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りゅうの娘  作者: 猫田33
29/36

そのころ僕らは蓉歌様の所へ走っていた。


「今の状況は?」


「お姉様が正妃の冬稟という方の所へ不撓寺の方々と一緒に向かってます」


「そう‥すみませんね。彩明は、蓉歌様の護衛なのに‥‥」


「その蓉歌様に頼まれたからいいんです。心配してましたから急ぎましょう」


いつもの笠で表情はわからないでも笑って答えてくれてる気がした。


「あぁ」


どうやらそろっていなかったのは、僕等しかなかったようで仁王立ちした蓉歌様がいた。


「来たわね。馬鹿!」


「すみません遅れました」


「ほんとよもう!さぁ行くわよ」


蓉歌様が扉を勢いよく開ける。


「たのもう!」


蓉歌様、道場破りに来たわけじゃないのでやめて下さい。


「五月蝿い小娘ね‥‥。私が正妃と知っての所業かぇ?」


艶のある女の声がした。声の先を見ると赤毛が目を惹く美人がいた。どことなく蓉歌様に似ているような‥‥?


「私は皇帝よ!あなたには正妃を降りてもらうわ」


蓉歌様は部屋を突き進み、その斜め後ろに彩明が付き添う。


「えぇ、いいわ。正妃でも皇帝でもやろう。そなたが皇帝になれば国が乱れ多くの人間が死ぬ。どちらにしろ私の願いが叶う」


形のよい口元を歪めて笑いかける。怪しく美しいがそれよりも恐ろしいと思う。


「乱れないし乱れても私達が正す」


蓉歌様は、一歩前に出た。冬稟はそれを小馬鹿にした表情でかえす。


「どうかしらね。まぁ高みの見物をさせてもらうわ」


そして突然彩明に何かが当たった。彩明の被っていた笠が宙を舞う。


「私ね。顔を見せないやからが大嫌いなのよ!さぁ、顔を見せなさい」


笠が床に落ちると同時に冬稟は目を見開く。


秋月(シュウゲツ)なぜ生きている!しかもその瞳はりゅうの瞳!?」


何を思ったのか目を瞑いた。


「秋月は母様、りゅうは父様です。私の両親をご存知なんですね」


「えぇ、知ってるわ。特に秋月は憎い!絶対許せない!許さない!例えあなたが娘でも!!」


そして冬稟は、本来の姿であろう白銀の九狐の姿になっていた。


「塵になれ!」


冬稟は狙いも定めず口から大量の火の玉を吐き出した。僕は急いで出口に行こうとしたが彩明に止められた。


「動かれると守りずらいので動かないで下さい!」


彩明が手を上げると周りの陶器や壺が浮き上がり火を打ち消した。防ぎきれなかった火は壺の水で消している。冬稟は、火を出して疲れたのか尻尾を辺り構わず振り回している。


「火は無理だが尻尾なら我が輩達のものだ!」


不撓寺の坊主が尻尾を叩き落とす。中には柱に尾を結びつける強者もいた。


「大人しくしなさい!」


蓉歌様が訴えかけるが止まらない。冬稟は、いっそう暴れていたが突然止まった。しかし、止まったと思って安心したのも束の間青い大きな火の玉が口の中にあった。


「なんやあの火の玉まずそな色や。壁蹴破ってでも外出るで!!」


張平がそういうと皆いっせいに逃げ出した。




外へ出た瞬間爆発音と共に部屋が燃えあがる。


「不撓寺のみんな!後宮にいる人達を避難させて!」


合図をすると不撓寺の坊主は、走り出した。


「語り手と張平は火消しを呼んで!」


「ほいさ~」


「僕はここに残って火がこれ以上まわらないようにします!」


「どうするのよ!?」


「こうします!」


僕は、建物を支えていた柱の一つを袈裟懸けに剣で切った。建物の一部が音を立てて崩壊する。


「燃える物が無くなれば火は消えます!」


「そういうことなら手伝うわっ」


蓉歌様が柱に拳をぶつけると柱が真っ二つに折れた。相変わらず凄い腕力というか力というか‥。


「私は‥‥!きゃっ」


彩明に焼け焦げた何かが巻きついた。


「まだ終わってない‥!まだ終わってないわ!」


火に包まれた部屋から冬稟が現れる。その姿は、痛々しく彼女は何を思って動いているかわからない。


「冬‥稟‥‥さん。なぜ‥母様が‥‥憎いのですか‥‥?」


「秋月が来るまでりゅう様は、私を気にかけてくれた!なのに秋月が来たら秋月が一番かまわれてりゅう様の一番になった!!なぜ私じゃないの!何でよ!」


激昂するたびに彩明はより強く巻きつけられ呻く。


「止めろ!止めてくれ!!」


僕は、彩明に巻きついている尾を斬りつけたが緩む気配はない。そう考えていた時、横から風が吹いた。


「語り手‥‥危‥い!」


気づいた時には僕の体は壁にぶつかっていた。痛みよりも呼吸がしにくいのがつらい。


「もしやこいつがあんたの大切な人かぇ?」


彩明の目は泳いでいた。嘘が下手だね彩明、それがあなたのいい所でもあるけど。


「まぁ、いい。どちらにしろ鬱憤晴らしに死んでもらう。喜安州も失敗、皇帝を裏から操るのは失敗。なぜ、憎い女の種族は滅びぬのだ?」


喜安州‥‥‥?


「ま‥さか‥パースのあの方とは‥」


「私よ。あそこは貿易の要所。長を好き勝手出来たら武器の密輸、関税の引き上げ、ならず者の取り締まりができる。どれもこれも火種にはとてもいいわ」


冬稟は、うっとりとした口調で言った。


「さぁ聞きたいこともないでしょう!?死になさい」


冬稟は、僕に鋭くした尾の先端を向けた。逃げようにも足が動かない。


僕は‥まだ死にたくない。



『冬稟怒りに身を任せ罪を重ねるのはやめなさい』


突然空から声が降ってきた。動かない体に鞭うち頭を上げると曇り空に美しく雄々しい青竜がいた。


「りゅうさま‥‥。私は‥その」


さっきまで暴れていたのに大人しくなった。しかし尾は、彩明に巻きついたままである。


『私の娘を離しなさい。もし離さないなら実力行使をする』


惚れた弱みなのか実力行使が恐ろしいのか彩明を離した。ただし空中にだ。


「彩‥明!」


地面に落下すると思ったら彩明は、浮いていた。そういえば物を浮かせる能力があったのだった。


『娘に当たるほど秋月が憎いのか?』


「‥‥‥」


『憎くないのならば彩明の目を見なさい。目を見ても生きていられる筈だ』


「っ!?」


目を見ると死ぬことがあるのか?


『私は娘に害なすものは虫であろうと捨て置く気はない』


その言葉が合図だったように冬稟は逃げ出した。


『少々言い方がきつかったか。しかしあぁでも言わなければ私を諦めないだろうな』


そう言いながらりゅうは、地面に降り立つと同時に人の姿になった。西の国特有の彫りの深い顔に焦げ茶色の髪をしている。りゅうが腕を広げると同時に彩明は走りだす。


「彩明、父さんだ‥」


「語り手さん大丈夫ですか!?」


彩明がこちらに駆け寄って来た。うなだれるりゅうの姿は、もの凄く哀愁漂っている。


「お父さん‥の所‥行かなく‥て‥いいのか‥‥?」


「父様よりも語り手さんです!まともに受け身をとっていないから状態が酷いですよ!」


彩明は、あちこち手で触ってきたが足と背中が痛かった。


「足は骨折。背中は打撲。全体的に擦り傷‥‥。骨が折れてなくてよかったですね」


「‥‥‥心配してくれてありがとう。彩明は、体大丈夫?痛い所はないですか」


「私は大丈夫です。前、修行で大きな蛇に巻きつかれましたけどかすり傷一つありませんでしたから」


やんわりと笑顔で答えたが言っていることはありえない。


「彩明‥父さん無視するのか?三年ぶりなのに」


「私は、父様が母様とちゃんと別れられるまで会うつもりはなかったんです」


彩明の声は少し震えていた。どういうことだろうか?気になるが親子の会話僕がでる幕じゃない。


「彩明もういい。最初は意味がわからなかった。秋月は、死んでもう会えないから別れるも何もないと思ってた」


りゅうは、彩明の視線に合わせるようにかがみこみ続けた。


「でも彩明がいいたかったのは、秋月を重ねて考えて欲しくなかった。彩明を彩明と見て愛して欲しかった。違うか?」


「‥‥うん」


蓉歌様も何か思ったのか作業を続けながら言う。


「彩明も私も同じね。私の父も私を見てくれなかった。ずっと母さんのことばっかり‥嫌だった」


僕には、なんの話をしているのかわからないがさっきよりも延焼が広くなっている気がする。


「あの水さすようで悪いんですが、火が建物にまわります」


「私に任せなさい」


りゅうが火のある方向に手を向けると火が消えた。水もかけていないのにどうして?


「父様なぜ火が消えたのですか?」


「物を浮かせる応用。フロギストンを火のまわりから離した。原理がよくわからないなら普通に池の水でもかけなさい」


そう言いながらりゅうは次々火を消していく。


「終了」


「「すごい」」


自らの手を使わず全ての火を消してしまった。思わず呟くと蓉歌様も同じ言葉を呟いた。


「彩明これで心残りはないだろう。蓬莱山に帰ろう。翔やサンも待っている」


「でも‥‥」


彩明は下を向いたまま黙ってしまった


「「その必要はない!!」」


男女の声が響いた。

声の方向を見ると一人は上半身は金髪で一角がある男性、下半身は鹿。しかし尾が牛、蹄は馬という奇妙な姿。

もう一人は、金と赤の髪で黄金色の瞳の美女だった。


「翔おじ様!サンお姉さん!」


この二人が彩明の帰りを待っているといっていた人達か。


「やぁ、彩明ちゃん久しぶりだね」


「翔おじ様もおかわりなく」


「あら、私には何もないのかしら」


サンは悪戯っぽく笑って言った。


「サンお姉さんは、ますます綺麗ですね」


「ありがとう」


「なぜ‥‥二人がいる?」


「なぜって?サンは兎も角千五百年ぶりに人間の元に降りたんだ理由は一つ」


「聖人が善政を行った時‥」


「まさか!麒麟!?」


蓉歌様の驚きようが凄い。


「そうです。待ってましたよ。あなたのような人を‥」


蓉歌様に翔は穏やかに笑いかけた。


「長い間ご苦労様です」


「いいえ、僕はこの千五百年間楽しく過ごしてましたよ?」


翔は麒麟というのらしい。じゃあサンはなんだろうか。


「あのサンさん?あなたも人外なんですか?」


「その思い切りのいい質問いいわね。私は鳳凰、聖人が生まれた時祝福と守護を与えるわ。今日は彩明ちゃんに会いにきたの」


「まさか二人一緒に降りてくるとは思わなかった」


呆れたようにりゅうは言った。


「だって彩明ちゃんが認めた主と思い人を一度に見れるいい機会じゃない!蓉歌ちゃんだっけ?運いいわね~」


「はい、この運を大いに使って良き政治をしたいです」


大方話がまとまりそうだな。


人数も増え和気あいあいとした雰囲気が一気に凍りつく。僕と蓉歌様は何が起きたのかわからなかった


「あの世の姫がなぜこの世にいるの?」


「暇つぶしに来たのじゃが、そこの語り手が気に入ったから持ち帰りたい」


ヤーミ姫は、驚いたことに幼子の姿でなく妙齢の美女の姿だった。驚いて動かない僕を庇うように彩明が前に出る。


「語り手さんは物じゃありません!!」


「言い方が悪かったかの。妾は、語り手を婿に迎えたい」


‥‥‥はっ?


「婿に行くということは死ねということでいいのですか」


「半分当たりで半分外れじゃ。婿に来るということは妾と同じ神席に入るということじゃ。肉体を捨て魂だけとなる」


「確かに死んだわけでも生きているわけでもない」


りゅうは静かに頷いた。


「ということじゃ。どうじゃ?」


「お断りします」


僕はまだやりたいことがある。すぐに思いつかないけれど。


「仕方ない。猶予をやろう一週間じゃ。一週間後にそなたを迎えに行く」


「だから‥!!」


ヤーミ姫は僕の言葉も聞かず闇の中に消えた。


「あなたは、いろいろと背負う運命のようですね」


「そのようです」




(母‥さん‥?母さん!母さん!)


目の前に母さんが倒れている。僕は母さんを揺すったが身じろぎせず手には黒いものがついていた。母さんの体は冷たくなるのにこの黒いものは温かい。


(広進‥‥!?)


戸口には叔父さんが呆然と立っていた。


(叔父さん!母さんが動かない!なんで!なんで!!)


僕は叔父さんにしがみついた。そんな僕を叔父さんは突き放し母さんに駆け寄る。


(なんで動かないかわからないか!?お前が包丁を刺したんだろう!)


(えっ‥‥!)


あぁ母さんの腹に包丁が‥‥。僕が‥僕が‥‥刺した?


(親殺し!!)




「はっ!」


僕は汗だくで目が覚めた。


「嫌な夢だ」


いや夢じゃない。夢ならなぜこんなに苦しいのか‥。


「語り手さん起きましたか?」


彩明が水差しを持って入ってきた。


「起きたけどここはどこですか?狼千氏の屋敷じゃないみたいだけど‥‥‥」


「私と趙進の屋敷よ。契約守って貰う為に休養用に貸したの」


「契約‥‥‥‥あぁ、あれですか」


すっかり忘れてた。


「今‥から蓉歌‥‥様に頼み‥ます」


起き上がろうとしたら体がよろめいた。


うっ、体が重い!?


「その必要はないわ。本当かどうか確認をとりたかったの」


仁王立ちになって蓉歌様が戸口に立っていた。


「勝手に契約を取り付けてすみませんでした」


「本当よもう!‥‥まあ椿寿の着物好きだけどね。華やかで綺麗で…かわいいし」


「ということはよろしいのですか?」


「もちろんいいわ。ということで引き継ぎの準備があるからまた後」


手をヒラつかせながら蓉歌様は部屋から出て行った。


「素直そうで素直じゃないわね。蓉歌さん」


「えぇ人の為に簡単に無理をする人です。今日も忙しい中僕の所に来たのでしょうから」


もしも僕や驍燿がいなくなったらどうするのだろうか。いつまでいるかわからない。


「だから僕は心配です」


「語り手さんが不調の時は私がいますよ?それに蓉歌お姉様はもっと色々な人に会う筈です」


それもそうだ今度から"不撓寺の蓉歌"でなく"夏華国皇帝の蓉歌"になる。悪意や策略を持っているのもいれば善意や尊敬を持っているのもいるだろう。


「そうだね」


「ということでお姉様の護衛に戻ります!」


彩明も元気よく部屋から出て行った。


「明るくなったわね~。前は人形みたいな子だったのに」


「人‥形‥‥ですか?」


「そう父親の顔を見て泣いたり笑ったり。自分の中の感情を他人に左右されずだせる子じゃなかった」


昔をはせているのか琥珀は、軽く目を瞑った。と、思ったらいきなり慌て始める。


「忘れてた!語り手さん彩明ちゃんから頼まれて贈り物があるの」


贈り物?彩明から??


「目には見えない贈り物受け取りたい?」


彩明からなら僕を貶めるようなものではない筈だ。


「ありがたくいただきます。でも何ですか」


僕が問いかけると琥珀は手袋を外し手を重ねた。


「語り手さんの覚えていない家族との思い出」


「‥‥‥‥」


「語り手さんあなたの広進という名前の由来」


「やっぱりいいです。お休み」


僕は、頭まで布団を被って寝た。


「いいわよ~。どうせ聞こえるだろうし」


確かに布団は薄めでよく聞こえる。諦めて布団から出た。


「そうそうそのまま聞いててね。まず広進という意味はお父さんの名前の(コウ)からとって広く世界を進むで広進」


「広く世界を進む‥‥」


「語り手さんは名前通りね。語り手として広く世界を歩いてる」


ニコニコ笑いながら琥珀は答えたがちょっと違う。


「僕が歩くのは基本夏華国なんですけどね」


「えー、語り手さんにーぶーいー」


最初のか弱そうな美人はどこに消えたんだ。


「どこがですか?事実を述べただけです」


「私が言いたいのは広く世界へ進んでどんな子になって欲しかったかよ」


「どんな子に?」


「私が親なら世界を見て器が大きい子になってほしいとか。色々な人と出会って大切なものを見つけて欲しいとかね」


そんなものだろうか。


「とりあえず言えることは"あなたは親に祝福されて生まれてきた"ってこと。だから生まれてきてよかったのよ。語り手さん?」


「生まれてきてよかったのか?僕が?」


目元が熱くなり僕は、顔を下に向けた。


「えっ!もしかして語り手さん泣いてる!?」


琥珀が僕の方を覗きこんだので慌てて別の方を向く。


「泣いでません!」


声が震えてるから肯定してるようなものじゃないか。


「まぁいいわ、ごゆっくり」


琥珀が部屋から出て行くと僕は、何年かぶりに大声で泣いた。

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