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「おい!そこの女何者だ。名を名乗れ」
厳つい顔の男二人が門の前に立ちふさがった。
「はい‥‥私、瑠璃と申します。こちらの屋敷で働き口があるとお聞きして参りました」
「うむ、わかった。中でも確認があるが入れ」
厳つい顔の男達は退いた。結構簡単に通すな。好都合だけど心配な警備だ。
「はい‥‥わかりました」
女らしく女らしく、大股で歩かない。
「きゃっ!」
門につまづいた!やばい!?
「おっと、大丈夫ですか?美しいお嬢さん」
目の前にはなかなかの色男が立っていた。
「えぇ、大丈夫にございます」
それよりこの男誰だ?
「成様!そのものまだ琥珀様に確認をしてもらってございません」
この男が主?僕と対してかわらない歳かな。嫌だけど僕より背が高い。
「俺が気に入ったから無し」
確認なしよしゃ!でも気に入った‥‥‥!?
「しかし!」
「あぁもうわかってる。僕のこと面白くなくい奴が、いるっていうのは十分承知してる」
"僕も面白くない奴の一人です"って言ったら面白そう。
「それに琥珀様は先々代から成家を支えてこられた方です。念のためにも‥‥」
琥珀って結構歳とってるのか。
「…わかった私が琥珀の元に連れていく。お嬢さん名前は?」
「瑠璃にございます」
「じゃあ行こう」
そういうと屋敷から離れ花に囲まれた家に向かった。成は家の前まで行くと戸を叩いた。
「琥珀!いるかい」
「はい!います。中に入って待ってくださいっつぅ。噛んだ!」
若い女性の声だがずいぶん慌ただしい。
「琥珀たらっまたやってるよ」
成は優しく優しく微笑んだ。ふーん、面白そうですね。僕達は家の主に会う為に部屋へ入った。
「趙真!いつもより早いわね‥‥‥?誰、その人??」
銀髪の美しい女性がでてきた。この人が琥珀って人なのか?
「名前は、瑠璃っていうらしいけど素性をいつもので調べてくれないかな?あとで甘味持ってくるからお願い」
「いいわ、趙真しばらくいつもの場所で待ってて」
成は部屋から出て行った。趙真って成のことか。
「さっ、ここに座って。手だしてくれる?」
「あっ、はい」
手を出すと琥珀は手袋をとってから優しく僕の手を包んだ。そしてしばらく黙ってしまった。
「そう‥‥男の方なの」
それを聞いて驚いた。
「趙真に手を出さないなら言わないわ‥‥‥‥。あら彩明ちゃん!?なんで!?」
琥珀は初めて微笑以外の顔をみせた。
「なぜ彩明を知っているんですか」
「彩明ちゃんの父君と知り合いなの。私が前見た時もう少し小さかったわ。目に入れても痛くない可愛がりようだったのよ」
「彩明の父と知り合いってことは‥‥‥」
「そう私は人間じゃなく和の国の怪で悟りっていうの知ってる?知らないみたいね。悟りは考えや気持ちがわかる怪で私は手で触れるとみれっ」
琥珀は、突然手を退いた。
「どうしましたか」
「…彩明ちゃんをここに呼んで今すぐ」
さっきとはうってかわり暗い表情を僕に見せた。
「だから、どうし」
「とっととっ!呼びなさいとんま!!」
「わかりました!呼ぶから黙って下さい」
僕は、屋敷から飛び出し彩明の部屋の前に来ていた。
「彩明!いる?ちょっと着いてきて」
彩明の部屋の戸が開くと珍しく不機嫌な彩明が出迎えた。
「どうしたんですか急に?」
「お願いだから着いて来て欲しい」
僕は彩明の手をとって走った。だが屋敷の手前まで来ると髪を布で隠した琥珀がいた。
「瑠璃さんこっち」
「久しぶりね彩明ちゃん」
「琥珀おばさま」
本当に知り合いだったようで二人とも楽しそうだった。
「おばさまじゃなくてお姉さんでしょ。ここじゃなんだからついてきて」
そういって屋敷に行こうとすると転びそうだったので抱きとめた。
「キャ!」
「大丈夫ですか?」
「えぇ大丈夫‥‥。さっ、今度こそ行きましょうか」
僕達は、屋敷の裏手から屋敷に入った。さすがにさっきと同じように正門から入るのは無理か。
「彩明ちゃん、お父さんは元気かしら?最後に会ったのは二百年前だったわね」
「‥‥‥」
「彩明ちゃん大きくなった上に綺麗になったわね」
「‥‥‥‥」
さっきから彩明は無反応だ。
「甘いものまだ好きかしら?饅頭あるけど食べる?」
これには頷いて答える。いつもは、それなりに話すのにどうしたのだろうか。
「彩明聞いてるのに答えないのは失礼じゃないか。いつもは話すのに」
「ふふっ、久しぶりで恥ずかしいんでしょう。どうぞ」
僕達の前に饅頭と茶が出された。
「どうもいただきます」
出された茶は、よいものなのか渋みの中にほんのり甘さを感じる。
「琥珀おばさま私になんの用ですか」
やっと口にだした言葉は、少々殺気が含まれていた。さっきは楽しそうだったのになぜ?
「彩明ちゃんあなたは白家を捨てるの?あなたのお父さんはきっと悲しむわ」
白家?
「その話は語り手さんがいない時にして下さい」
「今ならまだ蓬莱山に戻れるわ。お父さんからのお使いは、終わったんでしょう。お父さんを一人にするの?」
彩明の顔に少し動揺が走った。でもあの吸い込まれそうな黒い瞳をまっすぐ琥珀に向ける。
「私はまだ帰らない。もし父様が戻ってきて欲しかったら私に連絡が来ます。私は失礼します」
「完全にお父さん大好きっ子だったのにどうしたのかしら」
琥珀は、顔に手をつけて悩んでいる様子。
「琥珀さん約束通り彩明を連れてきました。だからなぜ成氏が女性ばかりを雇っているか教えてくださいませんか」
そんな約束してないからはったりだけど。
「あらそんな約束したかしら」
「はい、しました」
「覚えてないのだけど仕方ないわね」
よし!
「それにしても私も理由がわからないのになんでそんな約束したのかしら」
わからないのか‥‥。てっきり成氏の大事な人だと思ったのにな。
「もともと私の休養の為に趙真が屋敷を建ててくれたの。この街人が少ないじゃない?あまり人の心を読まなくていいから助かるのよね」
「でも琥珀さんは離れに住んでますよね。なぜ屋敷に住まないんですか」
琥珀は俯きながら答えた。
「趙真は独身で金持ちでその‥‥格好いいでしょ?だから雇った女中たちの心を読むのが嫌で恐くて‥‥」
「思いをよせる男に女に言い寄るのが、面白くないだけでしょう」
「彼女達はそれだけじゃ‥‥」
眉間に皺を寄せて答えた。せっかく綺麗な顔なのにもったいない。
「琥珀について言ったのになんで女中の話になるんですか」
「えっ!私!?私は趙真のことが好きなわけじゃ‥‥」
顔が真っ赤になって否定してるが絶対気があるな。作戦変更で琥珀にとりいるか。"将を射んと欲すればまず馬を射よ"というし。恩を売るのも悪くない。
「成氏も琥珀のこと好きそうな気が‥‥」
この作戦は無謀な賭けじゃない。琥珀にたいする声がとても優しかった。
「あるわけないわ!?早くに母親が亡くなったから母親がわりにみてるだけよ!」
あー、なんか可哀想になってくる逃げ方。
「それは、心をみて言ってるんですか」
「‥‥‥‥‥‥雇って貰ってる主の心をみるわけないわ」
まったくそうくるのか。単刀直入にこれでどうだ。
「じゃあ、個人として心の中をみに行きましょう。撃沈したら慰めることくらいしますよ」
僕はできる限り微笑んだ。
「‥‥‥趙真の心をみるだけですよ?」
「それだけで十分です。行きましょう」
僕らは屋敷に向かった。
「あれ?騒がしいですわね。なんででしょう」
確かに離れにいた時はわからなかったがずいぶん五月蝿い。僕が最初来た時は静かだった
「わかりませんが怒号と悲鳴が聞こえますね」
「えぇ」
屋敷に近づくと女中らしき年配の女性がこっちに来た
「玉林どうしたの?」
「琥珀様、離れにお戻り下さい!帰らない娘や妻を取り戻そうと男達が押し入ってきました!!」
「なんですって!成様はどうしましたの!?」
「今、勇敢な少女が守っています!でもいつまで保つか‥‥」
僕は、女中の肩を掴んだ。
「どんな少女ですか!?もしかして男物の服をきてましたか!!」
女中は体を強ばらせたがすぐ答えた。
「はい!でも男!?なんで琥珀様と一緒に‥‥」
彩明が危ない!
僕は、目を閉じて気の流れを感じた。規則正しく正常に気は流れている。まずは体の中の気の流れをかえた。そして深く息を吸い体にいつもの倍の気を流しこむ。振動いつもよりも流れる気で心の臓が大きく波打つ。
準備は整った。あとは時間内にことを済ませるだけ。
屋敷に着くとそこは阿鼻叫喚とかしていた。女達は叫び男達は建物を壊し暴れていた。
彩明はどこだ!僕は、向かってくる男達の鳩尾や脇腹などの急所を狙って昏倒させて進む。
「彩明どこだ!!」
気のおかげで身体能力と視力は上がっているがきりがない。早く決着をつけないと!ある一カ所に行くと男達が群がっていた。そして周りがうるさくて聞きづらいが彩明の声が聞こえた。
「退け!」
僕は何人かの男達を蹴り飛ばした。気がついた何人かが、先の尖った棒を突き出した。僕は、簡単に棒を取り上げ長めの棒で群がっている中心に‥‥‥跳んだ。
「彩明!!」
彩明はさすがの大人数で捌ききれていない。しかも後ろで成氏がへばっていた
「語り手さん!?」
僕は彩明を殴ろうとした男の上に落下し、僕は腿から吹き矢と小刀をだした。
「無事か!?半分任せなさい」
「この吹き矢と小刀には毒が塗ってある!死にたくない奴はここから逃げろ!」
向かってきた馬鹿がいたので吹き矢を吹くと男は、僕の手前で倒れた。それをみた他の男達は逃げていく。
「彩明こっちは終わったっグゥ!」
本日最大の痛みの彩明の拳が見事に腹に当たった。
「私が死なないように手加減してたのに殺してどうするんですか!?」
「強力な‥眠り薬だったんだけど」
「えっ?」
「殺せば後始末が大変じゃないか‥‥‥。もう騒ぎも治まったみたい‥‥」
「語り手さん!?」
悪いけどもう無理‥‥‥‥。術の反動で本日最大の疲労に陥り意識が落ちた。
うっ、やっぱり体痛いし重い。
とりあえず目を開けると明るい日差しとそれに照らされる彩明が見えた。あの後、無事だったんだねよかった。そのうち彩明が目を覚ました
「おはよう彩明」
「‥」
「どうしたの?」
なんにも言わないけどもしかして夢?でも彩明がみるみるうちに目に涙を溜めて抱きついてきた。
「語り手さん!」
だが、僕は触られるだけで激痛がする。
「痛いっ!痛いっ!痛いから離してっ!!」
「離さない!二日間寝ててものすごーく心配したんだから!!」
二日間?そんなに無理したっけ??
「そうだぞ語り手あんまり彩明ちゃんに心配をかけるな」
驍燿が腕を組んで偉そうに立っていた。そしてその傍らには‥非常に幸せそうな二人がいた。
「琥珀さん、成さん」
「彩明ちゃん二人が、語り手に礼を言いたいそうだからここから出よう」
彩明は、ゆっくり僕から離れて部屋から出て行った。
「語り手様ありがとうございます」
先に成氏が頭を下げた。次に琥珀も同じように頭を下げる。
「私も瑠璃さ‥じゃなくて語り手さんありがとうございます」
「‥‥‥頭を上げてください。それに私が何について感謝されているのかわかりません」
「趙真の命を救ってくれたことと私の‥‥後押しをしてくれたことです」
二人は一緒に頭をあげると笑いあった。そういえば琥珀は手袋をせずに成氏と手を繋いでいた。
「おめでとう。お似合いです」
そういうと琥珀は、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「語り手さんが倒れた後、琥珀が勇気を出して言ったんです。琥珀が言わなくても俺は、琥珀のこと愛してるというつもりでしたけど」
「もう!自力みたいに言ってますけど、彩明ちゃんに泣いて相談したんですよ。でも‥‥私も語り手さんが、こうなったのに言えなくて。彩明ちゃんに怒られてやっと言えたんです」
彩明らしいな。それにしても胸焼けしてくる仲の良さだな。
「そういえばなんで女性達を囲ってたんですか?」
元はと言えばそれがことの発端だ。
「それが‥‥その‥最初十人雇ったんですけど言い寄られても全く琥珀が気にしないから‥」
「次々に雇って嫉妬させたかったと?」
「まぁ‥‥そんな感じです。はい」
どんだけ金持ちなんですか。あとそれで死にかけたんですけど殴ってもいいですかね。
「椿寿を背負ってたつんだからしっかりしなさい」
「すまん」
椿寿?椿寿ってまさか。
「あのどの州にも必ず一店あるあの椿寿!?五本の指に入る大金持ちじゃないですか!」
元々は飲茶楼をしていたが五代目が、布地専門の店を開いて大成功。今は他にも店を出している。
「えぇ、そうです。もしなにか困ったことがあったら椿寿でこれを見せてください」
手と同じくらいの大きさの木簡を渡された。成趙真と掘られている。
「それは、うちの店の名前にもなっている椿の木の木簡です。ほんのお礼として貰ってください」
ずいぶんすごいお礼だな。
「ありがたく頂戴します。体が動かないのでその卓の上にでも置いてください」
「語り手さん本当にありがとうございました」
そう言って二人は出て行った。少々話すぎて疲れたからまた寝よう。
また目を覚ますと白山羊が目の前にいた。しかも山羊なのに眉間に目がもう一つある
「えっ!なんで山羊!?」
「失礼な!儂は白沢の眼遠じゃ。まったく‥‥はるばる和からお主を治療しにきたというのにひどいの」
縦に裂けたような瞳が非難げに僕をみた。
「治療?‥‥とりあえずありがとうございます」
「まったく‥お前さんが倒れて琥珀が儂を呼んだんじゃ。着くと体のダメージはひどい、熱もでて大変じゃったわ。儂じゃなきゃ死んでもおかしくないわ。お前さん運がよかったの」
彩明が心配するわけだ。でもダメージってなんだろうか。
「ダメージってなんですか?」
「ついつい西の国の言葉を使ってしまった。痛みの蓄積の割合みたいなものだ」
「うーん‥、だいたいわかりました」
「ならよろしい。それで儂が治療して今の状態に持ち直した。だるいだろうが体が動くじゃろう」
確かにだるいが体が動く。
「腹が空いたんじゃないかね。そろそろ夕飯がくる筈‥‥おぉ!彩明殿」
「語り手さんもう体大丈夫ですか?」
「大丈夫です。心配かけたみたいだね」
「みたいだねじゃないです語り手さん!死にかけてたんですよ」
それでも彩明は、手に持っていた粥をゆっくり僕に渡した。
「もっと言ってやりなさい!どうやしたらあぁなるのか不思議じゃ」
「それは‥‥気の操作と彩明の怒りの一発のせいかと」
彩明の拳はものすごく痛かった。
「気の操作!?お主功夫なのか」
「そんな大層なもんじゃないです」
「やはり世界は広いの~和は、巫女や神官あと霊媒師がいたがの。もどきでも功夫はいなかったのぅ」
髭?らしきものをしきりと撫でてそういった。
「じゃが!今後この技を使いなさんな。大きな力に体がついてきてない。死にたくないなら使わないことじゃ」
「出来ればそうします」
絶対使わないなんてことは約束出来ない。その答えに彩明が血のように真っ赤な瞳を僕に向けた。その瞳がちょっと怖い気もする。
「語り手さん!絶対使わないと約束して下さい」
「絶対は無理。僕は出来ない約束はしない」
どんな犠牲を払っても守りたいものを守る。それが僕の覚悟だ。
「私や驍燿さんがいるのにどうして頼らないの?」
「彩明、君はまだ正式に仲間じゃない。あと驍燿は仕事の為なら僕を捨てるよ。驍燿の一番は主だからね」
間諜は足手まといなら、例え味方でも後腐れないように始末する。使えない奴は捨てられて当然の世界だ。
「ならなんで私を助けたんですか?私の助けに来なかったらこんな風にはならなかった筈です」
なんでだろうね?あの時頭に血が昇ってて考えもつかなかったよ。
「わからない。とりあえず粥食べていいかい?僕、猫舌だけどこれ以上経つと冷たくなる」
「そうですねどうぞ」
僕は久しぶりのご飯にありついて体がだんだん温かくなってきた。やはりご飯は偉大だ。
「それだけ食欲があるならの。あと三日安静にすれば体調が戻るじゃろ」
僕は、いったん食べるのをやめお礼を言った。すると彩明も眼遠に深く頭を下げた
「頭をあげなさい彩明殿の父上とは飲み仲間じゃ。今度行った時うまい酒か肴をだしてくれるだけでいい」
「わかりました。準備しておきます」
「うむ、楽しみにしとる。そういえば語り手殿よい縁を持ったの。よい縁は切るでないぞ」
そういって眼遠は楽しそうに部屋からでていった。
そして部屋に沈黙が居座った。僕は気を紛らわせる為また粥を食べ始めた
そういえば気にならなかったけどここはどこだろうか。宿屋じゃないことだけはわかる。
「彩明ここどこなの?」
「えっ、ここは趙真さんの屋敷です。語り手さんが、倒れた三日前からお世話になってます」
三日‥‥ずいぶん寝てる。おかげで今は怠いけど眠たくない。
「彩明」
「なんですか?」
赤い瞳を僕に向ける。さっきと違い温かみのある赤だった。
「彩明は白彩明っていうのか?」
「うーん‥、正しくは彩明 susanna 白なんです。それがどうかしましたか」
「西の国の人なのか!?」
目以外は夏華国に多い黒髪に黄色い肌だ。そんなこと思うまい。
「父様が西の国で生まれたんです。それで父様はsusannaとつけようとしたらしいんですけど、母様が漢字がいいと喧嘩してこうなりました」
彩明って名前は母親がつけたのか。
「語り手さんこそ名前はなんですか?驍燿さんに聞いてもわからない知らないの一点張りでした」
「‥‥‥‥‥名前?」
僕に名前なんてあっただろうか。師匠は餓鬼とか言ってたし主も語り手と呼ぶ。拾われる前も名前はあったのかな?
「名前は‥‥ない。名前と呼べるのは語り手くらいだ」
「また秘密なんですか。語り手さんいくつ秘密が‥」
冗談と思ったらしく彩明は笑っいるが、本当に名前がない。逆に自分が知りたいくらいだ。
「ないのに秘密もなにもないでしょう」
「親は‥‥あっ!ごめんなさい」
「いいんだ。名前なんてなくても生きていける」
それよりも名前で呼ぶ人がいなかった。ここんとこ何年かは一人で過ごしていのもある。
「本当にそうですか?私は自分の名前を呼ばれると嬉しいです。彩明って名前は、私だけの名前で私を見てくれてるってことですもの」
そんなものかな?集団に混じって個をだしてはいけないからわからない。
「勝手につけちゃいますかね?どーしよーかな~?」
「彩明がつけてもそれは渾名にしかならないでしょう」
「それでもいいんです!琥珀お姉様に言ってた瑠璃は女みたいなかんじだし‥」
「僕は語り手で充分です」
「考えつかないから保留!とうぶん語り手さんのままにします」
「わかった」
それから彩明に器を渡すとまた眠たくなって寝た。
僕は一軒の家に向かって急いで走っている。
(母さん!父さんが内乱に巻き込まれて死んだっておじさんが!!)
僕が言うとやつれているが綺麗な女性が、目を見開いて僕を見た。よろよろ近づいて何をするかと思ったら。
(母‥‥さ‥ん?‥‥苦‥しい)
首を絞められた。
( 嘘を言わないで!あの人が!あの人が!死ぬわけないわ)
僕の首を絞めながら殺気だった目で僕をみた。
(離し‥‥て)
( みたいな悪い子にはお仕置きするの!)
よけいに首を絞められ視界が霞む。
(‥母‥‥さん)
突然の痛みに意識がはっきりする。
「起きろ馬鹿!自分の首絞めてどうする!!」
驍燿が僕にどなりつけた。
あれは夢?それとも忘れた過去?
「彩明ちゃんが泣いてきて呼びにきたと思ったらなんてことしてるんだお前は!!」
少しずつ意識がはっきりしてきた。それとともに殴られた頬の痛みと血の味がした。
「‥‥‥夢をみてた」
夢なんて久しぶりにみた。
「どんな夢ですか?」
彩明もいたようで目が赤くて頬に涙の後があった。夢の内容をきいたらもっと泣くだろう。彩明を見ていると大切に育てられたのがよくわかる。
「‥‥忘れました。起きてすぐは覚えてたんですけど」
あんな夢忘れるわけがない。
「そうか、ならいい。怪我人は早く寝ろ」
「ありがとうおやすみ」
それを聞くと驍燿は、一度こちらを向いたがすぐに部屋から出て行く。僕は、笑顔を貼り付けて言った。
「彩明も起こしてごめんね。寝にいっていいよ」
「語り手さんが、寝るまでここにいます」
拳を握って僕を見て言った。もしかして嘘ついたのわかったのか?
「何かお話や歌でも歌いますか?父様は私が眠れない時よくそうしてくれましたから」
「そうなんだ。でも僕は一人で寝れるから大丈夫」
小さい子が母親にいう言葉だよなこれ。
「人の行為をむげに断らないでください。あっ!でも私半分りゅうですけど」
笑わせようとしたのかわからないけど面白い。
「そういえば父様が目を瞑って羊を数えるといいと言ってました」
「羊?結構前に北の種族の所にいった時しか見てないな」
あの時は羊が、珍しく寄ったら泥棒と間違われ襲われた。お陰で命からがら逃げた。
「そんな所まで行ったんですか!?いいなぁ~行きたいな~」
彩明の目が夜空の星のように輝いた。相手を思い尊重して垣根を越える彩明なら仲良くなれそうだ。
「彩明なら行けそうな気がするよ」
「本当ですか!?その時は語り手さん案内よろしくお願いします」
「えーあー‥うん、わかった」
期待の眼差しをうけられたら否定できない。
「やった!」
「そういえば語り手さんに寝てもらうはずだったのに騒いでごめんなさい」
「いいんだ。お詫びとして歌を歌ってよ。それでなし」
「はい!」
そして彩明が歌った歌は、聞きなれない西の国の歌。でもその歌は優しく温かくてすぐ眠たくなった。
それから数日は何事もなく過ぎ出発することになった。
「僕らが乗ってもいいんですか?」
なんと僕ら三人は、成氏の所有する馬車に乗せてもらえることになった。
「もう一台馬車がありますから大丈夫です。俺達のせいで目的地につくのが、遅くなる方が面目ないです」
「返すのは椿寿の支店のどこでもいいですよ。無事に着いて下さい」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとう趙真さん、琥珀お姉様」
「ジャックも馬車につけたからもういつでも出発できるぞ」
驍燿が馬車に乗っていった。僕と彩明も馬車に乗り込んでから馬車は発車した。
「元気でね!大変だろうけど良い縁が‥‥‥」
琥珀が言ったことは途中から聞こえなかった。




