表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
りゅうの娘  作者: 猫田33
34/36

11

「語り手起きているのだろう?妾と話をせんか」


牢の外からヤーミ姫の声が聞こえた。


「話?何を話すのですか」


とりあえず姿勢を正してヤーミ姫に向く。


「妾と夫婦になるかという話じゃ。気が変わったかの」


「変わっていません。早く僕を元の世へ返して下さい」


僕は、彩明達がいる世界に帰りたい!


「嫌じゃ!何故妾と夫婦になりたくないのじゃ!?」


「心に決めた人がいます。だからヤーミ姫と夫婦になれません」


「口からでまかせを申しただけであろう」


「ヤーミ姫の兄君のお膝元でそんなことするわけがありません。話がそれだけなら帰って下さい」


少々きつめの言い方をしたが致し方ない。僕を諦めてもらわなければならないのだから。


「あと、語り手に逢いたいという鬼がおる。連れて来て良いか?」


誰だ‥‥?


「名前は?」


「さぁ、調べてないからわからんの。師匠と言えばわかると言っておったが?」


師匠!?

そういえばここはあの世だからいるのは当たり前か。


「わかりました。会います」


「特別なおなごかの?」


「はい。僕の師匠です」


ヤーミ姫は、難しい顔を浮かべた後に奥に戻った。


「師匠‥‥‥」


もし本当に師匠だったらどんな顔をして会えばいいんだ。師匠が亡くなった前の日しょうもないことで喧嘩していた。確かおいしい饅頭を一人で食べたってことだった気がする。


「会うと言ったはいいけどどうしよう」


頭を抱えてみるが答えが出るわけがない。


「会った時は挨拶が基本だと何度も言っただろう」


「そういえば師匠がそう言って‥‥‥。師匠!?」


頭を上げれば懐かしい師匠の姿があった。


「なんだ?化けて出たみたいな顔して。そういえば化けてでてるのと同じかこれは」


「師匠!」


思わず抱きつこうとしたら師匠をすり抜けてしまった。


「馬鹿じゃないか?私は体がないんだぞ」


「そうでした」


自分が迂闊すぎる。僕もっと冷静な性格だと思ってたのだがそうでもないらしい。


「うーん?前より素直だな。それにしても大きくなったな」


「はい。師匠よりは大きくなりました」


最後に会った時、師匠より少し低い位で今は僕の方が高い。そしてそれは、年月が経ったということでもある。


「師匠は今幸せですか?」


「餓鬼の癖に一丁前のこと聞きやがって‥‥‥。心配せずとも私は幸せだ。前と違って笑顔が見れる仕事をしてるからな」


「笑顔?」


「こっちでも語り手の仕事をしている傍ら思いを運ぶ仕事をしている」


「思いって運べるものなのですか」


思いなんて目に見えない代表例だと思うが‥‥?


「亡くなった者への涙や贈り物を私が運ぶんだよ。毎年花をあげるだろう?私はそういうのを相手に運ぶんだ」


「僕があげていた花は師匠に届きましたか?」


「あぁ毎年ずいぶん綺麗な花をくれたな!でも私的に今年の蒲公英の方が好みだ」


死んでも蒲公英の方が好きなのか師匠。


「って、のんびりしてる暇なかったんだった!はい、これとこれ!」


師匠は煙管と沓を渡してきた。煙管には精緻な文様が描かれていた。沓は、履き古して足を入れたくない代物だった。


「何ですかこれ?」


「煙管の名前は知らないがそれを吸ってる間はここでも肉体を保てる。沓は確か韋駄天の沓だ」


「韋駄天!?あの足が速いことで有名なあの韋駄天の沓??」


「そっ、でその沓を履いて煙管を吸って元いた所も行けるように思って走る。そうすればこの世に戻れるよ」


「なんで知って‥‥」


「質問は帰ってからしな。今から座敷牢を開けるから走りなさい。五、四、三、二、一‥‥それ!」


僕は、外に出た。外にいた鬼は驚き僕を捕まえようとしたが手が届かなかった。


「師匠!今までありがとうございます」


僕は師匠に頭を下げた。


「いいからとっとと行きな!」


師匠が鬼を抑えこんでくれている。僕は、それを見て走り出した。だが近くにいたらしいヤーミ姫に見つかった。


「語り手!逃げるのか!?それほど思い人がいいと?」


「はい。一度しかない命をかけるなら彩明がいい」


彩明の笑顔、優しい顔、驚いた顔、泣いた顔、怒った顔の全てが愛おしい。

綺麗な黒髪や白桃のような頬に触りたい。

時間によって変わるあの瞳をもう一度見たい。

なにより彩明の返事が聞きたい!


「いくら僕を捕らえても僕の心を捕らえているのは彩明だけだ!」


僕がそう言い切るとヤーミ姫は僕を指差した。


「そうか‥‥ならもうよい。どこにでも行け」


もしや諦めてくれたのか?と期待したがまだ続きがあった。


「その代わり妾と同じ死ねない苦しみを与えてやる!」


はっ?






‥‥僕


「語り手さん!語り手さん!目を開けて下さい‥‥。うっぅ」


‥‥‥死んだ?


「語り手!彩明ちゃんが泣いてるんだ。起きろ!」


ヤーミ姫に何かされて死んだのか僕は?


「私の戴冠式見るって言ったわよね!?主にまで嘘吐くつもり‥‥?」


でも皆の声聞こえるだけいいかな。僕一人じゃない。


「語り手さん‥‥」


手に温もりを感じる‥‥。ちょっと‥いや‥‥かなり。


「いたたたっ!痛い痛いから彩明!手離‥‥‥」


離して欲しいと言おうとしたら彩明に抱きつかれた。前にもこんなことあったな。


「よかっ‥‥た。生きてて‥本当に‥!今度こそ死んでしまったかと思いました‥」


「毎回毎回心配かけてばかりみたいですね僕」


「本当にそう。みーんな心配して来てくれたのよ?」


「みんな?」


周りを見渡すと蓉歌様、驍燿、張平、住職を始めとする不撓寺の連中、成夫妻、林夫妻、りゅう、サン、翔。なぜか劉と悟りなどなど部屋に収まりきらないほどの人?達がいた。


「俺は語り手が心配で来たわけじゃない。傷心の彩明ちゃんを慰めに来ただけだ」


「俺は琥珀に会いにきただけだな。それに人間の悲しむ顔がすきだしな」


「二人とも不謹慎っ‥‥舌‥‥噛んだ‥」


なんだか相変わらず五月蝿いですね。


「でも住職達はなんでこんな所まで?寺はどうしたんですか」


「一番若い連中に任せてきた。まぁ、いい経験になるだろう。それに娘の晴れ舞台だぞ見に来ないわけないじゃないか」


住職の親馬鹿も相変わらずだ。


「ぐすっ、語り手さん体痛い所ありませんか」


「あぁないよ」


彩明の目を見ると一番最初にあった頃と同じ蒼い目だった。でもその蒼い目が温かに見えるのは気のせいかな?


「語り手さん」


「んっ?どうしましたか」


「私‥語り手が‥‥すっ」


まさか待て待て!みんなここにいるんだぞ??


「ちょっと待った!言いたいことはわかったけど今は駄目だ」


すると珍しく彩明がむくれてそっぽを向いた。せっかく戻ってこれたのに顔が見れないのは悲しいな。


「もう言いません!」


「彩明の為なんだけどな‥‥。後ろ向いてごらん」


「後ろ?」


みんな彩明の態度に気がついたらしく狼千氏以外ニヤニヤしている。


「皆さん笑ってますが??」


あー、彩明の鈍感さがここまでとは思わなかったな。


「…仕方ない。皆さんわかっているなら部屋出て行ってもらっていいですか」


「え~、しかたないなぁ」


なんとかみんな出したが壁に聞き耳たててそうだな。


「部屋の外に人がいないか見てくれませんか」


「‥‥?はい」


彩明は戸や窓から外を見たが誰もいなかったようだ。


「誰もいませんでした。でもなんで皆さんを外に?」


「皆の前で僕のこと好きだと言うつもりだったんですか?お願いですからそれはやめて下さい」


「なんでですか」


二人か三人ならともかく十人以上は恥ずかしいと思うが!?


「私が語り手さんを好きって‥‥」


最後まで聞かずに彩明を思いっきり抱きしめた。柔らかくて温かくて安心する。


「僕が好きなの?本当に??」


僕か彩明かわからないが心の臓が五月蝿く聞こえる。こんなに五月蝿かったら彩明の返事が聞こえないんじゃないかってくらいに。


「はい、語り手さんが好きです。みんなに聞かせたい位語り手さんが好きです」


「‥‥ありがとう」


僕を好きになってくれて。

僕をこの広い世界で見つけてくれて。

僕を長い年月をかけて出会ってくれて。


「本当にありがとう…愛してる」




僕が彩明にキスをしようとすると下から声が


「よくあんなこといえるわね。うふふ」


「あーいうこと言うからわいら外だしたんちゃいまっか?ムッツリスケベやな。クァカカッ」


「こんなの聞いてたら翔に蹴られるぞ」


「そうそう僕が‥‥って!僕は馬じゃなぃ!!!」


「翔五月蝿いからばれる‥‥」


僕は、床を思いっきり踏み鳴らした。


「もうばれてますから出てきて下さい!」


そういうと床の一部が外れて中から次々出てきた。


「あー、ばれちゃった~。念のため作った隠し部屋を見破るなんて」


「あれだけ五月蠅かったら聞こえると思うよ琥珀」


「そうかしら」


ここは成氏の屋敷らしいな。まったく確認してもまさか下にいるなんて思わないじゃないか。


「とりあえずおめでとう語り手、彩明殿」


「そうねおめでとう二人とも」


次々祝福の言葉を述べられた。


「ありがとう‥ございます」


感極まったらしく彩明が泣き出した。僕は涙を手で拭った。彩明の涙は、僕には勿体ないくらい綺麗だと思う。


「ていうことでお二人様結納はいつかしら?結納の衣装はぜひ椿寿で」


琥珀は、本当に商売人だな。


「結納は早いと思うけど、その時になったら一番良いのを頼みます」


「もちろん!」


僕がそんなことを言っていると彩明が静かなのに気がついた。


「彩明、僕との結婚は嫌かい?」


彩明は頭を横に振った。


「そこまで考えてくれているのが嬉しくて‥‥」


「ならよかった」


断られたらどうしようかと思った。せっかく戻ってきたのに‥‥‥‥?そういえば


「なんで僕戻ってこれたんですかね」


「それは‥」


「それについては私が話そう」


彩明を遮るように驍燿がでてきた。そして驍燿の話によるとお盆と同じように灯籠に僕が危険と書いて川に流したらしい。たぶんそれが師匠の手に渡り僕は助かったのだろう。師匠の手にその灯籠が渡ったのは奇跡的だと思う。


「灯籠は死んだものをあの世に送り届ける為の灯りと言われてるからな。一か八かで試してみた」


「うまくいってよかったです。灯籠を流して一日経った時語り手さんが部屋に倒れてたんですもの驚きました」


「確かに驚くな。アハハッ」


死んでいたかもしれないのに生きて彩明といられるのがおかしい。


「語り手さんお帰りなさい」


「「「「お帰り!」」」」


一人で頑張ってきた。

でも君のおかげで僕は目に見えないものが見えるようになった。

そして目に見えないものは形を変えて今ここに集まっている。

君がいなければ僕は気がつかなかった。


「‥ただいま‥‥!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ