねばならないが、短剣を使うには至らないだろう。
「…作業は済んだのね?」
鍋を手にした魔女が歩み寄りながら言った。
「もう、完璧さ。」カインは白い歯を見せて笑った。
相変わらずフードを深く被った魔女の唇がわずかに開かれる。カインにはそれが微笑みのように見えた。
「こんなものしかないけれど。…どうぞ。」
カインが席に着くと、器に移した温かいスープをカインの前に置い
き、彼女も席に着いた。魔女の手料理なら不気味な食材が使われているかもと覚悟していたが、入っていたのは野菜ばかりだった。少量の肉とパンを皿に分けた後、魔女とカインは向かい合って食事をした。
「私を疑わないの?」
魔女は言った。
「疑う?…なぜ君を?」
「こんな場所に居れば、誰もが疑うでしょう?怪しい魔術を使う魔女じゃないかって…」
「君は…そうなの?」
魔女は俯き、首を横に振った。
「そんな能力があるなら、あなたに薪割りなんてさせない。」
「だろ?…だから僕も食事にありつけたんだ。」
カインの屈託のなさに、魔女は今度こそ微笑んだ。
「君こそ僕を疑ってる?僕は構わないけど、君が外套を脱がないのはそのせいなの?」
魔女は思わず顔を上げた。その拍子にフードの下の眼差しが垣間見える…
返答に困っている様子の魔女に、カインは追い打ちをかけた。
「確かに僕は少し厚かましいところがある…もし君の心を煩わせているのなら謝るよ。」
「いいえ、そんなこと…これは私自身の問題で…」
魔女…否、彼女は心を開きかけている…カインはそう感じた。…もう一押しだ。
「うん、それなら良いんだけどね…改めて言うよ。僕は君に感謝してる。君は善良な女性だ。」
カインは笑顔を浮かべながら右手を差し出した。
「名乗るのが遅くなってすまない。僕はカイン。ペリエ出身の騎士だ。」
魔女はカインを見つめた。澄んだ泉のような青緑の瞳-----なんと美しいのだろう。
「私は…マリアナ。」
魔女は小声で言った。
「この城を建てた城塞技師、ゼナ・ヴェルネスの娘よ。」




