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託宣の巫女  作者: 猶崎 迅
3/6

娘の失踪

娘のハナが姿を消した。

朝になっても娘が帰っていないことに気づいた俺は、まず娘の親友を訪ねた。結婚が破談になった後、ハナが親友のネルの家に入り浸っているのを知っていたからだ。事情が事情だから家には居づらいのだろうと、それを咎めたことはない。だが連絡もなしに帰ってこないのは初めてだった。

しかし、娘が帰ってないと聞いたネルは蒼白になり、震える声で言った。


「ハナは昨日、ニナ達に会うといって町はずれの森に向かったわ」


そういう事情であれば、ニナに話を聞かなければならない。俺は妻と一緒にもう一人の娘の元に向かった。なぜかネルもついてきた。


「なんなの、父さん。そんなに血相変えて」


秋の例祭の直前に生まれた赤子を抱えたニナは、姉の行方を尋ねても不機嫌そうな顔を崩さなかった。


「姉さんのことなんて知る訳ないでしょ。男のところにでもいるんじゃないの」

「お前じゃあるまいし、ハナがそんなことするわけないだろう!」

「そうよねぇ。ハナに男がいる訳ないわね」


そういって妻が笑う。自分の娘(ハナ)を何だと思っているのか。昔から(ハナ)(ニナ)の扱いに差があったのは気づいていた。目の届く限り改めさせようとはしてきたが、ここまでとは…。妻を叱りつけようとしたその時、ネルの震える声が聞こえた。


「ケン、あんたハナに借金があったでしょ」

「何だって!」


思わず娘婿をにらみつけてしまった。姉から妹に乗り換えた不実な男を、俺はずっと気に食わなかった。嫁入り前の娘を孕ませるような男でもある。俺の視線を受けた婿は、真っ赤な顔で怒鳴る。


「いい加減なこと言うな!」

「いい加減じゃないわ!ハナから借用書も預かってるのよ!」


どこからか取り出した紙束を振り回しながら、ネルが倍の勢いで怒鳴り返した。さっきまで青ざめていた頬が紅潮し、本気で怒った顔をしている。


「その借用書、見せてくれないか?」


手渡された借用書には、確かにハナと婿の字でサインがあった。ハナが針子として稼ぐ金額の3か月分ほどもする数字が記されている。大金というほどでもないが、決して安くはない額だ。


「…これは?」

「まだハナとあいつが結婚するはずだった頃、貸したお金よ。

 結婚しちゃえばお財布も一つになるし、なかったものになるかもしれないけど、

 それまではきちんとしておきたいって。ハナは本当にちゃんとした、いい子だったのよ!」


ネルは涙までにじませている。娘は本当にいい友達を持ったのだ、と思った。だが疑問もある。


「なぜ、君が、これを?」

「家に置いておいたら、妹への結婚祝いだっておばさんに捨てられちゃうかもしれないから、

 預かってほしいって言われたわ」


確かに妻なら言いかねない。それにハナはそこまで母親を信用できなかったのか。己の不甲斐なさに歯噛みする思いだ。しかし、今はそれを追求するより、娘の行方だ。


「昨日、お前たちがレナを母さんに預けて出かけたのは知ってる。ハナと会ったんだろう?」

「だから知らないってば!」

「では昨日はどこに行ったんだ」

「お父さんには関係ないでしょ」


ふてくされてそっぽを向く下の娘(ニナ)。これは都合が悪いことを追及されているときの仕草だ。普段ならここで妻が割って入るのだが、今回はさすがにそれもない。


「そうか。ハナは町はずれの森に向かったと聞いている。怪我でもして帰れなくなってるかもしれん。

 そうでなくても人気のない森に若い娘が独りで向かったんだ。捜索隊を出す」


そういうと、さすがに妻の顔は青くなったが、ニナのふくれっ面は変わらない。


「何もそこまで大事にしなくても…」

「年の瀬のこの寒い時期だぞ?森に取り残されていたら命に係わる。大事だろうが!」

「おじさん、私、町の人を集めてくる!」


ネルがそういって飛び出していった。

時系列をちょっとだけ。


前年10月中頃:秋の例祭

前年12月末頃:妹の妊娠/結婚

本年6月中頃:妹の付きまとい開始

本年9月後半:妹の出産

本年11月末頃:相談所へ赴く

本年12月末頃:今ココ

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