2町へ
それからカラスは、町に住みつきました。
カラスは黒くてカーと大きな声で鳴くので、他の鳥ほど好かれはしませんでした。明らかに嫌われていると分かることも多かったのです。でもカラスは負けませんでした。賢い鳥になりたかったからです。
カラスは食べものを得るために、何か仕事をしようと思いました。ただ恵んでもらっているだけでは賢いとは言えません。横取りするのはもっとダメ。ですから、カラスなりに考えて、正しいまっとうな方法を考えなければなりません。
カラスが考えたのは、交換という方法でした。
まずカラスは高い木に咲いている綺麗な花を摘んできました。人間には取れないところの花ですから、人間はあまり見たことがないでしょう。
その花をくちばしに咥えて、広場に下りました。広場の前は人間がよく通ります。カラスが綺麗な花をくわえて立っているのを横目に見ながら通り過ぎました。
そこへ小さな子どもを連れた母親がやってきました。
「綺麗な花ね」
カラスは花をそっと地面におろし、言いました。
「高い木から摘んできたんだ。何かと交換してやろうか?」
「交換?そうねぇ、今こんなものしかないけど」
母親は懐から金平糖を出しました。
「いいよ、換えてやるよ」
カラスは金平糖を受け取り、きれいな花を母親にあげました。
金平糖か。色とりどりの星の形。
カラスは嬉しくなりました。しかし、金平糖はおやつですから、カラスのお腹を満たすにはちょっと足りません。
カラスは、金平糖を足元に置いたまま、まだ立っていました。
「おや、金平糖だね?」
と、カラスに声をかけてきた人がいました。おばあさんでした。
「きれいだろう。何かと交換してやろうか?」
「交換?今、こんなもんしか持ってないよ」
おばあさんはそう言って、缶詰を出しました。缶詰なんて珍しい物、カラスは初めて見ました。ただ、それが何か異国の文字が書いてあってすごいものだということはわかりましたが、中身が何かはカラスにはわかりませんでした。でも、カラスは言いました。
「いいよ、換えてやるよ」
カラスは缶詰を受け取り、金平糖をおばあさんにあげました。
いくら珍しいものでも、カラスに缶詰が開けられるでしょうか。
カラスは缶詰を足元に置いたまま、ちょっと途方に暮れていました。
すると背の高い紳士がやってきました。
「おや、缶詰とはまた珍しい物を。どれ?」
紳士は缶詰を手に取るとしげしげと眺めました。
「ふむ、ポークウインナー・・・うまそうだな」
「そうだろ?何かと交換してやろうか?」
「交換?そうだな、じゃあ、この異国の切手集はどうだい?」
「良いよ、換えてやるよ」
紳士は異国の美しい模様の切手が入った薄い冊子を置いて、缶詰を持っていきました。
カラスは切手をくわえて、飛びました。誰か切手を欲しがっている人がいないか、上空から探すのです。広場で立っているだけでは見つからない人も見てみたかったのです。
すぐにカラスは良い人間を見つけました。
「どうしよう、息子の土産が決まってない!」
と焦っている、ひげのおじさんです。カラスはひげのおじさんのそばに下りて行き、こう言いました。
「おじさん、この切手集はどうだい?異国の珍しい柄のものばかりだよ」
おじさんは大喜びでした。ちょうどこういう珍しいものが欲しかったのです。
「おお!素晴らしい。ぜひそれを譲ってくれないか」
「いいよ、何かと交換なら譲ってやるよ」
「そうだな、だったらこれはどうだい?」
ひげのおじさんは、宝石のついた指輪を見せました。キラキラ輝いてとても綺麗です。カラスはこういう光っているものが大好きなのです。
「いいよ、換えてやるよ」
交渉成立でした。