昨日、今日、明日
誰にでもないようで、きっとある
ただありふれたそんな、話
異世界転生。
まあ、使い尽くされた話だ。
ある者はトラックに、ある者は神様の手違いで、ある者は召喚されて、なんて。
その結果は様々だ。救国の英雄として呼び出される者、分不相応な力を与えられて問題を解決する者、あるいは受け継がれた記憶を用いて危険を回避する者……。
御伽話に良くある、斬新なようで使い潰された手段。物語を作る上で、切り出しやすい題材に過ぎない。
こと、現代においてそんな事は想像の産物でしか無く、娯楽の一つでしかない。ファンタジーだとか、メルヘンだとか、そんなものは夢物語の世界で終わっている。
その筈だった。
いつもと変わらない生活。朝起きて、出勤して、仕事をして、退社して、自宅に帰る。代り映えのない風景、人々、風。何の感慨も沸かない、日常。
だが、突如として「それ」は起こった。
混乱、その二文字しか言いようがない。
中世的で、余りに現代離れした内装。目の前には玉座に座った壮年の男性が一人。自身の足元には幾何学的な紋様。周囲を取り囲む甲冑を装備し、その手に槍を持つ兵士であると推察できる人々。
そして見慣れた学生服の知らない少年、少女達。
なんだ、これは。
「彼らが、勇者か」
壮年の男性が口を開いた。しわがれて、疲れたような、そんな声。
それを肯定する猫撫で声で、その隣にいた存在感の薄い、底意地の悪そうな眼鏡の中年男性が答える。
「ええ、そうです。聖女である、姫様のお力で異世界の能力者を召喚したのです」
言葉は何故か分からないが理解できる。理由ははっきりとわからない。メルヘンチックな理由なら、異世界転生の特典か何か、といった所か。
それが尚の事、思考を混乱させる。何故、話の内容が理解できるのか。そもそも、ここが一体どこなのか。
勇者、と壮年の男性が言ったのは聞こえた。
「お初にお目にかかる、異世界の少年少女……と男性よ。余の名はエスカリオール。この国の国王である」壮年の男性は困惑する異邦人に対して続ける。「突然の事で困惑している事と思うが、諸君らは勇者召喚の儀によって、この世界に呼ばせて頂いた」
勇者召喚、と来た。実に面白い、なんてほくそ笑む。夢でも見ているに違いない。そうとしか説明がつかないじゃないか。日常に溜まっていた鬱憤が、こんな形で夢幻として現れるなんて。
一度、精神科医にかかった方が良いに決まっている。こんなお伽噺を信じてはいけない。きっと一晩眠れば元通り。あの退屈な朝日が待っている。起きる場所は病院のベッドの上かどこかか。
惚けている当人をよそに、国王を名乗る男は続ける。
「この世界は今、魔王軍の脅威に晒されておる。今は未だこの国にまでその侵略の魔の手が及んでいないが、それも時間の問題だ。そこで、君たちには、この国をひいてはこの世界を魔王の手から救ってもらいたい」
目的は魔王討伐、ありきたりな展開だ。
「勇者召喚で呼び出された若者には、特別な力が宿るとされている。諸君らの力をもってすれば、魔王討伐も可能となるだろう……あれをここに」
手招きをすると、いかにもな神父服の男性が、硝子玉か水晶か何かの透明な球体を手に近づいてきた。
「これは、その者の持つ特殊な能力を表示するための魔道具となっている。順番に手をかざして行ってもらいたい」
断れない。断る理由が存在しない、というよりも寧ろ断ったら何をされるかわからない。そんな恐怖が少年少女たちを行動へと移した。
先陣を切った少年が手をかざす。すると頭上の何もない空間に映像が浮かび上がる。
〈カンザキリュウキ、十六歳、剣神の加護、絶技、肉体強化、魔力付与〉
四角の枠に端的にそれが表示される。
その能力が如何様な能力を持つのかは果たしてわからない。が、周囲の反応を見るとこれがどれほどのものかわかる。何せ剣神の加護だ。
神様の加護が付いている人間なんて本当に数えるくらいだろう。
成程、これが彼らがここに召喚された理由か。一人納得する。次々に能力が開示されていく中、ただ一人だけ年齢の離れた男が、その手をかざした。
〈ノジマユーゴ、三十歳、作成創造〉
それだけ。たったのそれだけだった。
初投稿。
基本的なルールは知っているけど、横書きだから許してください。なんでもしまかぜ。
これ、やった方が良いのかなぁ……。
縦だと読みやすいけど、横だとなぁ……。