第十四話 魔滅少女と“塔”の魔人⑧
「んー? んんーー??」
“塔”の魔人は、最上階で頭を抱えている。
薄ら笑いを貼り付けたようなその顔から滲み出るのは、愉悦ではなく焦燥と困惑。
「なーんか。変なことになってるぞ……?」
目の前を流れる映像は、侵入者たちの行動をリアルタイムで流している。
“塔”の魔人の算段では、ここで侵入者たちを排除できるはずだった。
そういう戦力を置いたと、自負していた。
「なんで――」
傍らに置かれたテーブルに、拳を叩きつける。
テーブルの上に置かれたワイングラスが衝撃で床に落ち、割れた。
「なんで、勝てる相性で割り当てたのに、こっちが押されてんの!?」
“塔”の魔人は、原因を探る。
ギョロギョロと動かした視線が、止まった。
(あいつか……お荷物野郎――!)
魔人は、空間の中央に座するトンガリ帽子の少女を射殺すように睨む。
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“塔”の魔人が作り出した螺旋の塔。
その第四階層で死闘を繰り広げるアイーシャ達は今、必死に戦況を押し戻していた。
「アイーシャ! これでいいんだよな!」
「……うん。……大丈夫。……エヴァンがそいつを倒さないと先に進まないから、早くして」
「人遣い荒すぎだろぉ、が!」
アイーシャに抗議の声を上げながら、エヴァンはミノタウロスの斧をいなす。
「エヴァン! つべこべ言わずに手を動かしなさいよね!」
「うるせー、ルイダ。テメェもそいつ、ちゃんと止めとけよ!」
「やってんでしょ! 見てわからないのバカエヴァン!」
「見る暇ねぇから言ってんだ!」
言い争いながらも、ルイダとエヴァンは目の前の脅威へ全力で対処する。
ルイダの目の前には、アラクネの下半身をつけたデュラハンが、業火の壁を前に竦んでいた。
「……さすがね、アイーシャ……」
「……ルミナス。あまり……しゃべらないで」
アイーシャの膝に頭を乗せて横になるルミナスを、アイーシャが窘める。
「……いいえ、言わせて。……あなたが居てくれてよかった」
「……まだ、……終わって……ないよ」
アイーシャの言葉に、ルミナスは満足げに微笑む。
「ふふ……。アイーシャはそんなに戦場経験はないからわからないだろうけど……」
スッ、とルミナスが伸ばした右手が、アイーシャの頬に触れる。
「――この状況になればね、勝てるよ、私たち」
上空では、ルミナスが生み出した青白い魔法の騎士たちが、ハーピィの翼をもつオークを翻弄していた。
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(すげぇ。この牛野郎、剣の技術が無い分、首無し騎士より楽だぜ)
「……エヴァン。……そろそろいい?」
「おうよ! もう動きは見切れたぜ」
「……じゃあ、距離を取って……相手の突進を誘発して」
アイーシャは、まるで本の記述を引用するかのように、言葉を紡ぐ。
「突進を誘発? なんでまた――」
「四足動物は……急に方向転換……できない……から」
ガキンッ、とひときわ大きな音を立てて、エヴァンとミノタウロスの得物が衝突する。
その衝撃を利用し、エヴァンは大きく後ろへ退いた。
「……ミノタウロスとケルピーの……接合部は、魔力が弱い……エヴァンなら切り離せる……多分」
「俺を信用しろよな、アイーシャ!」
爆発的な加速で、ミノタウロスとケルピーのキメラはエヴァンへ突進する。
(タイミング、しっかり合わすぜ……)
エヴァンは大剣を両手で持ち、体の右側へ下げるように持つ。
横薙ぎの一閃。
その軌道上に、キメラの接合部が当たることをイメージする。
(――! ここだろ!)
エヴァンは、ミノタウロスの左へ。
状態を高くしてその首を狙うように走りだす。
ミノタウロスの斧は、その左肩から逆袈裟に振り下ろされた。
「――“雷装演舞”!」
ミノタウロスの視界から、エヴァンの姿が、消える。
瞬間的な身体能力の強化。
雷撃を纏ったエヴァンの体は、大きく空いたミノタウロスの右脇腹へと飛び込んだ。
「――“雷装演舞・狼爪一閃”!」
横薙ぎの落雷が、階層の空間を鮮烈な白で満たす。
遠吠えのような反響と共に、大剣を振り抜いたエヴァンの後ろで、上下が分けられたキメラが黒煙となって消えていく。
「――魔物は嫌いだけどよ……」
家畜扱いされ、悪趣味に弄られた、キメラとなった魔物の黒煙を、エヴァンは憐憫を込めた目で見つめる。
「まぁ、ちったぁ同情するぜ。……ちょっとな」
「エヴァン! 終わったんならさっさとこっち! 手伝いなさい」
興奮と安堵からか、僅かに上擦った声でルイダがエヴァンを急き立てる。
「――人遣い荒いぜ、まったく」




