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昨日の場所に行くと何人かの子ども達が集まっていた。その中でも一番体が大きい男の子が、体をばたつかせて聞きたがった。
「ねぇ、ねぇ!今日は何の話をしてくれるの!教えて教えて!」
「ごめんね。大人が来るまで待っててね」
「いーや~だーーーー!聞かせろよ男女!」
僕の中の何かが完全に切れた。
「男女……わかった。語ってやるから黙って座れ、餓鬼」
子ども達は、期待に胸を膨らませいっせいにあつまり座った。
「今からするのは子ども限定よーく聞け」
「おっ、珍しいお前が黙って聞いてるなんて」
来たのは今朝の辛麺売りの店主だった
「私が物語を語ったら大人しくしてくれましたよ」
「へー、海より広いわいの器量でもうるさいこいつがかい?」
そう言って息子と僕をまじまじと見た。
「どんな物語を話したんですかい?こいつ黙らせるのに聞いときたいですなぁ」
「子ども限定なので大人は駄目です。そうですね……大人一人千元ならいいですよ」
辛麺の店主は目をひんむいた。
「おいおい、そしたら歓楽街で一日遊べるくらいの金額じゃねぇか!」
「あんた何で歓楽街でどれくらいかかるのか知ってるんだい?」
店主の奥さんらしい綺麗な人が恐ろしい顔で店主の耳をつねっていた。
「イッ!イタタタッ!この前仕入れと偽って行きましたぁ!」
「もう行かないでしょうね?」
「はい!」
「よろしい」
そう言ってから耳から手を離すと、店主はつままれた方の耳を押さえた。ついでにちょっと涙がでている。
「ただし!」
「なんだよ母ちゃん」
「商売人なら値切り交渉して語って貰う為の代金安くしてもらいなさいな。できるでしょ私が惚れた人なんだから」
「わかったやろうじゃないか!つぅわけで一人五百園でどや!」
「安すぎです。一人九百元がいいところです」
「なら一人七百園!」
「一人七百元」
「一人八百園でどや!?」
僕と店主が言い値を争っているうちに、僕と店主を中心とした集まりができていた。集まってきた人は、店主を応援し僕に値切りしろと怒鳴ってきた。
「一人三百元より僕は下げませんよ」
「それじゃあみんなあわせてニ千元でどうだ!」
「………仕方ありません。それで手をうちます。でも必ず払ってくださいよ」
そして街中に響くような大歓声が起きて店主は、周りにいた人たちに胴上げされてた。そんな中楽しそうだが心配げな顔をした人が一人だけいた。辛麺屋店主の奥さんだった。
「語り手さん‥‥わざと値段と必ず払うことを約束させたね。まったくあの人もいつもだったら気がつくだろうに流されて…」
「なんのことでしょうか?」
「話す気がないならいいわ。でも面白いものみたしお代としてこれどう?」
手渡されたのは中指ほどの空色の石。昨日みた笠の少年の瞳の石を思い出した。
「これは‥‥‥?」
「私もよく覚えてないけど…私の父親が、西の民から買ったターなんたらって石…確か守り石?まぁあげても大丈夫なやつだから気つかわなくていいよ」
「いただきます」
「語り手さん!早く語ってくれよ。みんな待ってるぞ」
確かにさっきの騒ぎは収まり静かにみんな待っていた。
「はい、それでは……」
語り終わり長の屋敷で茶を飲んでいると僕は話しかけられた。
「語り手様いらっしゃいますか」
「はい」
「長が語り手様とお話したいそうです。いま暇でしたら入れていただきたいと思います」
「大丈夫です。でも長の座る椅子がありませんので出来れば持ってきて頂きたいです」
「かしこまりました」
そして侍従が椅子をもってきたあと長が部屋に入ってきた。長が座って話を切り出すのをまった。身分がしたの者が先に切り出すのは不敬だからだ。
「語り手さんここは、あなたの為に貸した部屋ですから私に仰々しくしなくてもいいですよ」
「師匠の教えで"上の方には、丁寧に接っしなければならない"と言われてきました。今もこれからもこの教えは守っていくつもりです」
「ずいぶん厳格な師匠だったのですね」
「はい」
返事をしたが肝心の話がよめない。仕方ないので自分で切り出すことにした。
「長、僕に話があるとお聞きしたのですが」
「そうでした。明日私の親類が、ここを訪れるので夕食の際語ってもらいたいのです」
正月をこっちで過ごすつもりなのだろうか。
「承知しました。しかしそれくらいのことなら侍従に私へ言付けをさせればよいのでは」
「私は代々官僚がでる家系で生まれたのでどういう経緯で語り手になったのか不思議なんです」
まぁ見た目どおりで意外性がないけど、箱入り娘ならぬ箱入り息子なわけね。
「僕は孤児で記憶力が良かったので師匠に拾われました。十五の時、師匠から離れて一人前の語り手になりました。そして今にいたります」
僕の話が短すぎて長は不服らしい。家鴨のような口をしている。女がするなら可愛いが20代後半の男がやるな
「それでは他の郷の話を…」
長が質問しかけた時声がした
「失礼いたします」
そして中に入ってきたのは、昨日僕を睨みつけていた侍従だった。侍従は、僕を完全にいない者として長に話かけた。
「明朝に狼千様がお着きになると使いが来ました。勝手ながら明日の為にご就寝していただいた方が……」
長は、どこにそうんな力があったのかそこそこ大きい侍従を殴り倒した。さっきは、虫も殺せない顔でなくまるで茹で上がった鮹のような顔をしている
「私に指図するなんてお前も偉くなったなぁ?驍燿。行き倒れてた上に記憶のないお前を置いてやってのは誰だと思ってる!」
侍従は、驍燿っていうんだ。でもどこかで聞いたことあるような。
「すみません…前お聞きした話では狼千様は、厳格で礼儀正しい方だとお聞きしたので……」
「まぁ……大兄は私がいなかったり遅れれば怒りますね…。そうでもなければ尚書になれぬか…」
侍従の弁明を聞くうちに長は、だんだんもとのように大人しくなった。それにしてもなんの尚書だろうか?長はこんな頼りないのに兄は、尚書なんて面白い。
「語り手さん今日はもう私は寝ます。騒がしてすみませんでした」
長はとぼとぼ出ていく。そして驍燿は、僕に悪態をつき僕の耳飾りを引っ張った。
「貴様早くこの郷からでていけ目障りだ」
「いー…いたたたっ!」
言いたいことだけ言って驍燿は出て行った。まったく耳飾りを引っ張るなんてひどいじゃないか。それに出て行けなんて。
「それは無理だよ」
「だっ大丈夫でしたか?」
戸口に彩明が立っていて驚いた。気配無く現れると心の準備ができないというかなんというか。
「突然入ってすみません…でも気になったことがあって」
「気になったこと?」
「語り手さんは本当に語り手ですか」
「僕は語り手ですよ」
「気のせいならいいです。良い眠りを………」
彩明は部屋から出ていく背中を見ながら呟く。
「僕はとりあえず語り手ですよ彩明」




