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1黒いカラス

 真っ黒なカラスがいました。

 カラスは優しい両親とたくさんの兄弟がいましたが、

「俺は才能があるんだ。こんなところにいられるか」

 と言って、家を飛び出して行きました。

 確かにカラスには才能が有りました。黒いカラスにしては珍しく優雅に飛ぶことも、速く飛ぶことも上手でした。それは彼の両親が教えた飛び方でしたが、彼は自分の才能だと思っていました。



 山を越えた向こうでは、鳥たちの競技が行われています。年に一度鳥たちが飛び方を競い合うのです。ただ速く飛べれば良いのではありません。正確に速く、そして優雅でなければなりません。カラスは早速その大会に出場することにしました。

「おや、珍しい。カラスが出場なんて」

「あんなに黒くて、くちばしも太くて不格好なのに、どんな演技ができるか、見ものですね」

 そういう風に囁かれていました。でも、誰もカラスに面と向かって言う者はありませんでした。ただ、カラスが見る限り、出場するのはワシやタカのような猛禽類が圧倒的に多く、あとは白鳥のような大型の水鳥、それからハチドリのような小型で色の綺麗な鳥ばかりでした。どの鳥も精悍で形も良く、色も美しい鳥ばかりでした。カラスのような真っ黒な鳥などいませんでした。

 しかしカラスは自信がありました。黒には黒の美しさがあることを知っていたのです。



 大会が始まると、カラスはたくさんの拍手をもらいました。本当にカラスは飛ぶのも速く、そして優雅に飛んだのです。ですから、その黒い色など関係なしに、たくさんの観客が惜しみない拍手をくれたのでした。

 カラスは嬉しくて鼻高々でした。

 順位は初出場にもかかわらず、なんと4位でした。立派な成績でした。

「君は誰か良い師匠がいるのかい?」

 準優勝をした大きなワシに聞かれて、カラスは驚きました。師匠?そんなものがあるとは思わなかったからです。でも考えてみれば、こんな大会に出るのなら、先生がいて然るべきです。そうか、俺も誰か先生を探そう、と思いました。

「いいや、俺には師匠はいない。君は誰についているんだい?」

 カラスはワシに聞き返しました。

「俺かい?俺は西の渓谷に住んでいる老ハヤブサに習っているんだよ」

「へえ、西の渓谷ね。ふーん、良い先生かい?」

「良い先生だよ」

 そういうことで、カラスはワシと一緒にその老ハヤブサに飛び方を教えてもらいに行きました。



 半年ほどワシと一緒に老ハヤブサに飛び方を習い、カラスはすっかり飽きてしまいました。老ハヤブサは言うことは正しいのですが、正しすぎて窮屈なのです。それにカラスは猛禽ではありませんから、師匠の言うことの半分くらいしかできなかったのです。

「もういいです、師匠。さようなら」

 そう言って、老ハヤブサの元を離れました。

 でも、老ハヤブサに教えてもらったことは無駄ではありませんでした。



 カラスは、家族とも離れ、鳥たちとも離れ、行くところを求めました。そして気づきました。

人間のところに行ってみよう。人間はとても賢いと聞く。気を付けなければならないとも言うが、それは見てみなければ分からない。

 カラスは自信がありました。

 家族の中では抜きんでて頭が良かったですし、鳥たちの中でも半年前の大会で、初出場で4位になれたくらい、何をやってもよくできたからです。とてもただの動物と慣れ合うには、このカラスは飛ぶのもうまく、頭も良すぎて、いられなかったのです。ですから、人間のところに行くというのは、とてもいい考えだと思いました。



 山を越えて行くと、人間の住む町がありました。狭いところにちまちまとたくさんの木でできた家がつながっていて、屋根を見て飛んでいるとごみごみとした道にはたくさんの人間が歩いています。

 ガランガランと鐘を鳴らして走りながら「はいきゅー」と叫んでいる人間がいました。その人間は広場に走り込んでいき、やってきた人間に魚を渡していました。

「あんなふうに、無防備に魚が置いてある」

 カラスは良いものを見つけたと思いました。広場に置いてあるならサッと飛んで行ってかっさらってくればいいのです。

 カラスはスーっと飛んで広場の上にさしかかり、そして急降下して、いくつも広げて置いてある魚をくちばしで取ろうと思いました。

「あ、カラス!」

 あの鐘を鳴らしていた人間がカラスに気づきました。そして予め準備してあった棒を振り回しました。

「あぶね!」

 もう少しでカラスに当たってしまうところでした。

 魚はただ無防備に並べられていたわけではなかったのです。人間は泥棒が来たらちゃんと対応していたのでした。カラスはそれに気づき、なるほど、と思いました。人間は確かに賢いもんだ。じゃあ、どうするか。

 カラスが広場を観察していると、広場には入れ代わり立ち代わり人間がやってきて、魚を数枚ずつ受け取って、自分の持って来た皿や容器に入れて立ち去って行きました。そうこうしているうちに、魚はなくなってしまったのです。

「なんだよ」

 カラスには何が何だか分かりませんでした。でも、なんだか急にひもじくなって、広場に下りて行ってウロウロと歩き回りました。何か残っていないかと思ったのです。

 鐘を鳴らしていたあの人間がカラスに気づきました。人間は魚の広げてあったむしろをくるくると巻いて、もう店じまいのようです。

「おや、カラス。さっきのカラスか。配給の魚を獲ってはダメだよ」

 人間が言いました。人間はあんまりカラスのことを怒っても嫌ってもないようでした。でも、カラスはそんな風に他人に言われたことがなかったので、叱られたと思いました。

「お腹が空いてたんだよ」

 カラスは人間に言いました。これが精いっぱいの言い訳だったのです。

 すると人間は大きなわっぱのふたを開け、中から魚を出し、半分にしてカラスに放りました。

「しょうがないな。ホレ、俺の半分やるよ」

 カラスは驚きました。あんまりにも驚いて、声にもなりません。人間と魚を交互に見て、そして放ってもらった魚をくわえると、何も言わずに飛び去りました。

 獲ろうとしたら棒で追い払われたのに、腹が減ったと言ったらくれたのです。なんなんだ、人間ってなんなんだ。

 カラスはよくわかりませんでした。動物は自分の獲物を他種族にあげたりしません。

「こんなにたくさん」

 大きなアジの半分を食べながら、カラスは変な気がしました。

 でも、分かったこともありました。人間は、動物とはやっぱり違うものだということです。彼らは話をすることが必要なんじゃないでしょうか。

 カラスはあんまり他人と話すことが得意ではありませんでしたが、ちょっと人間との暮らしに興味がわきました。ここで、話すことを覚えよう、と思いました。


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