満員御礼
今日は家族でドライブ。朝レンタカーで、ファミリーカーを借りてきた。
「おーい、借りてきたよ!みんな乗って!」
「はーい。」
嫁と娘と息子が大きなお弁当を抱えて乗り込もうとして。
「ねえ、この車、乗れないよ。」
「はあ?」
窓の外から嫁が声をかける。
俺が後部座席を確認すると、誰も…乗ってないぞ?
「みんな、みっちり乗ってて、乗り場がない。なんでこの車借りてきたん…。」
うちの嫁はたまにこういうことを言うからめんどくさいんだよ。
今さら変えてもらうわけにもいかないじゃないか…。
「狭いけど、私の軽で行こう。この車は返してこよう。」
結局、車を返しに行って、嫁の車で出かけることになった。
「すみません、今日この車レンタルしたんですけど、ちょっと…やっぱりやめちゃってもいいですかね。」
「ええと、車チェンジできますけど、どうします?」
嫁がほかの車を見ている。
「うーん、チェンジしたところで、今日は満員御礼みたいだから、いいや。ごめんなさいね、急にレンタルやめちゃって。」
レンタカー代13000円は、3000円でいいって言われたけど、散財してるなあ…。
「まあまあ、3000円なんてね、うちらで昼ごはん食べたらふっとんじゃう値段なんだから。今日はお弁当持ってきたからさ、それ買ったって思っとけばいいじゃん!」
「なんか腑に落ちないな…。」
「じゃああんたは弁当食うな!!!」
海辺の公園に行って、ひとしきり遊んで弁当を食べて家に帰ると、あたりが騒然としている。
幸いうちは混んでいる反対側の通路沿いなので、渋滞に巻き込まれることはなかったのだが。
いったい何があった。
「あら、お帰りなさい、さっきまで大変だったのよ、ここまで封鎖しちゃってね。」
お隣の小島さんだ。なんでも、レンタカー屋付近で、追突事故があったらしい。十三台巻き込んだとかなんとか。怖い話だなあ。もう。
「でも、あれだけの事故だったのに、けが人はほとんどいなかったんだって。逆にすごいよね。」
「それはすごい。」
小島さんの井戸端会議に巻き込まれた俺は、薄暗くなるまで逃げることができなかった。
「相変わらずよーしゃべるね、どうだった。」
嫁が俺の気苦労も知らずに、とっとと荷物を運んで飯を作り始めていた。こいつはいつもこうなんだよ、俺がコミュニケーションを取っているというのに、ことごとくスルーして逃げていく。
「なんか事故あったけど、死人もけが人もなかったんだって。」
「まあ、あれだけがんばってたら、そうだろうねえ…。」
ねぎをみじん切りにしながら嫁がつぶやく。
「頑張ってた?」
「レンタカーにみっちり乗ってた人たちが頑張ってたんだよ。人を乗せたらけが人出ちゃうから、のせないようにしてたんだね。」
俺はそんなの微塵も気が付かずに乗ってこの家まで来たわけなんだけど、その辺はどうなんだ。
「見えない人の方が多いのに無駄なことするなあ…。」
「無駄かどうかは、やってみないとわかんないじゃん。」
事故が起きなければそれが一番いいんじゃないのか。
「みんな流れを変えたいお節介が多いのさ。あのレンタカーが事故を起こさなかったら、でっかいトレーラーが、居眠り運転で突っ込んで…お節介の数がめっちゃ増えてた、かもよ。」
「ふーん、なんだかめんどくさいな。」
俺は嫁の目の前にあるでっかいトマトに手を伸ばして、がぶりとかぶりついた。うん、うまい。
「ちょ!!何勝手に食ってんだ!!!ミートソース用なのに!!!」
「あと一個あるじゃん。」
「足りないよ!!も~ちょっと買って来るかな…。」
嫁はぶつぶつ言いながら車庫の方に向かって行って…あれ。嫁が戻ってきたぞ。
「どうしたの。ついでにお菓子買ってきてもらおうと思ったのに。」
「満員御礼だった…。今日はケチャップで乗り切るわ…。」
俺は車庫をのぞく気は毛頭ないので、あと一つ残っているトマトを取って、リビングで食べながら晩飯を待つことにした。いやあ、トマトは美味いなあ。
「トマト食うなってば!!!」
「ケチャップで乗り切るって言ったじゃん…。」
「トマト使わないとは一言も言ってないわっ!!!」
嫁がプンプンしている。仕方がない、明日はトマトをひと箱買って来るか。
夕食ができるまでプリンでも食いながらテーブルで待っていようとリビングに行くと。
ああ、満員御礼だ。
俺の椅子に猫が二匹。嫁の椅子に猫が一匹。娘の椅子に猫が一匹息子の椅子に息子が一人。
どこもかしこも、満員御礼だな、おい。
俺はプリンを立ち食いしながら、夕ご飯の完成をまった。