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最近降っていなかった雪が薄く積もっていた。長の屋敷の庭は、白銀に染まり目が痛い程明るい。
「長に頼まれたのは夕方だから今日は買い物でもいくかなぁ~」
背伸びと欠伸を一緒にしてからいつもより着込んで街にでた。
「おぉ~、人がいっぱいだ」
明後日から正月だからだろう。大量の食材を買う人やここぞとばかりに売る商売人でごったがえしていた。
「どこか小物屋に入ろうかな」
そして近くにあった小物屋に入った。見たことある二人組が店主に突っかかっている。案の定兄貴の方の顔は擦り傷だらけだった。
「おい!俺が買おうとした牛の置物の首がぐらぐらしてるんだが不良品じゃねぇのか?」
本人達は気づいてないのだろうみんな笑いをこらえている。
「その置物は…首が動かない方が不良品なんです…。首がうごかない…ほうがいいならこちらがよろしい…かと」
耐えろ店主いくらおかしくても。それにしても無知とは恐ろしいな。
「俺はなぁ!赤が好きなんだ。それなのになんで茶色の地味~なの買わなきゃいけないんだ。帰るぞデュラ」
兄貴が後ろを向いて僕に気づいてしまった。
「あっ、お前この前の語り手!お前に礼をしなかったから親分に叱られちまったじゃねぇか。デュラ!お前はそっちにいけ挟み撃ちにするぞ」
急いで逃げ出して馬鹿だから逃げ出せるとおもったが馬鹿でも考える頭があったか。
「へい!」
そんなこと考えてる暇なかった!必死に走ったがどうしてもまけなかった。
「どこにっ…逃げ…ればっ」
開いている店があったので急いではいった。
「語り手はっどこに入った!」
「兄貴っ…たぶんあすこです」
語り手を追いかけ二人ともへばっていた。だからデュラが指差した方向を見てものすごく怒鳴った。
「こんなとこいるわけがねぇだろ!」
怒りの矛先はデュラの頭でデュラの視界に昼間なのに星が飛び交う。
「痛っ!殴るこたないでしょ兄貴。そこ以外み~んなしまってる」
「仕方ない入るぞ」
「へい」
二人は入ろうとした先を意気込みとにやつきが混じった顔で中に入る。だが悲鳴が聞こえ鴉が熱湯からあがるよりも短い時間で兄貴とデュラが出てきた。
「もう二度と女の服屋に入ってくるんじゃないよ!」
「「もう二度と入りませ~ん!!!!」」
体格の良いおばさんらが拳を握りしめ二人を追い返す。二人は、蜂に刺されたような顔になって馬並みの速さで逃げていった。
「あの二人は行ったよ。語り手さん」
おばさんが店の中に視線を戻すと語り手がいた。
「助かりました。ありがとうございます」
「いいの、いいのあんな奴らに入ってこられるの嫌やし」
「そうそう、でも語り手さんは美形だからいいわよ」
「もう杏ちゃんたらっもういい歳なのに」
奥さま方の話は終わりを見せない。
「あの…もう二人組もいなそうなのでおいとましま…」
「まだいるかもしれないでしょ!そうだわ良いこと考えた。杏ちゃん、梅ちゃん」
あの二人組に起きたことから考えると戻って来る筈がない。僕がやられたわけじゃないのに考えるとそわそわする。だがその間にもご婦人方が何やら話始めた。時々こちらに向けてくる視線がちょっといたい。
「ねっ!いいでしょ」
「面白いわね」
「そうだけど大丈夫かね…?」
「大丈夫よ!ということで語り手さん掴んどいてね♪」
いきなり両腕を掴まれた。少し力を入れればふりほどけるが師匠の言葉に反しそうだ。
"どんな状況でも女子どもに拳をふるうな"
師匠…………こんな状況の時もですか?
「語り手さん……お似合いです」
彩明は手で隠したいるけど、笑っているくらいわかってるよ。むりやり女物を着せられて僕はもう疲れた。
「おば様方に捕まって女装させられてるの黙って見てただろ。店の戸口から笠が見えてたぞ」
「私は戸口じゃなくて…」
鎌をかけたがうまく引っかかったようだ。彩明は、誘導系の尋問が苦手らしいな。
「じゃなくてってことはいたんだね」
「いましたが屋根の上です」
「屋根の上!?」
「見晴らしがいいのと日向ぼっこにいいんです。語り手さんもしますか日向ぼっこ」
「遠慮しとくよ…」
「そうですか?……早く長の屋敷に戻った方がいいですね」
彩明が後ろに視線をやりながら答えた。
言われなくとも視線が僕に向いてるのはわかっている。あのおばさま達は、こんなもの着せやがって。
「着替えられそうな場所はここらにはないしな…。でも長の屋敷にこんな格好で入りたくない」
「あそこの店の厠で着替えたらどうですか。私が周りを見張りますから」
「彩明…君は僕を女の厠に入れるつもりかい?」
「……………っ!……忘れてました」
「地味に傷つくな」
「すみません」
顔を伏せてとぼとぼ歩いてるのが怒られた子犬みたいだな…。可哀想な気がするけど面白いしそれが可愛らしい。視線を周りに移すと見覚えのある屋敷が見えた。
「ごめん大丈夫だから。それにいつの間にか長の屋敷についてしまったし」
「本当ですね…。ではお気をつけて」
彩明はどこかに走っていく。気が立っていたとはいえきつい態度だったかな。
「お詫びに語り終わったら食事でも誘うか。うーん…、でも好きな食べ物わからないし」
夕餉に出るために僕は別の服に着替えいた。
「立派な服ですね?何か特別なことでもあるんですか」
「うわっ!突然ですね彩明」
戸口に彩明が立ってこちらを見ている。僕の恰好に興味津々のようでまじまじと見ている。
「そうですか?それよりその格好は…?」
「これから貴人の前で語るので私が、今もっている中で一番綺麗なものを着たんですよ」
いつもの荒い麻でなく棉の青地のものを着ている。ちゃんと洗ってコテも借りてきちんと整えた。
「もしかして青が好きなんですか。着物も耳飾りも青ですけど…?」
「そうだね、青を見ると落ち着くから好きだよ。彩明は何色が好き?」
「……わかりません」
「どうして?」
そういったら彩明は目を見開いてこっちを見た。何を驚く必要があるんだ。
「初めて私に理由を聞きましたね」
「そうかな?」
「私が竜滅物語を語って欲しくない理由、私を護衛として雇うのに素性も聞きませんでした」
「人には言いにくいこともあるだろうからね」
「それはどういう意味ですか?……人が来たみたいなので出て行きます」
彩明が部屋からでて少しすると驍燿が僕を呼びに来る。
「高貴な身分のかたですから失礼なことをしないでください」
「わかりました」
僕は、そんなことで取り乱すほど馬鹿になった覚えはないよ。
驍燿についていくと広い立派な部屋にでた。戸口の側で土下座をする。
「語り手只今参りました」
「礼儀をわきまえているようだが、それでは語っていても聞きづらい面をあげよ」
腹にのしかかるような低い声が上から聞こえる。頭をあげたら岩が人間になったらこんな顔だろうという人がいた。それにしても兄弟のくせに似てないな。
「おなごのような顔立ちだな。まぁいい、語り手何か話をしなさい」
女顔の発言は、岩みたいな顔よりはいいから許す。
「すみません、僕はまだまだ若輩者で初めて会ったかたに何を語ればよいかわかりません」
「面白い……でも確かにそうだな。なら竜滅物語を語ってくれないか?一番有名な話だ出来ないわけあるまい」
うっ、三日前語らないって約束したばかりなのに。
「どうした?わからないわけではあるまい」
「……出来ません」
「何故だ。よもや語り手でないとでもいうか?」
なんて言い訳しようかな…。
「僕は語り手です。他の物語なら喜んで語らせていただきます。今日は雪が美しい夜ですから雪に関するものは如何でしょう」
「雪か…最近は忙しくて雪や月を愛でる暇がなかった」
顔に似合わず風流なことする人だな。
「では語らせていただきます………」




