第十八話 女王陛下と“節制”の魔人①
城塞都市“サージブル”で勃発した、“塔”の魔人との戦いは、アイーシャたちの勝利で幕を閉じた。
大小無数の傷が刻まれた鎧。
瞳の奥から滲みだす疲労の影。
それらが、“塔”の魔人と対峙した彼らの死闘を物語っている。
魔人によってつくられた禍々しい螺旋の塔。
その内部の階段をゆっくりと下り、アイーシャたちは塔の外へと出た。
「街は……あらかた、片付いたみてぇだな」
「ずっと、私たちの合図を待ち、刃を研いでいたのでしょう」
街を見渡すルミナスとエヴァンの後ろで、ルイダはアイーシャと小声で会話する。
「ねぇ、アイーシャ。あなた一人で魔人をやっつけちゃったわけ? どうやったのよ」
「……今回は……運が良かった……他の奴なら……普通に殺されてた」
「でも、すっごいじゃない! 後で詳しく教えてよ」
「……話せないことも……ある」
「えー。いーじゃん!」
ルイダがアイーシャの右腕を握り、ブンブンと振る。
「……ルイダ……痛い」
「ルイダ。アイーシャも困っているから、やめなさいな」
「――! はいっ! お姉ぇ様」
すかさず手を離したルイダは、ルミナスの隣へ並ぶように前へ出た。
(……まだ……言っちゃダメ)
一人後ろを歩くアイーシャは、内心で独白する。
(……まだ……“解析”できて……いない)
「おうおう。シけた面してんなよ!」
いつの間にか、アイーシャの隣に来ていたエヴァンが声をかける。
「言いてぇことも言えねぇことも、誰しもあるもんだ。それが分かんねぇんだよ、あのガキは」
言った直後、それなりの距離があるにも関わらず、エヴァンを睨みつけるルイダと目が合う。
「あら? どうしたの、ルイダ」
「何でもありませんわお姉ぇ様。少々、コバエが煩くってぇ~」
前を向き直ったルイダの地獄耳に、エヴァンは戦慄した。
「……エヴァンは」
不意に名前を呼ばれ、エヴァンはアイーシャを見下ろす。
「エヴァンは……話してないこと……あるの?」
「あぁ。あるぞ。でもそれでいいだろ」
「……うん……いいと思う」
アイーシャは、古い本の最後に書き足された走り書きを思い出す。
【王国内部に魔王の影がある。気を付けて……】
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街を出たアイーシャたちは、見張り場へと戻ってきた。
「おぉ! 英雄たちのご帰還だ! 皆、来てくれ!」
見張り場の責任者、
エドマンが、アイーシャ達を盛大に出迎える。
「エドマン。こんな大々的に……」
「何を言ってんだ、エヴァン。お前もすっかり謙虚になっちまって……」
「なんか、この人……」
「最初に会った時と、違いますね」
「……エヴァン。……呼び捨て」
困惑するアイーシャ達を振り向き、エヴァンは面倒そうにエドマンを指さす。
「あー。この人、俺の叔父さんなの」
「甥っ子が立派になって……叔父さん嬉しいぞ!」
意外なつながりに目を丸くして硬直している女子三人から目を離し、エヴァンはエドマンに向き直る。
「ところで、王都からは何もないのか」
「あ、あぁ……あるには、ある。だが――」
「見せろ」
言葉を濁すエドマンにエヴァンはきつく詰め寄る。
エドマンは渋々といった様子で、一通の手紙を差し出した。
「エヴァン!」
急いで中を確認しようとしたエヴァンを、エドマンが止める。
「――いいか。これは同じ王国に仕える者としての警告だ。女王の意思をないがしろにするな」
「それは――」
エヴァンは椅子に座り、ルイダ達も見えるように合わせながら、手紙の内容に目を通す。
「そんな……ウソでしょ……」
ルイダが漏れ出すように言葉を吐き出し、ルミナスは強く唇を噛む。
直後。
誰からと言わず見張り場を飛び出し、彼らは北へ向かうべく、馬車に飛び乗った。
「叔父さん」
去り際、エヴァンが背中越しにエドマンを見る。
「――そりゃあ、ケースバイケースってやつだろ……」
エヴァンは、大きく馬車が揺れるほど、勢いよく飛び乗る。
馬車は、北の要塞“ベロン”へ向けて走り出した。
【ベロンにて、女王軍と“節制”の魔人が交戦中。死者多数、圧倒的劣勢――】




