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りゅうの娘  作者: 猫田33
御旗の下に
23/36

朝起きると床で寝ていた。しかも口の中が切れたのか血の味がする。


「うっ、頭痛い…二日酔い?しかも頬も痛い??」


「なぜ?」


昨夜酒で酔いつぶれたのは覚えているがそれ以降のことを覚えていない。


「とりあえず朝ご飯食べにいくか」




「朝ご飯下さい…?」


女性の視線が冷たい。熱いのも困るがこれはこれで困る。


「どうぞ」


ドンッと卓に料理が置かれた。


「どうもありがとう」


そういったがやはり態度が冷たい。そんななか張平が目をきらきらさせて近づいてきた。興味津々という所か。


「語り手はん何やったんや?ずいぶん冷とお態度されとんな」


「僕は何も知らない」


「ほー、おもろいなぁ…?語り手はん、頬殴られたんでっか」


張平が手で左頬を指差した。


「確かに左頬が痛いが殴られたかどうかは…」


床に寝ていたから落ちてぶつけたと思っていたのだが違うのか?


「ほんまなんも知らんみたいやな。つまらんわ」


「何がつまらないのか俺にも教えてくれないか」


僕の後ろから声が聞こえた。


「語り手はん一人称変わって…!?なんで院劉はんがおるんや」


何故か頬をミミズ腫れにした劉氏がいた。


「隣の席いいかな」


劉氏は僕の隣の椅子を指差す。だが僕がいいという前に劉氏は座った。


「劉氏はんなんでミミズ腫れ出来てるんや?」


「これはね。可愛い子猫に引っ掻かれちゃったんだ。あと何故いるかという質問にはその子猫ちゃんに会うためだよ♪」


子猫って彩明のことか?


「劉氏その子猫は本当に子猫だと思いますか」


「どういう意味だい?」


「ストップ!!劉はんわいの質問に答えてくれへんか?いくで!」


劉氏の返事を待たずに張平は続ける。劉氏以上にこいつは五月蝿い。


「まずなんでこの国特有の黒髪と黒・茶色の目やなく。緑色の髪で黄金色の目なんや?」


それは僕も気になる所だ。貴族は、血筋にこだわる所があるからこの国の典型的な容貌が多い。


「院家は、優秀な人材なら一族の者でなくとも婚姻が許されてるんです。その証拠に俺の父は、エルフで俺の髪の色はそれからきてるね」


ふーん、西にいる森の民の血が流れているのか。


「ついでにも一つ質問や!ズバリ好きな女性はおりまっか!?」


なんでそんなことを聞いているんだ。視線を上げると女中と視線が次々合った。玉の輿志望かな?


「いますよ。でも秘密です」


秘密ねぇ…。今のところ彩明なのでは?昨日の今日で変わったのなら彩明でない可能性もある。だがそんなささやかな可能性も劉氏の囁きで霧散する。


「あんまり遅いと彩明さん俺が全部貰っちゃうよ」


「何のことです」


「またとぼけるか。でもいいよ。俺本気で彩明さん好きになったからこれ宣戦布告ね」


ジャーネーと手を振り劉氏は出て行った。


「うぅむ、退出する時も爽やかやな。わいと印象被っとんなぁ…。なんでツッコミいれないんや語り手!わい寂しわ‥。って語り手はーん、意識この世にありまっかぁー」


「五月蝿い」


張平の頭を叩くと奇声を発して倒れた。なんで僕にだけそんなこと言うんだ?張平にでも言えばいいじゃないか。あぁ、頭が痛い。


「張平さん、語り手さん東南の部屋で蓉歌様が会議をするそうです」


「了解や!」


「はい」




「集まったわね‥‥」


蓉歌様は部屋にいる全員を見渡す。僕の他に部屋には、驍燿、張平、狼千氏、劉氏、彩明がいた。


「狼千殿と劉殿に関しては忙しい中ありがとう」


「いえいえ、しかし早く会議を進めていただきたいです」


「そうですわね。これから計画の全体像を話し合いたいと思います。まず狼千殿と劉殿には当主として宮に仕えている者全てに明日から業務を停止…いえ放棄させてください」


ガタタッ!

狼千氏はその場に立ち劉氏は口元をひきつらせていた。


「出来ないとは言わせないわ。その為に二人ともこちらに引き入れたんですから」


笑顔で無理をいう姿は和の国の鬼を思い起こさせる。さしずめ赤鬼か。


「いつからいつまでですか?まさか一ヶ月とは言わないですよね」


意外に立ち直りが早かった劉氏が質問したがあきれ気味に蓉歌様は言う。


「一ヶ月もさせるわけないじゃない。仕事も溜まるし何より民に負担がかかるわ。建国の祭りの前には終わらせるわ」


「わかりました‥‥。しかし現皇帝がそれだけで帝位をおりますかどうか。前皇帝が健在の時は皇帝の懐刀と言われた鬼才でしたから」


「私が皇帝なら自ら下りるわ」


「なぜです?」


狼千氏は疑問を口にした。


「狼千わからないのか?」


「そうそうお前はわかっているのだろう。わかるなら説明してくれ」


「態度大きいから教えな~い」


「あっあの…」


彩明がおずおずと手を上げた。


「私もよくわからないので説明してもらいたいです」


「彩明さんならなんでも教えてあげるよ。あとで俺の部屋にぃ!」


蓉歌様の拳がきれいに劉氏の腹にきまった。油断大敵。


「重要な会議中に夜の誘いをしないでください。簡単に説明すると私が皇帝につくと都合のいい人が何人もいるのよ」


「蓉歌様が皇帝について都合の良い人物…?」


「例えばの話、私が皇帝についても後見人がいない。それを利用して新しく相談役という役をつくったら?皇帝の言葉として法律、商業、軍事すべてに口出しできるようになる。これってかなり得できるわよね」


自分に都合の悪い法律を無くして都合のいい法律をつくる…恐ろしい。


「しかしそれは皇帝が位を降りた場合です。成り立ちません」


「狼千あなたが皇帝で今の位をおりてさらに上の位…仮に上皇につけると約束したらどうするかしら」


蓉歌様は三日月のように口を歪ませて言った。


「さらに上の位?だとしたらそちらの方が良いでしょう。しかし皇帝の威信が小さくなるのでは」


「狼千殿。農家と商家どっちが位が上?」


「当たり前ですよ農家が上…まさか!」


「そう上皇と皇帝の関係は、農家と商家と同じ。上皇は位は上だけど権威はない。皇帝は上皇より下だけど権威がある。そういう風にするのよ」


「「「「なるほど!」」」」


驍燿と張平以外が納得の声を上げた。劉氏さっきわかると言ってましたよねあなた?


「説明はこれくらいにして張平と語り手の出番よ」


「ほいっ」


張平は、にこにことした顔で返事した。


「表の仕事の時、私が今城下にいること、礼儀作法は出来るけど頭は‥‥‥馬鹿ってことを噂に流して」


「あいさー」


どんな頭ならこんな場でふざけた態度がとれるのだろうか。


「…語り手」


「はい」


なぜ間があったのだろうか。


「流す内容は…張平と同じ。でも語り手は、金糸雀(キンシジャク)という店で宰相の呂桓南(ロカンナン)に接触して噂を流しなさい」


「金糸雀は遊女屋。どうやって接触するつもりですか」


劉氏が何気なく質問した内容は、僕にとってとても都合の悪いことだった。


「…」


「あなたは、僕のことにかまわず自分のしなければいけないことをしてください」


蓉歌様が黙ったままなので僕が答えた。


「そうですね。まず自分がすることをしなければか…。それではいったん屋敷に戻って一族に連絡してきます」


劉氏は部屋から出て行った。狼千氏も一言二言残して部屋から出て行った。


「僕もすぐ屋敷をでて金糸雀に行きます」


「語り手」


蓉歌様が僕を呼び止めた。僕は振り向いて返事した。


「…ごめんなさい」


蓉歌様がか細い声で言った。悪いと思っても謝らないで欲しい。謝られるほどひどい仕事だと思ってしまう。


「謝らないで下さい」


いつものように強気で元気でいて欲しい。


「語り手さん!」


「はい」


「私ずっと走ります。だから…余裕で走っていて下さい」


前の話覚えてたんだ。言われなければ僕でさえ忘れていたよ。


「それじゃ追いかけてきて」


僕は僕のやるべきことをするだけだ。




「金糸雀の旦那ですか?」


相手の男は算盤を続けながら答える。


「さぁな。お前さん身売りでないなら帰んな。こちとら暇じゃねぇんだ」


「私は歌う花の使いです」


それを聞いて金糸雀の旦那は算盤の手を止める。しかしまた算盤を始めた。


「右手の部屋に入れ」


言われた通り右手の部屋に入る。部屋の中央の長椅子で寝ている男がいた。その男は、顔の半分が髭に覆われていて歳がよくわからない。


「予想以上に美人が来たな」


「僕も金糸雀の旦那が髭男だと思いませんでした」


「かっかっかっ!見た目の割に刺々しいこというな。まぁ、遊びはこれくらいにして名前どうするんだ。お嬢さん」


毎回浮かぶのはこの言葉。


「瑠璃」


「瑠璃かぁ…。伝説の遊女の名をとろうとするたぁ気の大きいお嬢さんだ」


まだ僕をいじる気か。この仕事は、まったく好きになれないからとっとと終わらせたい。


「無駄話はこれくらいにして部屋に連れていきなさい」


「はい、はい、おーこわい」


僕は別の部屋に通される。


「ここがお前さんの部屋だ。客は、半時こないうちから入れるぞ」


「はい」


金糸雀の旦那は出て行く。これからが本番だと僕は、気を引き締めた。




「おい!次の客はご待望の呂桓南だぞ。良かったな」


髭から覗く顔が嬉しそうに笑っていた。


「厄介ばらい出来て嬉しそうですね。でも私は、まだ暫くここで働きますよ」


すぐに辞めると怪しまれそうですし。


「まだ、お前さんの小言を聞かなくちゃならんのか!?あぁ、金払うからもうやめてくれ」


「それより呂桓南をこの部屋に通しなさい相手は宰相なんですよ。待たせて良い相手じゃない筈です。早くしないとまたソレとりますよ」


僕は、顎を指差す。それが権威づけの付け髭だと5日まえに知った。元の顔もみたがどうも迫力がなく舐められそうな顔をしていたのだ。


「やめてくれ!これがないと商売が出来ん」


金糸雀の旦那は、慌てて引っこむ。暫くして足音がしたのできちんと座り直した。そして戸が開かれる。


「おぉ、これが噂の瑠璃か。噂通りいや噂以上に美しいなぁ」


入って来たのは、若作りしているが満五十歳程の爺だった。嫌な目で上から下まで僕を見る。


「お褒めいただきありがとうございます。こちらでまず酒と料理をいただいてくださいまし」


「儂はお前さんがいいのぉ」


「初めてついたお客様は、酒と料理を食べるだけの筈ですわ?」


暗黙の了解なのにいきなり言うな豚爺。


「お前さんの噂のもう一つ。一度入れた客は、もう入れないと言うのがあるからの」


「嫌だわ。確かにそういう方もいますが呂様も同じとは限りませんわ。まずはお酒をどうぞ」


呂氏の杯に酒を注ぐ。


「美人に注いでもらった酒はうまそうだな」


「恐縮ですわ」


どうやって蓉歌様の噂を流そうか?


「瑠璃もう入れない客は、どんな客だった?」


しめた!


「そうですね。流れ者の商人で人の悪口をずっと喋ってたんです」


悪口という言葉で呂氏は、肩を震わせた。


「誰のどんな話だ」


「確か…前の皇帝?公子?の娘の蓉歌って方がここに来ているらしいですのよ。そこに商売しに行ってみたら。その蓉歌って方は、お馬鹿さんだったらしいです。礼儀作法はなんとか身についているらしいですが…」


「その蓉歌という人物について話していた商人の名は?」


よしっ!食いついた。


「はい。張平というなんでも屋?だったかしら」


いきなり呂氏が立ち上がった。注ぐはずだった酒が床に流れる。


「いいことを聞いた。うまくいったらお前さんを身請けできる金額になる」


「あら、すごいですわね」


僕の言葉を最後まで聞かず出て行ってしまった。


「さすが金とコネで宰相になっただけありますね。まぁこれで僕の仕事は終了かな」


呂氏が飲む筈だった酒を自分の杯に注いで飲んだ。仕事が終わった後の酒はうまい。


「金糸雀の旦那そこらへんにいるでしょう。僕はこれから寝ますから起こさないで下さい」


それから僕は、物音が聞こえるまでぐっすり眠っていた。




キシッ、キシッ…


物音で目が覚めた。軽い音だから禿だろうか?と思ったが衣擦れの音がしない。念のため身構え足音の人物を出迎える。


「あれ??語り手さん。なんでそんな格好しているんですか」


「彩明こそなぜいるんですか」


しかも遊女の姿で会うなんて思わなかった。


「蓉歌お姉様がもう戻ってきて欲しいそうです」


「わかった。先に外に出ていてくれないか?話をつけに行く」


さっきまで寝ていたから体が重い。


「語り手さん私の質問答えてくれないんですか」


「僕は遊女として働いていたからですよ。わかる?遊女って」


何きいてんだかな、僕。


「わからないです。でもずいぶん煌びやかな格好をするんですね」


「商品だから綺麗にしないとね。さぁこんな所早くでますよ」


服を着替えてから出ないと目立つので彩明を先に出す。着替えて外に出ると彩明が待っていた。


「待たせて悪かったね。さぁ行こうか」


歩きだそうとすると彩明が僕の服の裾を引っ張る。


「どうしたの?」


「…頭」


頭に何かついているのだろうか。


「頭に何かついてるのかな彩明」


「頭少し下げてください」


「こう?」


言われた通り頭を下げると二回頭を軽く叩かれた。


「彩明なんで頭を叩くんですか!?」


「叩いたわけじゃないです。昔の記憶で母様がそうしてくれたから」


それをなぜ僕にする?痛くはなかったけどそれにどんな意味がある。


「ごめんなさい。もう行きましょうねっ!」


僕は彩明の手に手を引かれて蓉歌様の所へ向かった。




「蓉歌お姉様連れてきました!」


僕らが来たのは一軒の宿屋だった。蓉歌様には、珍しく贅を尽くした宿屋である。


「彩明ありがとうね。語り手ご苦労様」


「いえそれほどでも」


これが僕の仕事やり遂げるのは当たり前。


「計画通りにことが進んでるわ。政の停止、強欲な呂桓南の皇帝おろし。あとは、時が来るまで待つだけよ」


計画通り進んだ為か蓉歌様はとても機嫌がいい。


「彩明ちゃん語り手の分のお茶持ってきて」


彩明は一つ返事をすると部屋から出ていった。


「…語り手」


呟くようにいった言葉に嫌な予感がした。


「やっぱり私と一緒になる気はない?」


「ありません」


「本当の本当にない?」


「ありません。僕は、蓉歌様の影にはなれますが隣に立つには役不足です」


これは、僕の本心だ。僕は裏でしか生きられない。


「ただいてくれるだけでいいの。私の伴侶になったら裏の仕事しなくていいのよ‥?」


「僕は蓉歌様を支えたいと思います。しかし逃げ道になりたくありません」


僕を理由に皇帝になること、しなければいけないことを放棄して欲しくない。間諜として、幼なじみとして、大切な人としてそう思う。


「そんなに頑ななのは彩明がいるから!?なんであとから来た彩明なの?」


「なんで彩明がでてくるんですか?」


「なぜって気がついてないの?彩明を見てる時の目が師匠を見てるときと同じ目だった!」


大切ですよ?仕事仲間であり妹のようにも思っているんですから。


「蓉歌様、僕はしばらく別に動きます」


僕は部屋から出た。蓉歌様、僕でない大切な人と一緒になってください。

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