第五話 魔滅少女と“戦車”の魔人④
絶体絶命の一撃を防ぎ、多くの人命を救った英雄、アイーシャ。
ルミナスの願いに呼応するかのように颯爽と現れた彼女は、今。
「ぶべっ!」
見事に顔面から着地し、お尻を上げながら固まっていた。
「え?あ、……は?」
一拍遅れて、ルミナスがよろよろと駆け寄る。
「アイーシャ!あぁ、アイーシャ!信じてた!ありがとう!!」
ギュッとルミナスに抱きしめられ、アイーシャは背骨の危機を感じ始める。
「……ルミナス。……痛い」
「あ、ごめん!嬉しくて、つい……」
バッと、ルミナスが離れたことで、ひとまず背骨への脅威が去ったアイーシャは改めて魔人を向く。
魔人は、突然現れた少女に好奇の目を向ける。
「……まだ、そんな目で……人間を見れるの?」
アイーシャは静かに、しかし語気に怒りを込める。
「私たちを……コケにしたこと、……償わせてあげる」
魔人の背後から、10本の光線が放たれる。
パンッという音と共に、10本すべてが霧となって消えた。
「無理。……あなたはもう……“解析”した」
20本。
30本。
――100本。
放たれた魔人の魔法は、そのすべてが消滅する。
「ヴォォォォォォォォォ!」
魔人の雄たけびが戦場に響く。
魔人の周りには、数十匹の狼が生み出された。
それらは一斉に、アイーシャへ襲い掛かる。
「……ん」
まるで踊るように。
あるいは狼たちと戯れるように。
アイーシャは、周囲から襲い掛かる狼たちを躱しつつ、そっと触れる。
「……うん。“解析”した」
パンッ、とアイーシャが手を叩く。
一瞬にして、周囲を取り囲んだ狼の群れは、一匹残らず消え失せた。
アイーシャが何をしているのか、魔人は理解ができない。
慌てたように突き出した右手に、三度、魔力が集約されていく。
アイーシャの隣で、ルミナスは反射的に身を硬直させた。
「大丈夫。……心配しないで、……ルミナス」
そっと、アイーシャはルミナスの手を握る。
微笑みでアイーシャの優しさに応えるルミナスを見て、アイーシャは魔人に向き直る。
「もう……終わりにするよ」
アイーシャは何かを探すように魔人の頭上を見上げ、気だるげに右手を払うように動かした。
バシュッと、手のひらに集まった魔力は消え去る。
魔人は、驚愕を混ぜた仕草で両腕を見る。
「……うん」
アイーシャは再び、上空へと視線を投げた。
「ルミナス。……今から言うこと。……エヴァンに伝えて」
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(あぁ……。ちくしょう)
(まさか、こんなことを言う日が来るなんてよぉ)
(でもまぁ、こればっかりは、しゃーねーよなぁ)
(――ありがとうよ、ルイダ!!)
冷気を帯びた風を浴びながら、エヴァンは雷を帯びた体で滑空する。
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その雷光は、一瞬だった。
魔人の頭上から現れたエヴァンは、一直線にその頭部目掛けて大剣を振り下ろすべく、空中で上段に構える。
『エヴァン。ルミナスよ。アイーシャから伝言があるから、そのまま伝えるわね』
『ルミナス!大丈夫かよお前!それに、アイーシャも一緒か。一体なんだ』
『“地雷は……もう、取り除いてる”ですって』
たった一言。
しかし、それを聞いたエヴァンに勝利を感心した笑みが浮かぶ。
『ルミナス。アイーシャに伝えてくれ――』
上段に構えた大剣を、さらに力強く握る。
『――やっぱ、お前は最高だぜっ!』
振り下ろされた大剣は、
――今度こそ、魔人の脳天を正確にとらえた。
「食らいやがれぇ!“雷装演舞・爪斬撃”!」
落雷と共に、魔人の体が中央から左右に割れる。
エヴァンの周囲に溜まっていた雷の鎧が外れると、エヴァンは着地したその場に倒れこんだ。
「ちょっと、エヴァン。大丈夫?」
「あぁ、ルミナス。俺は大丈夫だ。反動でしばらく動けねぇけど……。そんなことより、ルイダを、頼む」
「……わかった」
短い返事を残し、ルミナスはルイダの元へ駆け寄っていく。
首一つ動かせないエヴァンの耳に、懐かしい声が聞こえてきた。
「……エヴァン。……グッジョブ」
声だけしか聞こえなかったが、エヴァンはアイーシャが今、どんな顔をしているのか、何となく想像できてしまった。
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【オリエンテイト歴445年
赤土の荒野にて、“戦車”の魔人が出現。
ルミナス率いる第一師団をはじめ、第一~第三までの活躍で無事勝利。
決め手となったのは、魔法を消滅させる少女、“魔滅少女”アイーシャの功績が大きい。】




