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りゅうの娘  作者: 猫田33
御旗の下に
20/36

「やっと‥ついた‥‥」


倒れこむと人の目が痛いがそんなこといってられない。


「大げさやな。早よいくでぇ~」


「誰のせいだと思っている!」


茶屋に近づくたびに店の女の子に声をかけ営業妨害し僕が謝罪してきた。しかも店の女の子はずいぶん熱心に僕に客引し離してくれなかった。


「男と女がいる限り惹かれ合うのは当然なんや‥‥。ん?わい今、名言作ったとおまへんか!?」


「あ~、はいそうですね」


「そうやろ!?そう思うやろ。語り手はんもだんだん話わこうてきたな」


蓉歌様はこの男のどこがよくて間諜にしたんだ。僕には理解できない。


「僕は費用の工面をしてきます。蓉歌様達が泊まれる宿の手配お願いしますよ」


「まっかしとき!宿という宿わいは知り尽くしとるからな。ワハハッ」


宿というより宿の女将について知り尽くしてるんじゃないか?


「言い方冷たいのぅ。金の工面ができたらトウエンに集合や!」


「待て!トウエンってどこだ」


だが雑踏に紛れて張平の姿は見えなくなった。


「とりあえず資金の工面が先にするか。椿寿は‥‥?」


大通りを歩くと威勢の良い声が響いてきた。


「はーい!ぃらっしゃい!いらっしゃい!!椿寿の月一の大安売りだよ」


なんともわかりやすいと安心して僕は椿寿の店の中に入るといっせいに店員が挨拶をした。一人や二人じゃなく十人近くの人が言うので気圧される。


「お客様何をお求めでしょうか?日常的な麻の着物から西の国の衣装まで取り揃えております」


「いや、僕は‥‥‥」


店員に木簡を渡した。


「んっ!これは!?」


見た瞬間、店員の顔がこわばる。まさか偽物だったというのか?


「木簡ですね。ご用件はなんでしょう?」


なんだそりゃ!?初めから普通に言えよ


「やはり語り手さんですか」


誰かと思い振り向くと椿寿の店主の成趙真だった。成氏が深々と頭を下げられてつられて僕も頭を下げる。


「ここではなんですから奥へどうぞ」


成氏に言われるまま僕は奥の部屋に入った。通された部屋は小さいながらも品のよい調度品が置かれている。


「ここは身分を隠したい方が好きに選べるように作った部屋です。お屋敷に行ってもいいのですがもって行ける数が限られますから」


貴族にも好かれる理由はこれなのか?


「それはすごい部屋に通してもらったみたいですね」


「今日は、ここを使いたい方もいらっしゃいませんし語り手さんは特別なお客様ですから」


「それは光栄ですね」


比較的和やかな雰囲気の会話をしている所に慌てた足音が聞こえた。


「趙真また仕事ほったらっ!?」


最後までいう前に琥珀はつまづいた。危ないっと思い立ち上がろうとしたが成氏が琥珀をだきとめる。


「琥珀?毎回転びそうになるからゆっくり歩いた方がいいって言っただろ」


「ちょ趙真がちゃんと商売すれば落ち着いてられるわよ。それより早く離しなさい!」


「僕ら婚約してるのにそれは冷たくないかい?」


「婚約したのですか。おめでとうございます」


だが成氏と琥珀は二人の世界に入り聞こえていなかった。


「冷たくないもん。これが元で婚約破棄なんて言われたら私‥‥‥生きていけないわ!」


琥珀は、涙ぐんで趙真を見ている。


「一生一緒にいるよ琥珀」


「趙真‥‥」


そして二人は抱き合い見つめあう。演技じゃなくて素でしてるから恐ろしいよね。よく恋の話であるけどありえないから。しかも人がいなとこでやってくれ。


「お二人さん僕の存在忘れてますよね。その様子だと」


その言葉に琥珀が離れようとするが成氏が抱きしめたままだった。


「離してよ趙真!」


「離れることないって語り手さんも彩明さんと似たようなことしてるよ」


似たようなこと?


「似たようなことってなんですか?」


「また~そんなこと言って二人で抱き合うくらいはしてるだろ~」


何言ってるんだこいつ。


「趙真おやじ臭い」


「俺は早く親父になりたいけどな~。希望としては可愛い女の子っ!」


「気が早い!!」


琥珀が趙真の顎に拳を入れた。上手く決まったのか叫び声もあげず後ろへ倒れた。しばらく成氏は起きないだろう。


「そういえば語り手さんご用はなんです?まさか私達を冷やかしに来ただけじゃないですよね」


「えぇ五千元ください」


「嘘!?さすがにそれは無理」


意外と起きていた成氏が言った。悪いですがこれでも少なめですよ?


「大丈夫です。五千元持っていってくださいな」


「え゛ぇなんで軽々しく言うんだよ」


「もちろんただだすわけじゃないわ。条件として椿寿の着物を語り手さんの主に着ていただくこと。五千元って大金だすのだからこれくらいの条件飲めるわよね」


うーん‥‥、蓉歌様は女性だから服装に関して勝手に決めたら怒られそうだな。そうだ!


「ある特別な日に着るという条件にしていただけないでしょうか」


「えっ?いつ??」


返事のかわりに手をだした。琥珀は、悟りだから蓉歌がどんな人物かわかる筈だ。


「趙真に言えないことなの?でもまぁ面白そうね」


琥珀が僕の手を握ると次の瞬間には琥珀の顔が輝いた。


「いいわよ!この話のった!!趙真五千元持ってきて」


「琥珀!俺の承諾なしに進めないでくれよ」


「私の二百年の商売人としての直感に間違いないわ!」


「えー、仕方ないなぁ‥‥」


趙真は、いったん部屋からでていった。完全に尻に敷かれてるよ。


「それにしても楽しみ~。肘によりをかけるわ」


「腕によりをかけるじゃないですかそれ」


「相手がわかれば自分が間違ってていいの」


いや駄目でしょうそれ。まぁ、琥珀だからしかたないか。


「それは置いといて語り手さん。さすがに椿寿でも五千元をすぐ渡すことは、難しいので店内の商品見ていてください」


まぁそうだろうな。椿寿の一年間の総売上の半分を欲しいと言っているようなものだ。


「わかりました。準備できたら呼んでください」


僕は、部屋から出た。お茶でも飲もう。




「店の中を見ていてくださいって女物ばかりじゃないかまったく‥‥‥」


まぁ、使わないわけじゃないけど今はいらないな。とりあえず全体的に見るか。店の中を歩いていると簪がたくさん置かれた場所にきた。


「男の為とはいえよくこんな重たいものつけるな」


銀の簪や宝石がついた簪、細工が素晴らしい簪などなど置いてある。


「あっ‥」


僕の目は一本の簪に吸い寄せられる。小さな花の細工がほどこしてある銀の簪。花の中央には黄・水色・青・赤の宝石が埋め込まれていた。


「あの‥それお買い上げされるのでしょうか?」


「えっ」


僕はずいぶん集中してみていたみたいだ。店員の一人が恐る恐る僕に聞いてきた。


「僕は‥」


"買わない"と言うつもりだった。でも彩明の顔が脳裏によぎる。そういえば彩明が簪をつけている姿を見たことがない。日頃の感謝をこめて贈ろうか。


「贈り物にしたいんです」


「どなたにお贈りするつもりでしょう」


どなた?彩明は僕にとってなんなんだ??

同僚?妹みないなもの?友達??


「とりあえずこの簪買います。いくらですか」


「一元になります」


一元‥‥‥。ちょっと高い


「まけてくれませんか。半額の五百園くらいに」


「えっ、でも‥‥」


僕は、店員の手を優しく握って言った。


「結婚する妹にどうしてもこの簪を持たせてやりたいんです!こつこつ貯めた五百銭に収まる値段にしていただけませんか?」


店員は真っ赤になって僕を見つめる。ふっ、落ちそうだな。そこに琥珀が割って入ってきた。


昧米(マイマイ)さん、あそこで勘定の手伝いをしてくれないかしら」


「えっ?あっ!はい!」


店員は店の奥に行った。あと少しだったのに


「うちの可愛い店員を口説かないでくださいな。さっきの話無しにしますよ」


顔笑ってるけど目が笑ってないな‥‥。誤魔化すために僕は、笑って答えた。


「それは困りますね」


「なら椿寿でまたこんなことしないでください。まともに買えばいいのに‥‥」


「わかりました。買います、買います。はい一元」


僕は、琥珀の手に一元を落とす。


「たしかにいただきました。でもその簪何に使うつもりかしら?」


「秘密です」


「秘密といっても彩明ちゃんにあげるんじゃないのかしら?確かに彩明ちゃんに似合いそうよね~」


琥珀は、ニヤニヤと僕を見てそう言った。なんでわかった。


「前にみた時あなたに近い女性は三人しかいなかったわ。一人は彩明ちゃん、もう一人は赤髪の美人、最後に黒髪の気の強い女性。自分でつける以外に似合う人は彩明ちゃんくらいね」


琥珀はどこまでよんでいるのだ。今はいない師匠まで出てきている。


「まぁそうです。彩明に日頃の感謝をこめて贈るんです」


琥珀がじろじろ僕を見ている。僕が物見小屋の猿になった気分だ。


「ふーん、好きだからじゃないのぉ?私は応援するわよ」


「違います」


「すぐに否定しなくてもいいじゃないの。まぁ、趙真と結ばれる前の私なら、全力で彩明ちゃんと引き離したでしょうけど」


「なぜ?」


「人間の寿命は短いから‥‥。どんなに大切な人でも自分より先に逝ってしまう。彩明ちゃんのお父様も秋月さんが亡くなってとても見ていられない状態なったわ。彩明ちゃんには同じ苦しみをして欲しくなかった」


たしかに人間の寿命は短いでも。


「嫌な感情を抱くかもしれないから遠ざけるのはおかしいんじゃないですか?」


嫌な感情があるからこそ良い感情がわかるんじゃないか?

嫌な感情がなければ良い感情もないのではないか?


「そう私はそのことを忘れていたわ。趙真と出会ってさよならがこわい。けどそれを恐れて趙真と出会わなかった方がもっとこわい」


琥珀は、凍えるように自分で自分の体を抱きしめた。僕は、何も言えなかった。


「語り手さん、後で後悔しない生き方をしてください。私が言っていいことかわからないけどね」


「後悔していないんでしょう?ならもっと自信を持っていいと思いますよ」


生きていると必ず後悔することがある。大きなことから小さなことまで多種多様だ


「僕も今を後悔していません」


蓉歌様の間諜であることも語り手として過ごすことも全て後悔していない。


「語り手さん準備出来ましたよ‥‥‥?どうしたんです二人とも」


大きな袋を抱えて成氏がやってきた。


「その袋の中ですか?」


「そう‥です」


成氏は僕に袋を渡した。とてつもなく重くて落としそうだ。


「確かにいただきました」


僕が戸口に向かうと琥珀から一言。


「語り手さん約束忘れないでくださいよ」


はい、肝にめいじてます。それを声に出さず頷いただけで僕は椿寿から出た




そのあと見送っていた琥珀が叫んだ。


「あっ!忘れてたわ」


「何を忘れたんだ」


「彩明ちゃんのお父様が近々、様子を見に降りて来ると言ってたの」


琥珀は浮かない顔をした。見に来るくらいでなぜそんな顔をするんだ?


「それくらいなら言わなくても問題ないんじゃないか」


「それがね。語り手さんがどうしようもない人だったら網に重しをつけて一緒に沈めるって言ってたのよ。それか体を爆発させて魚のえさにするって。どうしたの趙真?」


語り手さん健闘を祈ります。

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