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城下町は昨日と変わらず、活気に満ち溢れていた。走り回る子供たち、買い物客たちや、行商人のけたたましい声。昼間にも関わらず、酒場からは快活な声が響き渡る。
王城で聞いた話など、まるで彼らには関係の無い話かのようだ。世界の危機だとか、王国の危機だとか。魔王が攻めてくる話なんて聞いた事も無い。
王の話が本当かどうかさえも怪しいものだ。周辺諸国との戦争の戦力として、自分たちは召喚されたのではないのだろうか、なんて。
そんな、下らない考えが、頭の中を過ぎ去っていく。
もう、彼自身にはどうでもいい事だ。差し当っての問題を解決するために、冒険者ギルドに登録をしなければならない。
昨日、町を出る際に、門を守っている衛兵から冒険者ギルドについての話を聞いたのだ。
どうやら自分の話を噂で聞いたらしい。そこそこにお節介な人間だ。どうにも、文化レベルが低いと娯楽が少ないらしい。人の好奇心を満たす為の噂があれば、すぐに飛びついたりもするようだ。
ましてや、衛兵の情報力だ。
向こうの世界でも、連中は噂話が特に好きだった。娯楽が制限される分、迷信深くなるのは仕方のない事なのだろう。こればかりは何処の世界も変わらないらしい。
お節介な衛兵の話によると、「ここでなんの当てもないなら冒険者ギルドに行くと良い」らしい。そこでなら、粗悪だが安価な宿や食事を提供してくれるだけでなく、冒険者としての身分も得られるとの事。
表通りから少し外れた処、裏通り、というには表通りに近いが、スラム街にほど近い――いや、スラム街との境界線上に立つ建物、そこに冒険者ギルドはあった。
≪蒼鳥の福音亭≫
この世界に来た時に、何らかの魔術にかかったのかどうかわからないが、この世界の文字が読めるようになっている。
差し詰め、公用語を獲得している状態、といった所だろう。
(ん――?)
ここで一つの違和感に気づいた。これは、どういうことなのだろうか。
いや、考えないと決めたのだ。変な事を考えてしまう癖は早々に捨ててしまわなくては。何の保証もないここでは、今目の前にあることに集中しなくては命に係わる。時間ならいくらでもあるのだ。これまでの事は放っておいて、これからの事だけを見据えよう。
年季を感じさせるが、よく手入れの出来た扉を開く。店内は、冒険者たちの喧騒で溢れかえっていたが、ユーゴが入店すると同時に、少し静まり返る。
新参者の顔、しかも見た事も無い服装をした人間が入ってきたのだ。値踏みをする冒険者が大勢いても不思議ではない。
受付らしい場所を見つけて、そこに向かう。そこにいたのは、そこそこに若く見える金髪の女性。見た感じは二十そこそこの年齢に見える。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが」
目の前の女性に来店の目的を伝える。彼女は営業スマイルを浮かべて、その言葉に返答をする。
「冒険者登録ですね、畏まりました。では、身分証となるものはお持ちでしょうか」
聞いていた話とは違う。が、身分証となるものを持っていない訳でも無い。貰った荷物の中に入っていたカードを提示する。
「これで、構わないでしょうか」
「王都発行の身分証ですね。では、これを元にギルドカードを発行させて頂きます。身分証をお持ちですので、ギルドクラスはEからの始まりとなります。それではギルドがカードを発行してまいりますので、少々お待ちください」
身分証を手に受付嬢は奥へと引っ込んだ。