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明くる日、朝日のまぶしさに目を覚ます。窓以外から差し込む光で目を覚ますのは非常に新鮮な気分だった。それに心なしか、空気が澄んでいる気がする。
コンクリートジャングルの排気ガスで薄汚れた空気とは違う、草木が光合成によって発生させる空気なのだろうか。
ともかくそんな空気を胸一杯に吸い込んで、大きく伸びをする。四方は昨晩安全の為に作成した、壁に囲われていて、周囲の風景は見えない。天井は念の為に自分が寝る所だけを覆っておいた。もし、天気が急変して、雨なんて降られた日には、とんでもないことになる。
王宮を出る前に渡された荷物の中に入っていた、幾ばくかの食料を取り出して口にする。
特別、不味い訳ではない。が、やはり保存食といった感じの味。これなら、向こうの戦闘用糧食の方が格段においしい。缶飯は案外悪くはない。
「さて、と」
一人暮らしが長かった所為か、呟く。
「収入を何とか確保しなくてはな」
十分すぎる路銀は貰っている。とはいっても、これで遊び惚けていてはすぐに底をついてしまうだろう。そもそも、この世界についての情報も少ない。
金の単位は聞いているが、この世界の物価についてなんて詳しく知らない。路銀が其処をつく前に、収入源の確保と相場の確認くらいはしなくてはならないだろう。
慣れない野宿に気だるい体を起こして、身支度を整える。やはり、体臭が気になる。この世界ではこの世界の文化レベルから察するに、風呂といったものは高級品か、存在していないものだろう。
不慣れな事ばかりだ。普段から出来ていたことが出来なくなる、なんて。当たり前、常識、そんなものがここでは通用はしないだろう。気を付けなければならない。
「そういえば、この力についても知らないと」
作成創造、その力がこんな壁を作るだけのものではない事は明らかだ。何かを加工する能力というのは想像に難くない。
同じ物質を別の形に変えるだけか、それとも錬金術よろしく、別の物質へと変化させる事が出来るのか。しかし、それだけでは創造という訳ではないだろう。作成という区分に入らないのだろうか。
だとしたら、創造の本質は何処にあるのだ。好きな物体や生命を好き勝手に作り上げる、なんて神にも似た行為を行える訳がない。
魔力、という概念を理解していない以上、それを考えを巡らせても仕方ない。
荷物を背負い、目の前の壁に掌を押し付け、壁を開いた。
初夏の風が、頬を撫ぜる。日差しが、肌に突き刺さる。新たな世界の一歩を踏み出すために、これから下準備を始める。それだけなのに、気分が酷く良い。楽しみで仕方ない。
忘れていた筈の心が、感情が動き出すのを感じた。