第八話 魔滅少女と“塔”の魔人②
トントントン。
木製の扉が優しくノックされた。
「……はい。……入って……いいですよ」
いかにも建付けの悪い扉が、ゆっくりと開く。
「アイーシャ! お久~!」
開いた扉の隙間を縫うようにして、ルイダはアイーシャへ飛び込んだ。
ルイダに巻き込まれる形で、アイーシャは固いベッドに押し倒される。
「ルイ……ダ? どうして……? 凱旋式は……」
「もう終わったよ! あんな退屈な式。こんなのもらったけど」
ルイダは胸元に着けた白薔薇のブローチを引っ張る。
「ぶっちゃけ私、要らないんだよね~。この魔装具」
「……ルイダ……もともとバカ多いからね……魔力」
「バカって言うな、バカって!」
「――二人とも、そろそろいいかしら?」
ベッドの上で重なり合う二人へ、ルミナスは呆れ気味に声をかける。
「……ルミナスも……久しぶり」
アイーシャはルイダに支配された視界の隙間から、ルミナスの姿を見る。
「久しぶりね。アイーシャ。傷は、もう大丈夫?」
「……ん。私は、もともとそんなにケガしてないから……。エヴァンのとかの方が……心配」
「俺は、ピンピンしてるぜ。お前のおかげでな!」
アイーシャからは見えないが、恐らくルミナスの隣に立っているだろうエヴァンが答える。
アイーシャはルイダを押し退け、座り直した。
「それで……こんなところに……皆、何の用?」
アイーシャは困惑したように三人を見渡しながら問いかける。
「なーにー? 用が無きゃ来ちゃいけないわけじゃないでしょ~?」
「……私に会うには……許可が必要なはず……王様か、宰相の」
ルイダの軽口を流しながら、アイーシャは淡々と言う。
ルミナス、ルイダ、エヴァンは顔を見合わせて、小さくため息をついた。
ルミナスが口を開く。
「あなたの言う通り、私たちは女王陛下に言われてここに来た。――ごめんなさい」
「……なんで謝るの? そういう……決まり……でしょ?」
さも当然、と語るアイーシャの態度に、ルミナスの胸が締め付けられる。
「俺たちはな、これから南の城塞都市“サージブル”に行くんだ」
「サージブル……。もしかして、魔物の群れでも出た?」
「お前、知ってたのかよ」
「……何も。……ただ、南から感じる……魔力の質が最近、変わったから……」
スッと、アイーシャはルミナスを継いだエヴァンに視線を向ける。
「……でも、魔物の群れだけなら、私は足手まとい……」
アイーシャの視線が、心配そうに三人を見つめる。
「……魔人?」
一言。
アイーシャが発したその一言に、目の前の三人の表情が強張る。
「で、でも。アイーシャが無理について来ることはないんだよ! 私たちだけで、何とか……」
「いや。アイーシャ、あなたにも来てほしい」
「ル、ルミナス姉ぇさま!?」
ルイダは予想外の返答をしたルミナスへ勢いよく振り返る。
「アイーシャ。私は、あなたの今の待遇が正当とは思えない」
ルミナスは一歩前へ。
アイーシャの前へ躍り出る。
「戦で武功を上げて、仲間を一杯助けて……私たちのもっと近くにいて?」
ルミナスは片膝をついて、ベッドに座るアイーシャと緯線を合わせる。
「これは、あなたにとって、とても価値がある戦だと思う」
「……私は、みんなと一緒にいれるのが……幸せ」
アイーシャはルミナスに手を取られて立ち上がる。
「……武功とか、ブローチなんていらない。……皆が私を必要としてくれるなら……それで充分」
アイーシャは、紫の三角帽を被る。
「……行こう。魔人を倒しに……サージブルへ」
ルイダはアイーシャの左腕に抱き着き、その手を引いていく。
エヴァンを先頭に、四人は乗ってきた馬車に乗り込む。
殿で扉を閉めたルミナスは、遥か遠くに微かに見える王城へ視線を向けた。
(――アイーシャを、戦争の道具みたいに言わせない。この戦いで、変えて見せるわ……)
馬車の中からルミナスを呼ぶ声が上がる。
ルミナスは立ち止まっていた足を再び動かし、馬車へと乗り込んだ。




