続・息子が嫌がったので母親の私が勇者をやってみた【短編版】
プロローグ的な何か(https://ncode.syosetu.com/n0839el/)の続きです。
王宮の、謁見の間。
「本当に1か月で、主要都市周辺の魔物を殲滅してしまうとは…数年分の働きであるぞ!」
「国王陛下とのお約束でしたので。私の要望も聞き入れていただけますよう」
「無論だ。済まぬが、魔物の勢力がまだ落ち着いていない以上、もう一度来てもらうことになる」
「こちらこそ、望むところです」
元の世界にはマナがないからね。【リーインカネーション】が使えないよ!
他にもいろいろと便利な魔法を覚えたし、これでおしまいにするつもりはない。
いやまあ、各種殲滅スキルは元の世界で使う予定はないけど。たぶん。
「では、また1か月後に」
「うむ」
「俺は、横にいただけか…」
◇◇◇
「帰還ー!」
「なつかしの、我が家のリビング…って、母さんがなつかしくない!?」
「だーかーらー、この姿の時は『エリカ』と呼びなさい!」
「そんな話はしてねえ!その姿でこの家にいるのはまずいだろ!」
いやあ、実感したいじゃん、魔法がこっちの世界でも使えるってことをさ。
「まあ、しばらくはいいじゃない。あ、電波時計がホントに1か月後の表示だ」
「家の中は変わってないけど…大騒ぎになってるんだろうなあ」
「まあ、なんとかするわよ。電気とかは止められてないみたいね」
おお、水道もガスも止まってない!
「おふろおふろー!向こうにもあったけど、こっちの方が快適だからね」
「真っ先にするのが風呂かよ…」
「そりゃあ、うら若き乙女ですから!」
「いいから、もうその姿やめろよ…」
◇◇◇
「はー、気持ちよかったー。やっぱ、シャワーはいいわねえ」
「って、なんてカッコしてんだよ!?」
「もー、まだ言ってんの?いいじゃん、若く見える方が」
「そうじゃねえ!いや、それもあるけど、バスタオル一枚で家の中歩くの、やめろって言ってんだよ!」
そんなこと言ってー、視線が泳いでるよー。むふふふふ。
…あれ?他にも、視線がある?
「東雲…お前」
「皆藤!まずは説明させろ!ちょっと、というか、かなり難しいけど!」
「お前、Web小説の見すぎで、ついにコスプレ娘をさらってきて…」
「お約束の反応ありがとうな!でも違う!」
コスプレ?…あ、そっか、そうだったそうだった。
向こうの世界じゃ黒髪黒目は目立つってんで、偽装スキルで銀髪&青目にしてたんだっけ。顔つきは日本人だけど、カズキ曰く、違和感はないらしい。
「ああ、ごめんなさい。私はエリカ。説明する前に…【ストレージアウト】!」
収納されていたローブやら杖やらの装備一式を、一瞬で身にまとう。魔物討伐のための魔導士モードだ。
「うわあっ!?」
「というわけで、コスプレじゃないよ?皆藤浩人くん?」
「え、僕の、名前を…!?」
「カズキから聞いてたよ。幼馴染なんでしょ?」
数軒隣に住む、カズキと同い年の幼馴染。小中はもちろん、高校も同じところに進学する。
残念ながら、男の子だ!女の子だったら、実はカズキに気があって、私と修羅場になって…というお約束が期待できたんだけど!まあ、そこら辺は、これから始まるカズキの高校生活に期待しよう。
「ごめんねー、私が異世界からカズキを召喚して、こっちの世界で1か月ほど行方不明にさせちゃって」
「そんな、そんなことが…あ、お、おばさん、東雲の母親は!?」
「ああ、彼女も巻き込まれて転移したけど、あっちの世界が気に入ったから永住するって」
「永住!?」
そういうことにしとかないと、辻褄が合わないからねえ。
「ったく、口からでまかせを次々と…」
「なんか言った、カズキ?」
「べーつーにー」
うん、まあ、確かに今思いついたことだけど。でも、方向性は悪くないよね。
とりあえず、この設定でいってみようか。
「それで、か…エリカ、皆藤に聞いたけど、俺達の失踪は、マスコミが騒ぐほどでもなかったらしい。中学は卒業しているし、高校は状況待ちだったらしい」
「なるほど、入学式を過ぎたら本当にヤバかったか…。よし!」
ぱあああああっ
「え!?あ、お、おばさん!?」
「ううん、私はエリカだよ。偽装スキルで、カズキのお母さんの姿になったの!」
「(ぼそぼそ)皆藤って母さんの名前知らなかったっけ…。ほんっとに、口から」
カズキ、さっきからうるさいよ?
「じゃあ、説明とかしてくるね!カズキのお母さんから話は聞いてるから!」
◇◇◇
その日の夕方。
いろいろ走り回って、疲れたよ!
「警察行って身元確認して、会社行ってごめんなさいして、カズキの高校行って大丈夫だよって伝えて」
「警察や会社にはなんて言ったんだ?」
「何も?幻惑スキルかけてきただけ。『ハイソウデスカ』でおしまい」
「まさかの精神操作!?」
いやあ、私達の失踪がマスメディアに垂れ流されてたらヤバかったねー。
「会社は、次の連休までにがんばって引き継ぎして、それから退職の予定。退職金が結構出るよ!」
「そうか、母さんがあの世界に戻ったら、俺は基本的にひとり暮らしか…」
「嬉しい?寂しい?」
「…ノーコメントで。でさあ、母さんの今後について、ちょっと整理させてくれよ」
【事実】偶数月は元の世界、奇数月は異世界で魔物討伐を含むあれこれ
【皆藤】母親は退職してずっと異世界、魔導士エリカが偶数月に元の世界に出没
【世間】母親は退職して海外に引っ越し、たまに息子の様子を見に帰国
「信頼できる友達ができたら、皆藤くんと同じような対応にするよ!」
「犠牲者は少ない方が…イタい、イタいからっ」
ぐりぐり
「なによ、犠牲者って。別に爆裂スキル使うわけじゃないんだから」
「当たり前だ!」
あ、そうそう。
「そういえばカズキ、私、こっちの世界でも1週間以上、魔法が使えるかもしれない」
「なんで!?」
「いやあ、今日【リーインカネーション】あんまり使ってなかったでしょ?そしたら、MPがあんまり減ってなくて」
「なんということでしょう」
「寝てる時に元の姿でいれば、それほど減らないかも。まあ、【エクスプロージョン】数発撃てば残量ゼロに」
「撃つなよ?フリじゃないぞ?」
いやでも、私達の秘密を嗅ぎつけた各国諜報員が攻めてきたら!
「魔物討伐と一緒にするなよ…」
◇◇◇
カズキの高校の入学式。
保護者として参加したよ!
「どう?友達できた?」
「初日ですぐにできるかよ!まあ、皆藤がクラスメートになったな」
「皆藤くんの反応はどう?あれから会ってないんだけど」
「異世界についていろいろ考察してた。あいつ、そういうの真面目に考えるの好きだから」
ほうほう。ぜひ彼も異世界に連れていきたいね!
でも、月交替の転移だと、長期休業でも難しいよね。8月は偶数月だし。まあ、時々魔法を見せてあげよう。
「ていうか、母さんの方は友達とかいいのか?来月からずっと外国って設定なんだろ?」
「…十年以上前から、交流が途切れているわよ。アラフィフなめるな!」
「ひいっ」
ああうん、SNSで近況は把握してたけどね。数年に一度のペースで、同窓会する程度だ。
あと、職場では典型的な『お局様』やってたからねー。社長夫人とはなぜか時々お茶してたけど。
あとは…あの男かあ。あいつを友達カテゴリーに入れたくないけど、カズキのことを考えると、そうも言ってられん。まあ、必要になったら利用しよう。
◇◇◇
そんなこんなで、5月。
「準備おっけー!さー、来い!」
「あ、俺、リビングの外に出ないと。いってらー」
「むう、なんか冷たい…あっ!」
2か月前の時と同じ魔法陣が現れる。
「じゃあ、また来月―――」
◇◇◇
「勇者エリカ様、お待ちしておりました」
「おまたせー。魔物の状況は予想通りですか?」
「はい。特に、東の辺境でゴブリンの上位種が増加しております」
ゴブリンかー。お肉、おいしくないんだよねえ。
「じゃあ、討伐の準備しますね。部屋は同じところですか?」
「ええ。ああ、その前に、国王陛下にお会い下さい」
「国王に?」
「再召喚の御報告と、それと…エリカ様に、縁談のお話が」
…はい?
これ以上続けるなら連載化だなあ。短編分もいろいろと記述を補完しなければならないし。ネタはあるけど…気が向いたら連載化します(読者の反応をまるっと無視)。
<登場人物まとめ>
◯皆藤浩人
カズキの同い年の幼馴染。残念ながら、男の子。恋愛沙汰より考察が好きな、ブレーン的ポジション。元の世界での話が広がっていくなら活躍するかも。
◯『あの男』
金と地位がある誰か(おい)。異世界側が割と善良な人々しかいないという脳内設定なので、元の世界における異世界侵攻ポジションになるかもしれない。ならないかもしれない。