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「待ったかぁ?」
「遅い!」
僕は、張平を睨みつけた。
「そのわりには楽しんでるとちゃうか」
「断じて違う」
酒を飲む僕に寄りかかってくる女がニ、三人いた。
「語り手さんは、目の保養にいいんでありんす。語り手さんには抱かれてみたいもんありんすな」
一人の女が言うと他の女も賛成の声をあげた。
「僕は自分の利にならないことはしません」
残念でありんすと袖で顔を覆った。泣き真似か…?
「それにしても張平なぜ遊楽を指定したんだ」
張平が言ったトウエンは桃園という遊楽だった。道を聞き張平を待っているとこのありさまだ。
「気に入ってる娘がおってのぉ。…あんさんの隣におるがな」
「あぁ、そうですか。お嬢さん達これから仕事の話をするからどこか行ってね」
僕は、女達を追い払った。
「彩明ちゃんの時と態度違うんやないか?」
「さぁな」
「違う~」
張平は僕の頬を人差し指でつついた。非常にうざい態度に堪忍袋が切れそうだ。
「しつこい!それより宿を見つけて来たんだろうな」
僕は張平を軽く突き飛ばした。下に倒れたがすぐに勢いよく立った。
「もちのろんや!いいとこやで~。蓉歌はんも気に入ること間違いナシ!!」
「そうか…あとこれからどうするつもりだ?僕は語りに行く」
「わいは商売や!それも明日からで今日は前祝いや」
「あー、そうかい。それじゃ」
僕が部屋から出ようとすると着物を張平に掴まれた。振り返り張平を見ると満面の笑みで手のひらをだした。
「なんですかその手」
「お金頂戴♪」
僕は、出された手に空になった酒瓶を置いた。
「これは酒瓶…?もしや口を下にすると金が出てくる魔法の酒瓶!」
そう言って張平は、酒瓶を逆さにしたが少し残った酒が垂れるだけだった。
「馬鹿。お前の為に使う金はない」
「え~、ちょっくらいいやないか五千元あるんやし」
「駄目なものは駄目だ」
あれ?僕こいつに五千元仕入れてきたと言ったか?
「不思議な顔しちゃるがわいの情報網なめたらあかんで?」
張平は、人形のような笑いを僕に向けた。本当にこいつは、気味が悪いと再確認する。
「なめていませんし渡しません。今度こそさようなら」
「けちー!」
けちでいいよ。そういえば。
「張平、林狼千の屋敷がどこにあるか知ってるか?」
すると当然張平は、勢いよく飲み物を吹き出した。
「汚いなまったく」
「あんさんさっきの言葉まじでいったんか?」
張平は僕をじろじろ見て言った。
「さっきの言葉ってなんです?」
「林狼千の屋敷がどこかってやつや!五大貴族の一つの林家の当主の屋敷なんて赤子でもわかるはずやで!?」
「五大貴族!?」
五大貴族とは、この夏華国で勢力・伝統・財力がある一族のことを示す。
「そう、しかも林家は五大貴族の中でも一、ニを争う勢力。優秀な奴らが多いさかい仕官してる人数も多いんやで。たしか仕官してる奴らの…半分近くが林家だったはずや」
結構人数がいるなぁ。
「だがまぁ狐つきが何故か出やすい一族でもあるんや。当代の当主の兄弟でそれが出たって話はでてないがな」
張平は腕組みして唸り答えた。
「そうか…」
「でもま、この話は置いといて」
自分で言っといて簡単に…。
「なんで林狼千の屋敷なんて聞くんや?まさか語りに行くつもりか…?」
「そのつもりだ。だから今、屋敷の場所を聞いている」
「それが場所を聞く態度か…?あとわい得になることなんもない気がするんやけど」
「情けは人の為ならずという言葉がある。手伝ったらいいことがあるかもしれませんよ」
「おいおい!ここで断ったらわい人でなしみたいやないか」
張平は、大仰に手を振り回して言った。
「ということは頼まれてくれるんですね」
「納得してないが仕方ないで」
僕が尋ねると張平は肩をすくめた。
「ありがとう」
「へぇ」
張平は目を見張りながら感嘆の声をあげた。
「なんです?」
「気にするな。あえていうなら珍しいもの見たんや」
張平は、先に部屋から出て行った。なんだか上機嫌??
「珍しいものってなんです?」
「教えへん」
だが張平は、語り手に聞こえない程の小声で呟いた。
「無表情男の微笑が見れるとはな」
「…」
僕は目の前の建物を見上げた。
「どうしたんや?ここが林狼千の屋敷や」
「想像以上だ」
赤い屋根に手入れのされた朱塗りの壁があり、左右を向いても塀の終わりが見えないほど大きい。とりあえず門番に要件を伝えた。
「本当に狼千様の知り合いか?怪しいから帰れ」
門番は、僕らに犬を追っ払うように手を振った。
「本当です。僕は喜安州で語った時に言われたんです」
「それでもなぁ」
「櫂通しなさい」
門の内側から女性の声が響く。
「杏様!でも今」
声の先を見ると可愛らしいが強かそうな女性が立っていた。
「確かに狼千は、今いない。でもこの人達は、狼千から聞いた語り手さんだと思うから通しなさい」
門番はしぶしぶ僕達を通す。
「櫂警備頑張ってね」
「はい!」
そして深々と礼をして仕事に戻った。
「ごめんなさい。彼はただ真面目なだけだから気を悪くしないで」
「いいえそんなことありません」
「ならよかった」
「それよりあなた様は…?」
門番に"様"をつけられるこの女性は何者だろうか。
「私は、狼千の妻の杏です」
杏は、にっこりと笑って答えた。
「「えぇっ!」」
僕と張平は目を見開き驚いた。月に鼈。猫に小判の夫婦だろう。
「やっぱり驚きましたか。立ち話は、なんですから屋敷の中にどうぞ」
僕らは屋敷の一室に通される。日差しが暖かく風通しのよい部屋はとても快適そうだった。
「お茶いただきますか」
「はい」
「わいも!」
そういえば張平を追い返すの忘れてた。などと思っていると侍女が僕らにお茶をだす。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
僕が侍女にお礼を言うと侍女は、頬を赤く染めて部屋からでていった。
「お茶もあることですし主人が帰ってくるまで世間話でもしましょう」
「はい」
「杏はん!林狼千はんの嫁さんなのは本当なんか?月と鼈みたいな気すんのやけど」
鼻息荒く張平が言うので僕は引いてしまった。
「あら私褒められてるの?貶されてるの?」
「褒めていると思いますよ。名前の通り可愛らしい方だと思います」
「あら本当?でもね私月と鼈だったら私は、鼈の方なのよ」
「どういうことや??」
「私は、元々この屋敷に泥棒に入った貧民街の小娘だったの」
貧民街…色々な理由で働けない人や親を亡くした子ども、柄の悪い奴らが大勢いる場所である。当然治安が悪い。そして城下街のここも例外でなく貧民街がある。
「まぁ、何故か狼千に気に入れられて座敷牢に入れられました」
「いや最後の変やないか?」
「一回黙りなさい」
僕がおもいっきり張平の頭を殴った。とりあえず静かになったので手の痛みを我慢する。
「その人大丈夫?」
「大丈夫ですから続けてもらって結構です」
「はい、それから色々あって今に至ります」
「…」
あの人何をやっているんだ。常識人だと思ったがそうでもないのか?そもそも少女を座敷牢に入れるってありえないだろう。
「どうしました?」
「省略し過ぎてわかりません」
「そう?でも簡単に言えば私にはもったいないくらい素敵な旦那様なの狼千は…」
「どこがですか?」
前会った時を思い出すがそう言えるほどような人物だったろうか。
「とても優しくて強い人。まぁ照れ屋な上に隠すのが上手だから優しいのがすぐわからないことが多いけどね」
杏さんは顔をしかめて話を続ける。
「今だって…。私の大切な人達の為に家にも帰らず仕事をしてる。頑張るあの人は尊敬できるほど素敵でも体を壊してしまわないか…」
「大丈夫ですか!?」
突然杏さんは口に手を当てて外に駆け出した。慌てて僕も追うがその前に。張平を叩き起こす。
「張平!!起きているんだろう。医者を連れて来い」
ゆっくりと張平が起き上がるのを確認して僕は杏さんを追いかけた。
僕が部屋でくつろいでいるとドタドタ五月蝿い足音が聞こえてきた。最も五月蝿い場所に来た時、乱暴に戸が開かれた。
「杏!!!無事か!?」
もの凄い形相の狼千氏が部屋に入ってきた。そこに布団から半身を起こした杏さんは狼千に微笑む。
「あら?狼千私達は元気だけど」
「えっ!?しかし杏が倒れたと…?」
困惑する狼千の後にぼろ雑巾と化した張平が部屋に入ってきた。
「最後まで話を…聞かんから…知らないんや」
張平は杏さんに目配せした。わかったとでもいう変わりに張平に輝く笑顔を見せた。
「あのね狼千」
「なんだ」
少々ぶっきらぼうな答えが出てきた。
「私、妊娠したの」
その言葉を聞くと狼千氏は体を強ばらせて動かなかった。
「嬉しくないの狼千?やっと…やっと私達に子どもが生まれる。何でそんな態度をするの」
僕はもしやと思い狼千氏の目のあたりに手を翳したが反応がない。
「驚きすぎて気絶したんか?」
「そうとしか言えないな。杏さんどうしますか?」
悪戯そうに瞳を輝かせて杏さんは言った。
「ふふっ、こうするの」
杏さんは、狼千氏の手を掴むとおもいっきり捻った。
「いたたたたっ!…?」
「もうなんで気絶なんてするの。嬉しくないの!?」
「嬉しいが信じられなくてな。私が父親なんて」
狼千氏は、ゴツゴツとした大きな手で顔を隠して言った。
「前あなたが言った時が来たのよきっと。"赤ん坊は親と時を選んで来てくれる。だから私達に子どもが来てくれないのはその時じゃないからだ"って」
杏さんは優しくお腹を撫でて言った。よほど嬉しいのだろう微笑みが消えることがない。
「確かにそう言った時があった。そうだね…決めたよ」
狼千氏は、力強く僕を見つめた。その視線に僕は、蛇に睨まれた蛙のように動けない。
「語り手さん」
「…」
呼ばれたのにも関わらず僕は、何を言われるかわからない緊張から黙り続けた。
「あなたの主
“皇女蓉歌様”に合わせて下さい」
「はぁ?」
あまりの驚きの内容に僕は、間抜けな声をあげた。それに呆れた声の張平が続く。
「せっかくわいが必死に隠してたのになんで言ってまうのや」
「気が変わった。今だけでなく未来も守る必要がでてきたからな。その為に国自体を変える。変えてくれるのでしょう?蓉歌様は」
蓉歌様という言葉で正気に戻る。間諜としてわからないでは済まない。
「なぜ蓉歌様のことをご存知なんですか。そこの奴とも知り合いみたいですが」
「蓉歌様のことは、三十三代皇帝を危うくさせる可能性があったので調べていました。もちろん私個人でしていたことですから安心して下さい」
確かに蓉歌様は三十二代皇帝の娘。皇帝になれる血筋だから妥当な判断だ
「張平は…、三十二代皇帝につけられた監視役の間諜。皇帝亡き後は私の間諜として働いてもらっている」
「蓉歌様の間諜もしていなかったかお前?」
「両方ともわいの主やで?それにわい勝つ方に行きたいから両方に力貸してたっちゅうわけや」
二重どころか三重なのかこいつ…?
「これでわいの仕事も楽になるちゅうわけや」
「楽になるどころか大変になると思うが?ある意味お前の行動は裏切り行為だぞ」
僕は、髪留めを掴み口に入れようと頭を固定した。張平は、物凄く抵抗した。
「それはやめてくれ!」
「大丈夫苦しみは一瞬だ」
争っていると頭に鉄拳がふった。
「妊婦がいるのに騒ぐのはやめなさい!」
怒り心頭の狼千氏に怒られ僕らは謝罪した。さすがに悪ふざけがすぎたと思う。
「話を戻すが私は、出来る限り蓉歌様の助けをしたいと思っている。それを直接蓉歌様に伝えたい」
「仲間になるのは構いません。しかし蓉歌様はまだこちらに到着していないのです」
「そうか…、そういえば蓉歌様をどこにお泊めするつもりだ」
「"巣燕"に泊めるつもりや」
張平がそう答えると狼千氏は眉をひそめた。
「巣燕か…。確かにいい宿だがあそこらへんは、荒くれ者が多いからおすすめ出来んな」
「ならどこがいいでしょうか」
「今の時期空いてる宿…どこだろうか」
三人で悩んでいるとなんでもなさそうに杏さんが言った。
「狼千いい所があるじゃない」
「杏、よさそうな宿があるのか」
「宿じゃないけど安全でかつ安い場所があるわ」
「どこですか」
僕らは、身を乗り出して聞き漏らさないようにした。
「この屋敷に招待すればいい話でしょ」
「「「…!?」」」
その手があったか!でも大丈夫なのだろうか。
「いーわよね?狼千」
「いいのですか狼千様」
「杏がいいなら貸して構わない。私はほとんど家にいないからな。それに屋敷の方が秘密裏に話がしやすい」
「ありがとうございます」
僕は狼千氏に頭を下げた。
僕は、城下で一番大きな公道に立っていた。
「そろそろこちらに着いておかしくない筈…」
「語り手!」
聞き慣れた声を聞き臨戦態勢に入る。直後体に赤いものがぶつかった。
「あぶないですよ。蓉歌様」
だが僕の言葉など聞かず蓉歌様は力いっぱい抱きしめる。
「う~五日ぶりの語り手~」
僕らの様子を見る通行人の視線がいたい。頑張って蓉歌様を引き剥がすと彩明が、大きい荷物を背負って立っていた。
「久しぶりですね語り手さん」
「久しぶり彩明。元気そうでよかった」
何気なく彩明が腕に抱えている荷物を僕は、受け取ると腕が引きちぎれそうなほど重かった。
「痛い!」
「何をしているんですか。語り手さん」
彩明は僕が持った荷物を再度自分で持った。
「彩明が荷物いっぱい持って大変そうだと思って持ったんだけど…」
「あら、ごめんなさい彩明ちゃん。置いてきた荷物持ってきてくれたのね」
蓉歌様は、彩明が抱え持っていた荷物を軽々背負う。僕非力だな…。
「ヒッヒッヒィ!」
「ジャック楽しそうですね」
馬にまで笑われる僕って…。
「語り手こんな往来で落ち込まないで私達を宿に連れて行ってくれないかしら」
「わかりましたこちらです」
「私は宿と言った筈?なぜ民家の前にいるのかしら」
蓉歌様以外は、初めてみる光景に目を輝かせていた。なんせ常日頃雨漏りに悩まされる寺にいる連中が大豪邸にいるのだからあたりまえだろう。
「宿ではありませんが寝る場所を提供してくれるそうです」
「いや、そういう問題じゃないでしょ」
「この屋敷の主である私が良いと言ったのですからいいですよ」
蓉歌様の話を遮るように狼千氏が割って入った。不振な目で狼千氏を見つめて蓉歌様は尋ねた。
「貴方は…?」
「私は、林家当主の林狼千と申します。立ち話はなんですから屋敷へどうぞ」
蓉歌様は不安げに僕を見たが大丈夫だと頷いた。
「わかりました。大人数ですがよろしくお願いします」
寺のみんなは、屋敷に入ると荷物を置いて休憩し始めた。特に隼は、日光の下で移動するのが大変つらかったらしく干からびた蛙のようになっている。
「語り手、驍燿ついて来て」
僕と驍燿は、蓉歌様に呼ばれ部屋を出ようとすると彩明も付いて来た。
「彩明は呼ばれてないからいいですよ。旅の疲れもあるでしょうし」
彩明は胸を張って僕の目を見て言った。
「私は、蓉歌お姉様の護衛ですからついて行きます」
「わかりました一緒に行きましょう」
「どうぞ」
狼千氏は、入り口から一番遠い席に蓉歌様を座らせた。
「貴方がこの屋敷の主でしょう。私をここに座らせていいのですか」
「貴方様は普通なら拝謁かまうことが出来ない方です。そのような方を下座などに座らせられません」
それを聞いて蓉歌様も納得したらしく反論しなかった。狼千氏が座った後、僕らは蓉歌様の背後に立った。
「まず、私どもをここにお泊めいただきありがとうございます」
蓉歌様が狼千氏に頭を下げた。
「いえ、これくらいのこと感謝されるほどのことじゃありません」
「でも私は感謝しています。例えどんな理由でも」
「利害が一致したのですからこれくらい当然です。私は今の政を変えたい、蓉歌様は今の皇帝を変えたい。言い方が違えども同じことです」
意外なほど包み隠さず言ったな。さすがの蓉歌様も驚きを隠せないようだ。
「当代の林家当主は、寡黙で秘密主義だと風の噂で聞いていたのですが違うようですわね」
「その噂は合っています。しかし秘密を持つと信用してもらえないでしょう。違いますか?」
「それもそうですね」
しばらく沈黙が生まれる。お互いが相手を見定め値踏みしているからであろう。
「貴方が私の為に動かせるのはなんですか」
「林家の人間全てと私の領地いかがですかな?」
蓉歌様は、柳眉をしかめる。どうやら内容が気に入らなかったらしい。
「…戦力が足りない。林狼千殿あなたは、院劉殿と竹馬の友だった筈です。私達の仲間に入れることは可能ですか」
狼千氏は眉をひそめた。
「劉はたぶん蓉歌様に会えば協力するでしょう。ただなにぶんあくの強い奴ですから気をつけてください」
あくが強い?
「愚問だ。私が調べていないと思っているのか?だから女性の警護をつけています。これでは不満かしら」
「彩明殿だったな。腕はたつのか」
彩明は、質問の意味が解らないようで黙っていた。
「彩明は、不撓寺で行った武術大会で優勝しています。それに僕は、間近で何度も戦う姿を見ていますがとても強いです」
不撓寺と武術大会と言うと顔色が変わった。
「猛者が多いことで有名な不撓寺で優勝したか。‥‥‥‥劉を屋敷に呼びましょう」
「院劉という方は強いのですか?」
元いた部屋に戻ると彩明は、開口一番に言った。蓉歌様は、そこで大きく溜め息をつく。
「力は並みよ。ただ頭が切れて好色なのよね」
「頭を切ったら死んでしまいますよ」
最近彩明のボケがお決まりになってる気がするなぁ。
「彩明…頭が切れるというのは、頭が良いということですよ」
「へー、なんでそういう風に言うんですかね」
にこにこそういう姿は可愛らしいが何故わからないのか疑問である。
「ということで彩明ちゃん。院劉が私に手を出そうとしたら体の自由を奪うもしくは気絶させて頂戴」
なかなか難しいことを彩明に欲求してるな蓉歌様。
「わかりました。しかし何故ここまで院劉さんを仲間に引き入れたいのですか?」
「院家は林家と同じ五大貴族。一族の人数が少ないものの優秀な者が多い。今の政権では、尚書が二人、侍郎の三人が院家の者なのよ」
「つまりどういうことですか?」
あの説明でわからなかったらどう説明すれば…。僕は、思ったが杞憂らしく驍燿が説明し始めた。
「林家は土台、院家は柱とする。もしこの二つが駄目になったら屋根たる皇帝はどうなるかわかるかい?」
彩明は、思案したがしばらくして顔を輝かせて言った。
「わかった!建物が崩れてしまうんですね」
「その通り。でもこれより先は上手くいってからのお楽しみよ♪」
その夜僕は、彩明を庭に呼び出した。
「語り手さん何ですか?早めに戻らないと蓉歌姉様が心配です」
「ごめんこれを渡したかっただけなんだ」
僕は、彩明に椿寿で買った簪を渡した。
「綺麗ですね…。でもこれ貰っていいんですか?高そうに見えます」
高そうだからいらないと言わないからたぶん気に入ったのだろう。
「いつもお世話になってるお礼だよ。素直に受け取って欲しいな」
「それではいただきます」
彩明がしまおうとしたので僕は慌ててとめた。
「今つけないの?」
「はい、これから護衛ですから動きまわって落としたら大変です」
たしかにそうだ。彩明は、普通の娘さんと違って動き回るから落としかねない。
「お出かけする機会があったらつけますね。ありがとうございます」
彩明は、蓉歌の部屋に戻って行った。
「喜んでくれたみたいだしいいかな」
なぜか物足りない気がするけど大丈夫だろう。なにが大丈夫なのかは、さっぱりわからないけれども。
次の日狼千氏は、劉氏を屋敷に連れて来た。僕が見たところ劉氏は、新緑色の髪に黄金色の瞳をもった美男子だ。
「狼千が俺を屋敷に連れて行くなんて久しぶりだな。杏さんの手料理食べたいな」
「生憎、杏の手料理は食べれない」
「前は食べさせてくれたのにどうしてだ?」
劉氏は、心底意味がわからないという顔を浮かべていた。その態度に非常に嬉しそうな顔を浮かべ狼千氏が答える。
「今、身重の体だからそういうことは控えさせている」
「身重ってことは妊娠したのか。杏さん…。って妊娠!?うわぁ、おめでとう。というより言うの遅いだろ。わかってたらお祝いに何か持って来たのに」
「祝いはいらん。それよりとある方に会って貰いたい」
そう言った途端劉氏は、鼻がつきそうなほど狼千氏に詰め寄った。
「とある方って男?女?俺としては女で美人希望」
「たしかにその方は、女性で美しい方だ。会う気があるか?」
「会うがその前に…」
脇に差した剣を鞘に入れたまま天井を突いた!
「痛っ」
僕は、監視の為にいた天井から落ちた。
「禁軍左大将の俺に見つからないと思っていたのか?」
禁軍左大将と聞いて僕は、恐怖と驚愕で体が動かなくなる。禁軍とは、皇帝直属の精鋭部隊だ。そんな人物に勝てるとは、思っていない。劉氏は、だまったままの僕の覆面をはぎ取った。
「お嬢さんお怪我はありませんか?」
劉氏は、手をとって僕を立たせると手に口づけた。
「こんな仕事でなく私の下で侍女をしませんか?お嬢さん…?」
ふざけるな僕は、…僕は!!
「僕は男だ!」
僕は、劉氏の手を振り払った。
「え!?男?」
「その者は確かに男ですよ。院劉殿」
彩明を連れた蓉歌様が言った。
「貴方はだれだ」
劉氏は、蓉歌様を睨みつけるように見て言った。
「この方は、私が紹介しようとした第二十二代皇帝の御息女蓉歌様だ」
「貴方は本当に皇帝の御息女なのか?気配は武人そのもの。皇帝の御息女が持っているような気配ではない筈」
互いの視線が合わさり火花がちりそうな勢いだ。
「父の威光が無くなり基本信じられるのは我が身のみ。だからこそひたすら勉学、武術を学んできたわ。例え皇女のように見えずとも私は、元皇女として民の為に力を尽くしたい。そう思っています」
しばしの睨みあいの後、劉氏は蓉歌様に膝を折った。
「負けました。院家当主劉、蓉歌様に忠誠を誓いましょう」
蓉歌様は苦笑を漏らす。
「まだ皇帝が在位しているのに禁軍の貴方がそんなこと言っていいのかしら」
「今いるのは禁軍の雲の劉でなく院家当主の院劉です。ご理解いただけますか」
先ほどの緊迫した空気が嘘のようななごやかな雰囲気が流れている。
「冗談よ、冗談。院家は本当に良い当主をもったものね」
「お褒めいただきありがとうございます」
談笑してるしありえないですよ。しかも二人とも美男美女だから絵になっている。
「お話中すみませんが何故徽章を見せなかったのですか。あれをみせればすぐ王家の者とわかった筈です」
徽章は王位についた皇帝の子ども全てに渡される。確か蓉歌様も第二十二代皇帝の徽章を持っていた筈。なのになぜ出さないのか。
「馬鹿ね語り手。徽章を持っていたとしても劉殿はきっとこう言うわ。"徽章を本物の皇女から奪い成り代わろうとしているだけだろう"てね」
「ご名答です」
「ほらね」
まだまだ僕も修行が足りないな…。
「蓉歌様後ろにいらっしゃる可愛いらしい方を紹介していただけますか」
「この子は、私の護衛をしてもらってるの」
蓉歌様は彩明の背を押して劉氏の前に立たせた。
「こんにちは!白スザンナ彩明です」
そう言って彩明は劉氏にお辞儀をした。そんな様子の彩明を劉氏はしげしげ見る。
「彩明さん頭をあげて」
彩明は、返事をして言われたとおり頭を上げた。劉氏は、そんな彩明の手をとり口つける。
「俺と一緒にお茶しない?奢るから」
…は?
「彩明は蓉歌様の護衛だから駄目です!」
「君に聞いてるんじゃないんだよ。僕は彩明さんに聞いてるんだ」
僕は蓉歌様を見たが、気にしないようで
「人の恋路を邪魔すると地獄に落ちるという言葉があるから止めませんよ」
最後に彩明を見たが、
「お茶くらい行ってもいいですよ」
「じゃ、決まりだね。直ぐに行こう」
あっ、という間に彩明を連れて劉氏は出て行ってしまった。呆然としていると驍燿と張平に腕を掴まれた。
「語り手行くぞ」
「そや!あんな尻軽男に彩明はんとらせるわけいかん」
呆然としていた僕は、ただ引きずられるままに屋敷を出た。
「大丈夫だろうか?我が輩、日があるうちは動き難いから様子を見れん」
たまたま近くに来ていた隼が蓉歌にそう言った。
「大丈夫」
だがこの時の蓉歌の顔は完全に女の顔。それを見て女性は、時としてこわいものだなと隼は思っていた。
「着物屋に入って半時経ったで!中で何しとるんや?」
「さぁ、わからん。おい!語り手いつまでもぼっとするな」
頭を叩かれ正気に戻った。
「ここは?状況はどうなっているんだ」
「ここは着物屋の二軒先の影や。で彩明はんは、着物屋に入っているんや」
「あれ彩明ちゃんか?隣に院劉がいる」
驍燿が指差した先には鮮やかな赤の着物を纏った美しい女性がいた。
「まっさかぁ」
「…いや、あれは彩明だ」
僕が贈った簪を頭に着けて笑っている。
「いやいや、女は化けるちゅうけど化けすぎやろ」
「化けるも何も彩明ちゃんは女にすらなっていなかった」
「どういうことや」
「長い間生きているのに彩明ちゃんの雰囲気が女でなく少女だったということだ」
「なるほどそやな…おーい、語り手はん」
「屋敷に戻る」
見てられなくて僕の足が屋敷の方を向く。
「えっ、このままでええんか?」
「いいも何も彩明の好きなようにさせればいい」
僕は、狼千氏の屋敷に戻る前に酒屋により部屋で一人酒盛りをしていた。どうしようもなく飲みたい気分だったのだ。
「語り手~。そろそろご飯…酒臭いこの部屋」
声の人物は、部屋を見渡すと僕に一喝した。
「いくら強いといっても飲みすぎ!」
意識があるから大丈夫だ。
「飲みたい気分なんだ。もう少し飲む」
もう一杯飲んだら少し体が熱くなった。だけど気分はまったくよくない。
「それが少しって量!なんでそんなに飲むのよ。嫌なことがあったのならいいなさい!!」
嫌なこと?すぐに思いだしたのは笑顔の彩明。なんで彩明がでてくる?
「一人で抱え込むな馬鹿!いつも愚痴聞いてもらってるけど聞けないわけじゃないわ!!」
彩明を思いだすと痛いどうしたんだ僕?
「あっ、ごめん言い過ぎ!?」
僕の顔を見て目を見開いたので顔に手をあてると涙がでていた。なぜ?
「謝ることはありません」
そう言って僕はもう一杯飲んだ。




