表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第四話 魔滅少女と“戦車”の魔人③

 ゴフッ。


 ルミナスの口から、血が滴る。


 光線の数は、700を越えていた。

 

 絶え間なく生み出される光線を防ぐために、広範囲に展開された魔法の盾は、同時にルミナスの魔力を加速度的に奪い取っていく。


 (――一撃でも防げなければ、後ろの戦場が吹き飛ぶ)


 重く、速く、強い一撃。


 その数が、1000にまで達しようとしている。


 (どんなに体が悲鳴を上げても、この盾だけは……外さない!)


 舞い上がる爆煙を裂くようにして次々と押し寄せる光の雨。


 その圧倒的な物量による蹂躙が――突如として、途切れた。


 (な、なにが……)


 チラッと、ルミナスは傍らで座り込みながら魔法を使い続けるルイダを見る。


 もう、立ち続ける体力も残されていないらしかった。


 「ルイダ!大丈夫?」


 「へ、平気……で……す。お姉ぇ……さま。ルイダ。ちゃんとやりますから」


 か細い声が、聞こえた。


 ルイダの限界を感じ取り、ルミナスに焦りの感情が芽生え始める。


 (アイーシャ。早く来て……!)


 無自覚に湧き出た、懇願するような感情を振り払うかのように、ルミナスは首を振る。


 そうして改めて、ルミナスは爆煙の向こうにいるであろう魔人へと向き直した。


 爆煙が、ゆっくりと晴れていく――。


 「……なに……あれ」


 それは、例えるならば太陽だった。


 魔人が作り出した光球は、圧倒的な存在感を有している。


 ルミナスへと向けられる膨大なエネルギーの塊は、すでに放たれるのを待つのみの段階にあった。


 (あの魔人……!)

 

 ギリッと、ルミナスは奥歯を噛みしめながらわなわなと震えている。


 (私にあれを、あの破壊力を感じさせるために、わざと煙が晴れるのを……!)


 これほどまでの屈辱をルミナスは久しく感じていない。


 魔人は絶対的な強者の立ち位置から、只管に人間を見下す。


 「負けるものか……」


 ルミナスの口から、自然と零れる。


 「あんな外道に――負けてなるものか!」


 魔人の手から、莫大なエネルギーを内包した巨大な光球が放たれる。


 ルミナスはすでにある盾の前方に、瞬時に5枚の盾を展開する。

 

 「うっ、ぐううぅぅ……」


 声にならぬ呻きを上げながら、吐き出されそうになる血を必死に飲み込む。


 (守る!守る守る守る守る!!!)


 光球が、一枚目の盾の元へ到達した。


 これまでとは比べものにならないほどの衝撃が、ルミナスの全身に伝わる。


 ――音が、消えた。


 眩い閃光が戦場全体を包む。


 巨大な爆発音が耳を貫いたのは、数秒遅れてのことだった。


 「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ルミナスの雄たけびはかき消され、盾は次々に砕け散る。


 暴力的な爆風が収まると、ボロボロの盾一枚を残した状態でルミナスは立っていた。


 (……防いだ?守り切っ……た?)


 立っているのもやっとの状態で、ルミナスは現状を把握する。


 自分の背後には爆発の爪痕は認められない。


 ドサッ。


 隣でした小さな物音にゆっくりと目を向けると、ルイダが横向きに倒れていた。


 肩で大きく激しい呼吸をしている。


 (ルイダも、限界……か)


 大きな一撃を防いだルミナスは、仲間の安否を気遣う余裕を見せた。


 ――その顔は、瞬く間に絶望へと歪む。


 「二撃……目?」


 手を前に突き出した魔人の前に、先ほどと同じ光球が産まれている。


 徐々に大きさを増し、遂に先ほどの光球のサイズを超えた。


 (ふざけるな……)


 ルミナスはこの世の理不尽を呪う。


 (ふざけるなふざけるなふざけるな!こんな、こんなこと……)


 己に残されたのはボロボロに歪んだ盾。


 どう考えても、魔人の次の一撃を防ぐことは不可能だった。


 「……けて、くれ」


 ルミナスは、もはやなりふり構わず叫ぶ。


 「たすけてくれ!アイーシャァァァァァ!!」


 魔人の手から、破滅をもたらす一撃が放たれた。


 “戦車”の魔人がその砲台より放つ一撃。


 迫る光球のまぶしさにも目を背けずにいたルミナスだからこそ、その瞬間を見た。


 視界の左から突如、光球と自分の間に割り込んできた人影。


 三角の帽子をかぶり、手首には3つのブレスレットが輝いている。


 次に起きたことは、ルミナスが予想した通りの出来事。


 ――禍々しい破壊の一撃は、細かな光の粒となり、空中へ霧散した。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 凄まじい光だった。


 馬車の中からでも感じた、圧倒的な暴力。


 アイーシャは逸る気持ちを落ち着かせるようにブレスレットを撫でる。


 (無事だよね……みんな……)


 「アイーシャ様!そろそろ戦場に出ます!まずは総司令部でレミリオ様と――」


 「……最前線へ」

 

 ハッキリと伝えられた要求に、御者の男は明らかに動揺する。


 「は?最前線って、魔人がいる場所ですよ!?そんなところにいきなり行っても――」


 「今じゃなきゃ……多分、間に合わない。……みんな、死ぬ」


 アイーシャの言葉に、御者は困り果てた表情を浮かべる。


 しかし、彼女の懇願する瞳に根負けしたのか、御者は進路を最前線へと向ける。


 「……俺のことも、守ってくださいよ。アイーシャ様」


 「ありがとう……えぇっと……」


 「オルク、です。俺の名前」


 「ありがとう。オルク。……また聞くかも」


 「ええ、私が名乗るの、5回目ですからねっ!」


 オルクが操る馬車の中に、焦げた匂いが入り込んでくる。


 「そろそろ森を抜けます!そうしたら、戦場と……魔人が、見えると思いますよ」


 「……オルク。あなた……風魔法は使える?」


 「え?一応、得意な方ですけど……」


 「じゃあ……」


 アイーシャはオルクに向かい、耳打ちをする。


 猛スピードで進む馬車が出す風切り音の中でも、確実に自分の言葉を伝えるために。


 「……正気ですか」


 「ある意味、正気じゃ……やってられない」


 馬車は、勢いよく森を飛び出した。


 「アイーシャ様!見えました!ルミナス様たちと、魔人です!」


 「……やって」


 大きな樽にすっぽりと収まったアイーシャが言う。


 オルクは樽の側面へ手をかざした。


 「……あのぉ~。一応確認ですけど、……いいんですね?」


 「いいから……はやく」


 諦めたようにため息をつくと、オルクはかざした手から風魔法の一つ、“豪嵐”を放つ。


 回転を加えられた空気の束が、アイーシャが入った樽を勢いよく押し出す。


 空中で樽は粉々に砕け、アイーシャの体だけが一直線にルミナスの元へと飛んでいった。


 「たすけてくれ!アイーシャァァァァァ!!」


 ルミナスの声が聞こえる。


 「……うん、いま助けるよ」

 

 アイーシャは小さく笑いながら呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ