子供のころから遊んでいたレベル1ダンジョン、日本大会で世界記録を出してしまった
教室のスクリーンに、一人の男の写真が映し出された。
「この人、知っている人はいますか?」
歴史の授業で先生がそう聞くと、何人かの生徒が手を挙げた。
「世界最強ハンターでしょ?」
「ダンジョン攻略時代の英雄」
「確かS級ハンターだった人」
先生は満足そうにうなずいた。
「その通りです。ダンジョンが世界中に出現した“攻略時代”において、最も有名だったハンターの一人ですね」
スクリーンには、当時の映像が映る。
崩れた街。
巨大なモンスター。
戦うハンターたち。
「彼はS級ハンターとして数々のダンジョンを攻略しました。そして最終的に挑んだのが――」
画面が切り替わる。
そこに表示された文字。
最終ダンジョン:強制レベル1ダンジョン
教室がざわつく。
「なにそれ」
「入るとレベル1になるやつ?」
「それ無理ゲーじゃん」
先生は説明を続けた。
「このダンジョンでは、どんなハンターでもレベル1になります。スキルも装備もほとんど意味を持たない。純粋な技術と経験だけが頼りでした」
少 し間を置いて、先生は言う。
「そして、この英雄は――このダンジョンを攻略しました」
教室から感嘆の声が上がる。
「マジかよ」
「伝説じゃん」
その時、教室の後ろの席で、一人の少年がぼんやりとスクリーンを見ていた。
(へぇ)
写真の男は、見覚えがあった。
というか。
よく知っている顔だった。
なぜならその人は、昔から家によく来ていたおじさんだからだ。
アレンの家は町外れにあった。
そしてその近くには、小さなダンジョンがある。
子供の頃、近所に住んでいたおじさんがよく声をかけてきた。
「暇か?」
アレンがうなずくと、おじさんは言う。
「遊びに行くか」
行き先はダンジョンだった。
「危なくないの?」
少年が聞くと、おじさんは笑った。
「大丈夫だ。ここは特別なダンジョンだからな」
ダンジョンの入口をくぐると、体がふっと軽くなる。
後で知ったことだが、そこは強制レベル1ダンジョンだった。
どんな人でもレベル1になる特殊な場所。
さらにもう一つ、特徴があった。
このダンジョンでは――
死なない。
モンスターに倒されても、外に戻されるだけだった。
その代わり、痛みはしっかりある。
最初は怖かった。
スライムが出ただけで逃げ回った。
でもおじさんが言う。
「横に避けろ」
「攻撃は一回でいい」
「足を狙え」
「慌てるな」
そうして何度も何度も潜っているうちに、少年は普通に戦えるようになった。
モンスターの動きがわかる。
罠の位置もなんとなくわかる。
けれど、ある日。
アレンは言った。
「このダンジョン、もう飽きた」
おじさんは少し笑った。
普通の人間なら、百回挑戦して一度成功できれば優秀だと言われている。
けれどアレンは違った。
十回目の挑戦で、九十九階層を突破した。
そして三十回を過ぎる頃には、当時の世界最速記録よりも速くクリアしていた。
「そうか」
放課後。
少年は駅前を歩いていた。
広場に大きなポスターが貼ってある。
日本ダンジョン大会 予選
開催場所を見て、少年は足を止めた。
強制レベル1ダンジョン 99階層
(あれ?)
見覚えのある場所だった。
説明を読む。
現在の最速記録。
2時間3分
アレンは思った。
(遅くない?)
優勝者は全国大会へ。
さらに上位者は海外遠征。
少年は少し考えた。
(他のダンジョン行けるなら……)
軽い気持ちで、参加申し込みをした。
大会当日。
会場は観客でいっぱいだった。
実況の声が響く。
「今回の大会、舞台は強制レベル1ダンジョン!」
「かつて英雄が攻略した伝説のダンジョンです!」
「現在の最速記録は2時間3分!」
「元S級ハンターの記録ですね!」
少年はあまり聞いていなかった。
ただ普通に入口へ歩いていく。
「アレン、おじさんからのアドバイスだ。いつも通りに序盤はレベル上げ、そしてアイテム集め……」
「終盤は逃げでアイテムでボスは倒せでしょ。何回も聞いたよ」
「大丈夫だな。行ってこい!」
英雄に背中を叩かれ、アレンはダンジョンに入る。
見慣れた通路。
見慣れたモンスター。
少年は走った。
避ける。
倒す。
罠を飛び越える。
モンスターを誘導する。
全部、いつもの遊びと同じだった。
四十七分後。
ダンジョン出口のゲートが開いた。
スタッフが固まる。
タイマーを見る。
47分
実況が言葉を失う。
「……え?」
「クリアタイム、47分」
「世界記録です」
会場がざわつく。
「おかしいだろ」
「どうやったんだよ」
プロハンターがインタビューを受ける。
「いや……ヤバいっす」
「動きが……子供の戦い方じゃない」
「なんていうか……」
「ずっとここで戦ってた人の動きなんすよ」
「何者なんすか、あいつ。もしかして英雄の……」
夕方。
少年は普通に帰宅した。
途中でおじさんの家に寄る。
「おじちゃん」
「今日楽しかった」
おじさんが笑う。
「そうか」
少年は言った。
「でもこのダンジョン、やっぱり飽きた」
「今度は他のとこ連れてってよ」
おじさんは少し考えてから言った。
「いいぞ」
「じゃあ次は世界だな」
テレビのニュースが流れる。
「本日、日本ダンジョン大会で驚異的な記録が出ました」
「かつて英雄が攻略したダンジョンを47分でクリア」
「なおこのダンジョンは、英雄が最終ダンジョン攻略の報酬として設置したものです」
「魔物との和平の証として――」
「誰も死なないダンジョン」
少年はテレビを見ていない。
ただ言った。
「おじちゃん、次いつ行く?」
英雄は笑った。
「いつでもいいぞ」
世界最強のハンターにとって。
それはただの遊びの続きだった。
そして少年にとっても――
英雄は、ただの遊び相手だった。
久々の短編で現代ダンジョンものです
読んでいただきありがとうございます。




