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第九話 魔滅少女と“塔”の魔人③

 アイーシャたちを乗せた馬車は、半日をかけて目的地であるサージブルへと到着した。


 「これは……やばい感じがビンビン伝わってくるぜ」


 分厚い黒雲が塔中心に広がっている。

 

 エヴァンの目に映るのは、城塞都市と呼ばれるにふさわしい、高い城壁。


 そして都市の真ん中に聳え立つ、禍々しい螺旋を描いた巨大な塔。


 「あの塔に、魔人がいるのかしら」


 ルミナスの言葉に、アイーシャとルイダは同時に頷いた。


 「あの黒雲。塔から漏れ出した魔力に反応して作られてる……ありえないよ、気持ち悪い」


 「……とても……嫌な、魔力」


 パンッ、とエヴァンが手を叩く。


 「とにかく、ここにいても仕方ねぇ。準備が必要だ。近くにある見張り場に行こうぜ」


 「エヴァンのくせに仕切るな! でも、まぁそれがいいわね」


 「分かってくれて助かるぜ~、ルイダちゃん」


 「――くぅ~! バカにすんじゃないわよ!」


 軽口を叩きながら、エヴァンとルイダが先行する。


 「……緊張感、ないね」


 「あの二人は、昔からああでしょ」


 二人の背中を見ながら、アイーシャとルミナスは呆れながら後に続いた。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 「師団長殿! ようこそお越しくださいました」


 見張り場へ到着したアイーシャたちを、隊長らしき偉丈夫が出迎える。


 「エドマン。挨拶は抜きでいい。状況を教えてくれ」


 先ほどとは打って変わり、エヴァンの顔つきから柔らかさが消える。


 「はっ。現在、サージブルの街には魔物が溢れており、住民らは怯えて暮らしております」


 「ちょっと待って――」


 エドマンの説明を遮るように、ルイダが叫ぶ。


 「住民って……、人間がまだ生きているの? あの中で……」


 「はい。確かに確認が取れております」


 ギリッ、とエドマンは破裂しそうな激情を抑え込む。


 「――人質、ですよ。我々がむやみに攻めていけないように……」


 「しかし、どうやって確認を――」


 ルミナスは、己が不用意に言葉を放ったことを後悔する。

 

 エドマンの顔が、いよいよ怒りと悲しみで崩れた。


 「――住民らは、我々に助けを求めました。何度も、城壁によじ登って」


 大粒の涙が、エドマンの頬を伝う。


 「しかし、城壁に登った人間を、魔物は襲い、殺し――死体を城壁の外へ放り投げました」


 想像するだけで悍ましい光景。


 エドマンの話を、アイーシャたちは手を震わせながら聞く。


 「“塔”の魔人を名乗る者が、我々へ言ったのです。――この都市に手を出せば住民は皆殺しだ。」


 そして、とエドマンが魔人の最後の言葉を述べる。


 「どうせ、俺たちが挟み撃ちにしたら、人類は終わるだろうけどな――と」


 「――は?」


 アイーシャたちの思考が、一瞬固まる。


 「……挟み撃ち、って……何」


 アイーシャの問いに、すぐに答えを口に出すものはいない。


 「まさか、もう一体、魔人が?」


 「そんな! 女王陛下は、そんなこと一言も……」


 アイーシャ、エヴァン、ルイダは焦燥の声を漏らす。


 「そのことですが――」


 エドマンは一通の封書を机上に広げた見取り図の上に広げる。

 

 「“塔”の魔人が言っていることは真実と、女王陛下より尋問で得た情報がありました。北と南、両側から我が国は攻め込まれます」


 「それを、なぜ先に言わなかった!」


 エヴァンが机を殴り、立ち上がる。


 怒りと焦りが混じる眼光を、エドマンへ向けた。


 「女王陛下が、この件は皆さまには秘密にするように、と」


 「は? なんでそんなこと――」


 「守られたんだよ。私たちは」


 激昂寸前のエヴァンとは対照的に、ルミナスは冷静に話す。


 「間違いなく、王都は防戦一方の戦いになる。国民を守る戦いでは、不測の事態が起こる可能性が高いから……」


 ――君たちには、先を照らす光がある。アイーシャの同行は、国と君たちの生存確率を上げるのだ!


 出立前、女王ミーシャがルミナスたちに告げた言葉が想起される。


 「私たちは、私たちが存分に戦える場所へ、誘導されたんだ」


 重苦しい空気が充満する。


 反骨心を剥き出して、ここまでやって来ることさえ、女王ミーシャの掌の上。


 「だったらよぉ」


 エヴァンが大剣を振り上げる。


 振り下ろされた剣は、地図と封書と机を真っ二つに叩き斬った。


 「――さっさと“塔”の魔人をぶっ潰して、王都に戻るしかねぇだろうが!」


 エヴァンを筆頭に、四人は見張り場を全力で飛び出す。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 多種多様な魔物が闊歩するサージブル市街。


 “塔”の魔人により、「普段の」生活を強いられている市民らは、すれ違う魔物に怯えながら過ごす。


 買い物をし、学校に行き、仕事をする。


 その町の様子を、螺旋の塔の上から眺める影があった。


 小柄な少年ほどの背丈。

 

 左右非対称な、継ぎ接ぎの服。


 顔の化粧は白のベースに丸や四角などの図形が、色とりどりに配置されている。


 まるでピエロのような出で立ち。


 “塔”の魔人は、楽しそうに笑う。


 「どうやら、人間がやって来るね!」


 大仰に、魔人は両手を広げた。

 

 「あぁ! たくさんの人間が、今から死ぬよ。目障りな人間たちが! なんて、愉快なんだろうっ!」


 くるり、と魔人は振り返る。


 暗闇に包まれた部屋。


 「――お前も、楽しみだろぉ?」


 真っ暗な部屋の中で、二つの眼光が赤く光る。

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