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周囲の視線が痛い。待っている間のこの何とも言えないこの時間。この時間ほど、人生の中で苦痛に当たる時間があるだろうか。こちらには暇を潰す道具もない、だからと言って何かする事があるかと尋ねられたら、何もない。
帰ってくるのをただ突っ立って待っているだけの時間。何もしない時間というのは、何も出来ない時間というのは、それだけ苦痛だ。
「お待たせしました、こちらがノジマユーゴ様のカードとなります」
一枚のカードが手渡された。一見、先程迄との違いが見当たらないが、冒険者ギルド登録番号とクラスが記載されている。
「初回登録のご様子ですので、ご説明させて頂きます。本ギルドカードは王都発行の身分証と紐づけされており、同一方法での管理がなされております。専用の魔法具を用いることにより、ご本人様の登録情報を照会する事が出来ます。また、必要であれば、専門職、及び所持スキル等の情報を記載し、開示する事も可能です」
少し感心する。個人情報の管理が一括して行われ、尚且つその情報の編集まで任意で出来るとは。
「また、犯罪歴や違反歴、クエスト受注数、クエスト成功数等の情報も漏れなく記載されるので、お気を付けください。違反歴が多い場合、クエスト成功数が少ない場合等、特定の条件がクリアされないと、受注頂けないクエストがございます。また、ユーゴ様は今回Eクラスからのスタートとなりますので、採取、及び低脅威の討伐クエストを受注する事が出来ます。ギルドへの依頼は総じて地方への出向が多くございます。ご支度は慎重になされますようお願い申し上げます」
思っていたより、しっかりとしている。周りの雰囲気が荒くれ者ぞろいに見えるから、もう少しやくざな世界を想像していた。
「最後に、ご依頼は掲示板、もしくは冊子に記載されておりますので、受注なさる際は記載されている情報をご確認の上、クエストナンバーをご申告ください。簡単ではありますが、以上でご説明を終了させて頂きます。より詳細な規約等は、ギルド内にございます冊子にて確認する事が出来ますので、参照の程をお願い申し上げます。では、お気をつけて」
本当に意外、という他無い。ギルドは誰にでも登録が出来るというのは聞かされていたが、誰でも登録できる、というのは自己申告制であり出鱈目な情報を記載する事が出来るという事。
そんな事が出来てしまえば、身分という肩書は崩れてしまう事に他ならない。
成程、そんな事をさせないためのクラス制度というものか。高額な依頼をすぐに受けさせず、また安易に紹介させないというもの。
この様子なら、おそらく各町への出入りもそれなりに監視されていると言った所か。ファンタジーならではの管理方法だ。現代社会でも十二分に通用するのではなかろうか。
ちょっとした共通点に感心しながら、ユーゴは依頼を眺める。掲示板に張り出されているのは、緊急性の高そうな依頼が多い。逆に冊子に纏められている依頼は、緊急性の低い、恒常的に出されているかのような依頼が多い。特に採取クエストが目立つ。
その他には、町の八百屋の手伝いだとか、農作業の手伝い、運搬業の手伝いといったアルバイト的な内容も記載されている。
思っていた以上に、ここの雰囲気とは合っていない依頼もある。
ここのモヒカンヘアーたちや筋肉自慢達が店番をするなんて姿は想像もつかない。
とりあえず、詳しい知識が要らない依頼を探してみる。簡単な所では、野生生物の討伐、といった所か。猪の討伐、野犬、コボルドの討伐といったものだとかがメインとなってくる。
必要なものは、肉だとか毛皮ばかりだ。解体が出来ると、報酬金額が上乗せされるとも書いてあった。