死にたい主人公が不死身な話(in予備室5)
ーー風がやんだ。
僕は右手に持っていたシャーペンを机の上に転がし、床を蹴って椅子から立ち上がった。 呆気にとられている教師を横目に、そのまま窓に向かって駆け出す。無人の机は気にせず開け放たれた窓への最短距離を行く。
1歩、2歩、3歩……!!
落下防止の為なのか、申し訳程度にそこに在るポールに足をかけると、見えるのは青々と茂る木々と、どこまでも続く青い空ーー
そして眼下に広がるのは、コンクリートに彩られた……
僕の人生の終着点ーーー
地上24m。下手したら死なない高さだ。
恐怖は全く感じなかった。あるのは少しの期待だけ。
脚に力を入れ、強く蹴り出す。
景色か逆さになり、一瞬訪れる浮遊感。
木々がざわめく。風が心地よい。
視界が灰色でいっぱいになる。
死への期待と喜びが僕の身体を満たす。
今回は逝けるかもしれない……!!
『ゴッパァァン!!!』
血だまりの中から、僕は生まれた。
修復不可能なダメージを受けると、身体の組織全てが1から作り直されるらしい。
何度も味わった、無から有が生み出される感覚ーー
〝僕〟が消えて〝僕〟になる。
気がつくと、あったはずの血だまりも飛び散った肉片も、跡形もなく消えていた。
ため息が漏れる。既になれつつある、何度目かわからない底知れない絶望ーーー
「……また死ねなかった」
END