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第七話 魔滅少女と“塔”の魔人①

 凱旋式が終わり、ルミナス、エヴァン、ルイダは揃って玉座の間の出口へと向かう。

 

 「あー。ちょっと待ってくれ、師団長たち」


 後ろから聞こえてきた声に、三人はピタリと足を止める。


 「――何かございましたか。女王陛下」


 ルミナスが緊張を孕んだ声で問う。


 女王ミーシャは相変わらずの薄笑いを浮かべている。

 

 「いや、なに。実は頼みたいことがあってな」


 「おいおい。女王陛下は頼みじゃなく、命令すればいいじゃねぇか……です」


 「敬う気持ちを見せてる分よしとするが……。まあいい。ちょっと、場所を変えよう」


 そう言ってミーシャは踵を返すと私室に繋がる扉へと歩き出す。

 

 後ろ手に手を掲げ、三人について来るようジェスチャーをした。


 訝し気に、三人の師団長はミーシャの後をついていく。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 「さて、まぁ、適当に掛けてくれ」


 通されたのは私室の隣にある執務室。


 大きく、重厚な色合いの机の上は整然と整っている。


 ミーシャは椅子に掛け、両手を顔の前で組みながら、三人に目の前のソファを勧めた。


 「女王陛下。お話とは、何でしょうか」


 「まぁまぁ、そう固くなるな、ルミナス。まずは腰掛けなさいな」


 パチン、とミーシャは右手で指を鳴らす。


 ――ルミナスは、いつの間にかソファに腰掛けていた。


 (――!? 何が)


 自分の意志を介さないまま、体が動いたとしか考えられない状況に、ルミナスは激しく混乱する。


 「お、お姉ぇ様。大丈夫ですか。顔色が……」


 「ルミナス。お前、結構素直なんだな」


 「なんでもないわ。二人とも」

 

 自身に起こった異常事態を理解しない二人に、ルミナスは必至に笑顔を取り繕う。


 ルイダとエヴァンの視線が自分から剥がれたとき、ルミナスはミーシャを強烈に睨みつけた。


 ニヤニヤと、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ミーシャは話始める。


 「さて。皆が座ってくれたところで、本題だ。あ。この部屋は盗み聞き禁止の魔法をかけてあるから安心しろ」


 ミーシャは魔法でもって、巨大な地図を三人の前に広げる。


 今、ルミナスたちがいる王都を取り囲むように中都市が六つ。


 その周囲や、さらに外側には、複数の村落が確認できる。


 「さて、この場所なんだが……」


 ミーシャは地図上に大きな赤丸を一つつける。


 ちょうど、王都から真南に位置する中都市だ。


 「この、城塞都市“サージブル”にて、実に困ったことが起きている」


 「困ったこと?」


 ルイダが、ミーシャの言葉を復唱する。


 その言葉にゆっくりと頷いたミーシャが次に放つ言葉で、この場にいる者たちは心から驚愕する。


 「――“サージブル”は、魔族の手に落ちた」


 ミーシャはそう言うと、サージブルの街を黒く染めた。


 「それじゃあ、俺たちが軍を率いて街を奪還して来い、ってことか……です? 」


 「エヴァン、お前、そのしゃべり方止めろ。気が散る。それに、その推察は違うぞ」


 どういうことだ、と三人は得心を得ない表情でミーシャを見つめる。


 「……都市を、諦めるということですか? 中都市は、王都防衛の拠点とうかがっていますが……」


 「お、お姉ぇ様の言う通りです。私たちなら、奪還くらい……」


 各々の意見を、ミーシャは黙って聞いている。


 「事態は、そう単純で、簡単ではないんだ……」


 ルミナスたちが一通り喚くのを黙って聞いていたミーシャが続ける。


 「――この件には、魔人が絡んでいる」


 ヒュン、とルミナスらの心臓が一度大きく拍動する。


 背筋は冷たく、汗が首筋を伝う。


 「魔人……。こんなに早く、次が……」


 ルミナスは粉々に砕けた自分の盾を思い出す。

 

 小刻みに震える手は、自分ではどうしようもできないほど震えていた。


 「その情報。確かなんすか? 」


 「先の戦で捕らえた、人語を話せるオークを尋問して吐かせた。信憑性は保証する」


 エヴァンの問いかけに、ミーシャは淡々と答える。


 「なるほど。そりゃあ、軍隊率いていくことなんて無理だわ。無駄死にさせるだけだ」


 「私たちの役目は、サージブルの状況調査と、魔人の討伐……」


 「そんな大きい作戦。お姉ぇ様たちとだけで……? 」


 ルイダは不安そうに声を上げる。


 そんな彼女を、ミーシャは妖し気に微笑みながら見つめる。


 「ん? お前たちには秘密兵器があるじゃないか」


 ミーシャの笑顔が、一層不気味さを増した。


 「――“魔滅”を使え。あれは対魔人の秘密兵器だろうが」


 バンッ、とルミナスは目の前の机を叩き、立ち上がった。


 「アイーシャを、そのように呼ぶのはやめてください!」


 空中で、ルミナスとミーシャの視線がぶつかる。


 「――あれは、魔人を屠るためだけに生かされた存在だ」


 「違います。彼女は、自分の意志で生きているのです」


 力強く言い返すルミナスの姿勢に、ミーシャはため息をついて両手を上げる。


 「分かった。君たちの気分を害する気はなかったんだ。謝罪しよう。


 しかし、アイーシャは連れて行ってもらうぞ」


 「アイーシャを、危険にさらせ、と? 」


 「違う――!! 」


 ルミナスの言をミーシャは強く否定する。


 「アイーシャなしで、お前らは魔人に勝てるのか? 」


 ルミナスは、その問いに口を噤んだ。


 エヴァンとルイダも、互いに顔を見合わせながら、首を横に振る。


 「魔人は、桁違いに強い。君たちには、先を照らす光がある。アイーシャの同行は、国と君たちの生存確率を上げるのだ!」


 ソファに座りながら、三人は悔しさのあまり唇を嚙む。


 (――結局。私たちもアイーシャの“能力”に頼ってしまっているのね……)


 ルミナスの口の端から、血液が滴り落ちる。


 「明朝、出立してもらう。準備を進めておけ」


 ミーシャの一言で三人は執務室を後にした。


 一人執務室に残ったミーシャは、何年かぶりに己の杖を手に取る。


 (打てる手は、打った)


 ユラユラと、ミーシャは静かに己の中にある莫大な魔力を練り始める。


 ふぅ。と大きく息を吐き、ミーシャは王都の街並みに目を落とす。


 「あとは、こっちの問題を何とかするだけだ――」

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