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りゅうの娘  作者: 猫田33
不撓寺
18/36

僕は一回戦と同様に勝利した。兵法では戦わぬが上策というしね


「やっぱり勝ちましたか!ハハハッ」


何が面白いんだまったく。


「それより和尚は次でしょう‥‥。相手は誰ですか」


「語り手さん私です」


彩明が控えめに手を上げて答えた。そんなに縮こまらなくてもいいんじゃないか?


「心配しなくても彩明は勝てるよ。僕が保証する」


「語り手、武術の師匠が負けていいのかね」


「はい」


さっきの笑いの仕返しだ。これくらいはいいだろう。でも住職は寺の者らしくないニヤリとした顔を浮かべた。


「俄然やる気がでてきたな。彩明殿に勝てば語り手とも試合ができる」


火に油を注いだだけ!?


「父さん!彩明ちゃん!早くぅ」


痺れを切らした蓉歌の声が聞こえた。


「いってきます!」


「いってらっしゃい」


いつもは送られる側だからちょっと新鮮だ。二人が広場に出ると同時に試合が始まった。




「先手必勝!」


坊主の癖にそんなんありかというとありなのだ。先に仕掛けた場合被害が少なくて済む時もある。僕の仕事もこれの延長だ。最終的に勝てばよい。


「必殺右狼!」


ただの右手を相手に突き出すだけの技と言いたいが地面が凹んでる。さすが狼男といいたいが満月の時はもっと酷い。


「いい目ですね!次は左狼」


今度は左手を突き出すがよけられた。


「名前の通りの技ですね」


あっ、まずい


「左狼!」


彩明は右によけたがしかし右によけた彩明の脇腹に住職の手があたる。住職の左腕でなく右腕が動いたからだ。


「左狼!」


その言葉に反応して今度は逆に動くがやはり彩明にあたる。住職は、僕の武術の師匠でもある。それからひとまず彩明は住職から距離をとった。彩明は眉間にしわを寄せて住職を見る。


「彩明殿は素直でいいですね」


彩明は無言だった。


「何も言わないのならまたこちらから!‥‥‥‥‥!?」


僕もだが周りも何が起きたのかわからなかった。なぜ住職は、逃げている?


「なんで砂が襲ってくるんだ!」


えっ?砂


「痛たたたっ!」


そういえば住職の後ろの方が黄色っぽいような。


「降参だ!試合終了してくれ。じゃないと痛くて堪らん」


「試合終了!勝者、彩明!」


だが砂は相変わらず住職に当たっているようで逃げ回っている。試合は終わっているのになぜ?僕から見えるのは彩明の小さな背中だけで顔が見えない。


「彩明、試合終了だ。聞こえてるか!!」


彩明は何も言わないでたったままだった。なんか嫌な予感がして僕は彩明の所に走る。


「彩明!」


彩明の腕を掴んでこっちを向かせたら目が虚ろだった。


「しっかりしなさい!」


僕の声に気がついたのか焦点が合うと同時に彩明の体が崩れた。いきなり重くなったので支えきれずに倒れこむ。


「彩明ちゃん大丈夫!?」


審判台から降りた蓉歌も駆けつけた。言われて確認すると呼吸はしている。


「気絶みたいだ。彩明の寝所に連れて行くよ」


「私も行く」


「審判があるだろう。審判を放り出して看ていた方が彩明は申し訳なくなる」


自分が倒れたことによって迷惑をかけたことを必要以上に気にしそうだ。


「わかったわ、でももう一人頼みましょう‥‥。父さん!」


離れた場所にいたのに住職はこっちを向いた。


「語り手さんと一緒に彩明ちゃんを看て」


「わかった」


住職は僕の後について来た。僕は部屋につくと彩明を寝かせた。後ろに振りかえると住職が面白そうに僕を見ている。


「僕に何かあるんですか住職」


「いや、何も」


気味が悪い笑顔で答えられると何か企んでそうに見える


「あえて言えば面白い」


はぁっ?


「いやわからなくていいぞ。余計に面白いから」


「あーそうですか。僕は試合会場に行きます。さようなら」


僕が部屋から出て行こうとすると掴まれた。


「あなたが看病なさい。私は用事がありますからよろしく」


そういうと部屋から出ていく。慌てて追いかけたが捕まらなかった。


「仕方ないみるか‥‥」


今のところ熱もなく寝息も規則的でおかしい所はない。


「寝顔みるのは久しぶりだな」


ほっぺが柔らかそう‥‥。つついたら起きるかな?僕は彩明の頬に手を伸ばそうとすると彩明の目が覚めた。


「うわっあ」


びっ、びっくりした。


「語り手さん何がありましたか。私、途中から記憶が‥‥あやふやで。‥‥‥語り手さん?」


床に尻餅ついているのを不思議がったようだ。気を取り直してから言った。


「彩明は勝ったよ。おめでとう」


「あっ、ありがとうございます」


「痛いところはない?住職の拳は効く筈だよ」


何度もくらっているから痛さはわかっているつもりだ。それに住職といえど女の子の体に痣を残すようなことはしていないはず。


「ちょっとお腹が痛いですけどしばらくすればひくと思います。心配かけてすみません」


「大丈夫そうならいいよ。もう昼頃だけどご飯食べられるかな」


「はい、食べたいです」


「ご飯ここに運ぶ?それとも僕と食べに行く?」


どちらかというと僕と来てもらった方が、蓉歌に無事だと見せつけやすいからいいんだけども。


「ここにいても暇なのでついていきます。語り手さん行きましょう!」


「じゃ行こうか」


僕は、彩明と一緒に広場に行った。




だが試合を一段落させてみんなおもいおもいの場所で食べ始めている。蓉歌がいち早く気がついて彩明の所に来た。


「彩明ちゃん大丈夫なの!?」


「はい、‥‥‥お腹空いたのでご飯いただいてもいいですか」


「もちろん。こっち来て」


蓉歌が連れてきた場所は、地べたに座る僧と違い薄手の布を敷いていた。


「座って!食べましょう」


蓉歌が出したのは山菜のお粥を渡してきた。


「ありがとうございます」


「たくさんあるからじゃんじゃん食べちゃて!」


「お昼のあとの試合は語り手と(ツル)よ。まぁ‥‥気をつけなさいね」


鶴は僕の情報網にかからなかった僧の一人だ。住職も隼も曲者だからたぶん鶴という僧もそうだろう。


「でも気をつけなさいとはどういう意味ですか」


「大丈夫心配いらないと思うわ。おほほっ」


怪しい。


「食べ終わったので僕はもういきます」


「私も行くわ!」


「あっら~これが蓉歌ちゃんのお気に入りぃ~綺麗ね~。美しいわね~うっとり~♪」


口がひきつりそうだ。僕より背が高い色男なのに体くねらせて気味が悪い。


「‥‥‥試合の後手ださないでくださいよ。鶴さん‥‥」


「うふっ。蓉歌ちゃん♪なんのことか・し・らん♪」


降参しようか、これ使おうか‥‥でもこれ高いんですよね。


「赤、炊事係の鶴!青、語り手!はじめ」


「あたし~心はか弱い乙女だからお手柔らかにぃ~」


「でも手に持っているの棍棒ですよね?しかも先端‥‥僕の頭くらいの大きさがありませんか」


一発当たっただけであの世にいけそう。


「んもぅ!いい声。益々惚れるわぁん。でも残念、棍棒じゃなくてメイスっていうのよー」


鶴はメイスを横凪にした。僕は体勢が崩れた所に吹き矢を放った。


「いたぁい‥‥?何これ?針」


その隙に僕は鶴から間を開けた。こんな所で死にたくない。死んだとしても寺だから埋葬してくれるかな?


「こちらに来てください。おじさん」


「おじさんじゃなくておねえさん!よっ」


鶴の体が崩れ落ちた。


「聞き始めましたか毒。体がだるくて瞼が重いでしょう。その瞼が降りたら‥‥‥‥‥。ですから降参して解毒を飲んでください」


前に使った強力な眠り薬だが効く時間には個人差がある。


「降参‥‥しないわ。どうせ解毒が必要な毒じゃないでしょう。眠いからお休み」


鶴は本格的に寝始めてしまった。この人、どうやったら勝てるんだ?簀巻きにしても降参っていうとは思えない。


「‥‥‥降参します。鶴さんはしばらくすれば目が覚めます」




僕は観客席に戻った。精神的に疲れた試合だ。彩明が笑って出迎えてくれた。


「お疲れ様です」


「ありがとう」


「いい判断だ。語り手」


住職が苦笑いを浮かべていった。


「住職なぜ苦笑いをしているんです」


「あやつは私を見て”キャー!格好いいわぁ!ワイルドォ!!”と言って‥‥‥私でも手をつけにくい」


住職、身振り手振りまで似せなくていいです。


「住職‥ご苦労様です。そういえば次は彩明じゃないの?」


「まだ呼ばれていません。でももう少しだと思います」


「体の具合はどう?さっきお腹痛がってたよね」


「ご飯を食べたので元気です!」


彩明は力こぶをだすような仕草をして言った。


「よかったね」


「彩明ちゃん次試合よ!」


「またいってきます!」


「いってらっしゃい‥‥無事で」


本当の試験はたぶんこれから。だけど僕は君を信じてる。だから気を付けて。




「これから準々決勝の試合をします。赤、彩明!青、玄関掃除の閑!はじめ」


閑は、身長くらいの棒もって横向きに彩明に走っていった。


「住職あれは何ですか。今まで見たことのない動きです」


閑が振り上げたので彩明は、左手をあげて頭への直撃を防ぐ。


「あれは、和の国の武術でおなごが身を守る為に作られたものだ。語り手も覚えますか?」


話している間にも彩明は肩、腕、頭、脇などの攻撃をかわしていく。今までの棒と軌道が違う?そう思うと足に当たる。


「つぅ」


「足が留守です」


勝ち誇った笑みで閑は、彩明をみた。でも彩明は足をさすりながらも立った。


「さぁ、きなさい!!」


閑は構えを変えず彩明の喉元を突いた。


「とった!」


彩明は閑の棒をよけて掴んでいた。閑は棒を引こうとするが全く動かない。


「うわっ!」


そればかりか彩明は、棒ごと閑を持ち上げてしまった。


「痛っ」


彩明が棒を下に向けた瞬間に閑は、棒から手を離してしまった


「ひぃい」


棒をとられた閑は恐怖からか変な叫びを漏らす。だが彩明は棒を閑にぶつけないで審判台の蓉歌めがけて投げた


「うぉっ、蓉歌!!」


住職が立ち上がったが間に合う筈がない。だが棒は、蓉歌を通り過ぎ後ろにいた僧に当たる。当てられた僧は、痛さのあまりか転げ回った。


「彩明合格ですわ。あとは存分に戦ってください」


蓉歌はケロりとした顔で試合を続けた。だが寺の僧達は、呆然としている。


「語り手‥‥あなたは驚いてませんね‥‥?」


「何かを起こすだろうと思っていたのでそれほどでも?それより倒れた僧助けた方がいいと思いますよ。泡吹いて倒れてますし」


住職が僧を薬堂に連れに行かせた。その時僧が短剣を持っていることに気がついた。


「暗殺者だったのか?‥‥‥全部語り手の調査通りなのかな」


僕も全てわかっていたわけじゃない。武術大会の目的は、蓉歌が彩明の力量を見るためとはいえここまでするなんてな。


「降参します!!」


見逃してしまったが彩明が勝ったようだ。試合を終えた彩明は僕の隣に座ってきた。


「おめでとう彩明」


「ありがとうございます。でもまだ準決勝が残ってますので頑張ります!」


もう優勝しなくても大丈夫だと思うんだけど。頑張るつもりなら応援するか。


「そうか頑張って」


「語り手さんの分も頑張るつもりです」


住職は僧を運び終わり戻ってきた。


「あぁ彩明殿あの場面でよく蓉歌の周りに気を配れましたね。私なんて試合に熱中して気づきませんでしたよ」


「私も最初はあの僧が気にならなかったんです。だけど‥‥みんなと違う行動をしていて目立ってて‥‥‥‥」


彩明の目が半開きになって眠そうだ。


「寝てていいよ。彩明、起こしてあげるから」


「まだ大会が終わってないのに寝るなんて‥‥。蓉歌お姉様の護衛をしないと‥‥‥」


ますます眠たそうな顔をして訴える。


「今日はもう何も起きないから起こすまでお休み」


そして彩明は寝入った。


「語り手何も起きないとはどういうことです」


「蓉歌はわざと僧に自分を襲わせたんです。もう目的を果たしたので何も起きません」


蓉歌は、彩明の実力を充分みたからこそ合格をだした。


「蓉歌めなぜ私に相談しないかな?師範としては尊敬できるが人物的に駄目なのか」


「住職にそんなことしたら止めるからじゃないですか?それに今の蓉歌があるのは住職のおかげだと思いますよ」


それを聞くと住職は初めてみるもののように僕を見た。


「変わりましたね」


「どこがですか?」


変わった所など髪の長さくらいだ。身長は変わってないけど普通の高さです。


「わかりませんか?あなたの心が変わったんです。たぶんここで寝ている彼女のおかげなのかな。私や蓉歌には、変わり始めた語り手の心はとっても嬉しい」


「はぁ、僕にはわかりませんね。とりあえず住職、彩明が横になれる場所ありませんか」


そのとき蓉歌が試合終了を告げた。


「試合終わったから寝かせる必要はないね」


「はい、彩明起きて!次の試合だよ」


彩明は少し目を開けたら眉間に寄せて僕を見た。


「父様まだ寝かせといてください」


するとまた彩明は寝だした。僕は父親じゃないしこのまま寝られても困る。


「彩明、試合終わったら馬拉米羊あげるから起きて!」


「食べ物ですか?」


「甘い蒸し饅頭みたいなものです」


「起きます」


彩明は目を開けて今度こそ起きたようだ。


「あっ、語り手さん‥和尚様おはようございます‥」


眠たそうな目で彩明は、ふにゃふにゃ挨拶した。


「彩明の対戦相手は趙だな。楽しみにしている」


「はい!そういえば和尚様頼みがあるんですが‥‥」


彩明が住職に耳打ちしたが僕には聞こえなかった。


「いい考えだ」


住職が怖いくらいの笑顔を浮かべる。この笑顔の時によいことが起きたためしがない。


「約束違反じゃないですよね?」


「そう約束違反じゃない。よしっ!ちょっくら取りに行くか」


嬉々とした表情で住職は走ってどこかに行ってしまった。


「彩明、住職に何を言っ‥」


「秘密です♪」


それは僕の真似?彩明はそのまま広場にでた。


「はぁーい、ここまできました。準決勝!赤、彩明!青、厨房の鶴!試合始め!!」


「女の子!?可愛いわね~。よろしく~。んもぅ、どうしようかしらぁん」


「えーとっ、よろしくお願いします」


彩明はとりあえずかまえた。でも武器なしにどうやってメイスを相手にするのだろうか‥‥?鶴が彩明にメイスを振り下ろした。


「いっちゃうわよ!」


彩明はなんなくよけメイスが地面にめりこむ。そこに彩明が蹴りを入れると余計にメイスが地面に沈みこんだ。


「うふふ、いつも三十人前の料理をだてに作ってないわ!!」


鶴はあきれそうなほどの馬鹿力でメイスを引き抜く。引き抜かれた箇所には、大人が入る大きな穴が開いた。


「すごい力だな‥‥」


「彩明殿!採ってきたぞ」


住職が麻袋片手に叫んで彩明に投げた。なんか麻袋動いてないか!?


「ありがとうございます」


彩明は麻袋を受け取ると鶴へ指差す。すると鶴は、メイスを構えて彩明へ走った。


「集中してあたしを浮かせようとしてもこれじゃできないでしょっ!」


鶴はメイスを横に振った。ブンッと離れた場所にいる僕の所まで振った音が聞こえる。彩明は、姿勢をかがめ鶴に体当たりした。だがメイスを軸にして鶴は、彩明に回転蹴りをする。


「秘技洗い物叩きよぉ!」


彩明はとっさに腕を出して蹴りを受け止めた。その勢いを利用して地面に手をつき逆立ちで顎を蹴る。僕の周りで歓声があがった。そして両方とも地面に転がり、二人とも立ち上がった。だがふらふらで鶴は、自分で掘った?穴に落ちた。


「きゃー」


彩明は立ち上がるのを止め穴の縁に座り込んだ。何をするんだ一体?彩明は住職からもらった麻袋の中身を穴にあけた。


「ギイャーーーー!!!蛇!百足!蜘蛛!蛙までいるし!!?大ー嫌いーーー!?!」


なら穴から出ればいいのだがふらつきと恐怖で混乱して出れないようだ。


「イヤーー出して!降参!!降参するから出してイーーヤーーーー!」


おぉ!降参って言ったよ。すぐさま縄が投げられ坊主が引っ張った。


「ゼェッゼェ、だっだずがっだ‥‥」


鶴は大の字に寝転がり彩明は、鶴に近づくと頭を下げた。


「あの‥試合の為とはいえひどいことをしてすみませんでした!」


「あなた‥馬鹿!?」


「勝ったんな゛ら‥喜びなざい‥よ。悪いと思ってるなら‥甘いもの頂戴。それでナシよナーシ!」


「持ってきます!」


そして彩明は僕の所へ走って来た。


「語り手さん、甘い蒸し饅頭ください!!」


甘い蒸し饅頭?‥‥‥‥‥あぁ


「馬拉米羊‥‥‥。でもすぐにあげられないんだけど」


「なんでですか!?」


彩明が僕に詰め寄り聞いた。近い、非常に近い。


「それは、僕がこれから作るんですからあるわけありません」


「えっ!語り手さんが作るんですか」


僕が作るのはそんなに変かな。


「ほぉーー、語り手の料理は久しぶりだな」


いつのまにいたんですか住職?


「なぁに?あたしの聖地で語り手さんが料理!?元気でたわぁ!ささっ、一緒につくりましょう!!」


僕は突然元気になった鶴に連行された。


「彩明!決勝がんばれ。彩明なら出来るよ」


連れていかれる間際に言ったけど聞こえたかな?


「料理が出来るいい男なんてぇ。本気で惚れるわ~」


僕にべたべたくっつかないで欲しい。


「鶴さん小麦粉と干し葡萄ありますか」


「そこの棚よ。鍋と蒸し器はそっち」


意外にしっかり整理されていて使い勝手がいい。問題は一度に大量に作る為か容器が大きいことだ。


「普段料理するのん?」


「五年ぶりです」


師匠は料理が下手で僕がよく料理したな。つまみ食いをしないよう死守するのが大変だった。もしかしてつまみ食いも修行の一種だったのだろうか?


「何遠い目してるの。時間かかりすぎると夕飯の支度の坊主が入るわよ」


「あぁ、はい」


僕は急いで準備する。


「出来た」


鶴に茶々を入れられながらも何とか完成した。干し葡萄が入っているから生地自体は、甘さ控えめの予定。


「一個味見」


うん、予想通りの味になっている。


「あたしも頂戴!あら、美味しいわね」


一口で食べてもう一つ食べようとしたので手を叩き阻止した。


「彩明や蓉歌様達の分ですから駄目です」


「ブー」


そこにバタバタ走る音が聞こえて背中に衝撃がきた。


「語り手さん!優勝しました」


よほど嬉しいのかその場で跳んだり跳ねたりしている。でも僕は顔から倒れて痛かった。


「よっ、よかったね」


「あれ語り手さん!?ごめんなさい!」


真っ青になって彩明が謝った。


「大丈夫だから」


「でも鼻!」


鼻?

僕は鼻に手をあてると血が




「全くもうまた血を見て倒れたの!?しかも鼻血で倒れるなんて」


蓉歌は演技がかった呆れ方をした。僕はといえばついさっき目が覚めて床からあがったばかりだ。


「僕のせいじゃないし」


「すみません」


彩明が土下座をして謝った。


「事故だから大丈夫。そんなに謝らないで」


「そうそう語り手が女々しいだけ」


「僕は女々しくない!」


実はそんな自分が女々しいと思っているのが悔しい。


「女々しい?」


「気質が女みたいってことよ」


自信満々に蓉歌はそう答えた。他に言いようがないよな。


「女みたいって何ですか?」


「えっ、女らしいってことかな」


「女らしいって何ですか?」


まさかそんな質問されるなど思わなかっただろう。


「うーん‥‥、なんて言えば‥‥わからない」


「わからないのに語り手さんが当てはまるかわかりませんよね」


まさか彩明が蓉歌を言い負かそうとしているのか?


「そうかもしれないようなじゃないような?」


支離滅裂なこと言い出したし助け舟いれるかな。


「彩明、馬拉米羊美味しかった?」


「はい!とても美味しかったです。料理上手ですね」


「そうでしょ!?語り手が料理上手だから私文句言われてもいいかえせないのよね~」


文句?自分の身を守る為の自己防衛です。


「体に良いからといってめかぶを肉饅頭に入れる人の料理を軽々しく食べないだけです」


「めかぶ入れても肉饅頭美味しそうですけど?」


「そうよね!?そう思うわよね」


いやいやホカホカの肉饅頭にヌルッとしためかぶは、美味しくないよ。なんか二人ともそこの所抜けてないか。


「蓉歌の料理なら何でも美味しいと思うが?」


住職もですかまったく!普通の味覚の持ち主はいないのか。


「あたし嫌よ~。断然月餅!あの甘さにめかぶの磯の香りが絶対あうわ」


普通の完成の持ち主だと思ったがやっぱり駄目な人だった


「普通の味覚の持ち主はいないのか‥」


そして肩に手を置かれた感覚がして振り返ると隼が左右に頭を振る。


「否定するってことは隼さんも困ってたんですか?」


「悪いけど一番味覚がおかしいのは我が輩だよ。人の血が一番好きなのだからね」


自覚あるだけいいと思うけど僕は血は‥‥嫌い、苦手だ。


「人には好みがあるから仕方ないですよ。それより今は何時ですか」


「亥之刻です」


亥之刻!?ずいぶん寝ていたもんだな。


「みんななんで僕の寝所にいるんですか」


「もちろん!彩明殿の優勝祝いの酒盛りの為に決まっているだろ。この部屋は池も月も見えるいい部屋だからな」


顔を真っ赤にした驍燿が住職の肩をくんで言った。


「そうそう!彩明ちゃんの最後の試合凄かったぞぅ。八勁して相手の坊主が十歩吹っ飛んだんだぁ。ありゃあ爽快だった」


十歩とはずいぶん吹き飛ばしましたね。


「相手の僧はどうなったんですか」


「食らってすぐ泣いたうえに失禁して降参したぞいやはや面白かった」


住職は、晴れ晴れとした顔をして言った。


「貴様という奴は性格が悪い」


「素直に感想を述べたまでだ。お前も聞いてすぐ笑いこげていただろう隼」


へぇ、隼でもそんな態度をするんですか。


「そうそう、いーつもクールだからぁ面白かったわぁ」


「鶴その言葉使いと態度いい加減やめてくれ。気色悪い」


「ならぁ、この部屋からでて行けばいいでしょん。語り手さんあたしでて行かなくていいわよね」


‥‥‥‥‥‥‥。


「僕がこの部屋からでていきます。ここで寝れそうにありませんから」


さっきまで寝ていたから少し体が怠い。しかもまだ眠い


「語り手どこで寝るの?他に部屋空いてないわよ」


蓉歌が壺に肘をついて言った。寝る所は寒いかもしれないがある。


「本堂」


僕は布団ひきずり本堂に運んで寝た。

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