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持ってきた荷物を下ろす。軽装とは言え、バックパックを背負っての移動は久しぶりだ。思っていた以上に体への負担が大きい。
少しばかりの倦怠感が襲い掛かってくる。目の前のベッドにすぐにでも、倒れこみたい欲求にかられるが、そこは意地と根性でカバーする。平均的な達成期間は良く分からないが、早い方が良いに決まっている。売り上げは客単価と回転率だ。
とはいっても、急いては事を仕損じると考えている。今回は協力者がいるとは言っても、彼女はあくまで補助者。頼りすぎるのはよくはないだろう。
「さて、上手く行くか」
剣を片手に、ユーゴは呟く。それに魔力と思われるものを流し込む。漠然としたイメージだが、僅かに刀身が長くなるイメージでそれを行った。
するとどうだろうか、刀身はしっかりと伸びていた。先程と比べると、幅は細くなっている。体積は一定だと言う事か。やはり魔法、と呼ばれているものとは一つ違うものなのだろうか。
質量保存の法則が働いている、と言う事は同時に慣性の法則等も適用されている、と推定する事が出来る。なら、エネルギー保存の法則もあると言う事になるだろう。
「気づいているだけではどうにもならないがね」
ため息交じりに漏らす。初等教育で学んだ事が今更になって役に立つ事になるとは思わなかっただろう。尤も、それさえもうろ覚えだけれども。
手持ちの装備がこの剣と小さなバックラーと革鎧だけである以上、破損する危険がある実験は避けた方が良いだろう。もっと、自分の足元が固まってきたときに、思う存分楽しめばいいだけだ。自分の能力で実験を続けることの楽しさなんて、久しく忘れていた事だ。さぁ、実験の時間だ、なんて。
兎にも角にも、今はこの仕事をきちんとこなしてしまおう。害獣駆除なんてものは知識の中でしかないが、秘策も一応は存在している。
「気づいているって何が?」
不意に聞こえてきた言葉に肩を跳ね上げて驚いてしまう。
考え事をしていると周りの事が頭に入らなくなってしまうのか、ユーゴは同行者が同室である事を完全に忘れていたのだ。
「いえ、ちょっとしたことです。それよりも、同室でよかったのですか?」
「私? 大丈夫だよ。君が何かをするとは思わないし。それに、召喚されたとかいう勇者たちとかじゃない限り、駆け出しの君なんかに負ける気はしないしね」
確かに、幾ら線の細い少女のような見た目でも、ここは異世界だ。ユーゴ達の常識に当てはめるのは間違っているのだろう。