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魔滅少女の戦場譚  作者: 阿月 結希


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第十四話 魔滅少女と“塔”の魔人⑧

 「んー? んんーー??」


 “塔”の魔人は、最上階で頭を抱えている。


 薄ら笑いを貼り付けたようなその顔から滲み出るのは、愉悦ではなく焦燥と困惑。

 

 「なーんか。変なことになってるぞ……?」


 目の前を流れる映像は、侵入者たちの行動をリアルタイムで流している。


 “塔”の魔人の算段では、ここで侵入者たちを排除できるはずだった。


 そういう戦力を置いたと、自負していた。


 「なんで――」


 傍らに置かれたテーブルに、拳を叩きつける。


 テーブルの上に置かれたワイングラスが衝撃で床に落ち、割れた。


 「なんで、勝てる相性で割り当てたのに、こっちが押されてんの!?」


 “塔”の魔人は、原因を探る。


 ギョロギョロと動かした視線が、止まった。


(あいつか……お荷物野郎――!)


 魔人は、空間の中央に座するトンガリ帽子の少女を射殺すように睨む。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 “塔”の魔人が作り出した螺旋の塔。


 その第四階層で死闘を繰り広げるアイーシャ達は今、必死に戦況を押し戻していた。


 「アイーシャ! これでいいんだよな!」


 「……うん。……大丈夫。……エヴァンがそいつを倒さないと先に進まないから、早くして」


 「人遣い荒すぎだろぉ、が!」


 アイーシャに抗議の声を上げながら、エヴァンはミノタウロスの斧をいなす。


 「エヴァン! つべこべ言わずに手を動かしなさいよね!」


 「うるせー、ルイダ。テメェもそいつ、ちゃんと止めとけよ!」


 「やってんでしょ! 見てわからないのバカエヴァン!」


 「見る暇ねぇから言ってんだ!」


 言い争いながらも、ルイダとエヴァンは目の前の脅威へ全力で対処する。


 ルイダの目の前には、アラクネの下半身をつけたデュラハンが、業火の壁を前に竦んでいた。


 「……さすがね、アイーシャ……」


 「……ルミナス。あまり……しゃべらないで」


 アイーシャの膝に頭を乗せて横になるルミナスを、アイーシャが窘める。


 「……いいえ、言わせて。……あなたが居てくれてよかった」


 「……まだ、……終わって……ないよ」


 アイーシャの言葉に、ルミナスは満足げに微笑む。


 「ふふ……。アイーシャはそんなに戦場経験はないからわからないだろうけど……」


 スッ、とルミナスが伸ばした右手が、アイーシャの頬に触れる。


 「――この状況になればね、勝てるよ、私たち」


 上空では、ルミナスが生み出した青白い魔法の騎士たちが、ハーピィの翼をもつオークを翻弄していた。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 (すげぇ。この牛野郎、剣の技術が無い分、首無し騎士より楽だぜ)


 「……エヴァン。……そろそろいい?」


 「おうよ! もう動きは見切れたぜ」


 「……じゃあ、距離を取って……相手の突進を誘発して」


 アイーシャは、まるで本の記述を引用するかのように、言葉を紡ぐ。


 「突進を誘発? なんでまた――」


 「四足動物は……急に方向転換……できない……から」


 ガキンッ、とひときわ大きな音を立てて、エヴァンとミノタウロスの得物が衝突する。


 その衝撃を利用し、エヴァンは大きく後ろへ退いた。


 「……ミノタウロスとケルピーの……接合部は、魔力が弱い……エヴァンなら切り離せる……多分」


 「俺を信用しろよな、アイーシャ!」


 爆発的な加速で、ミノタウロスとケルピーのキメラはエヴァンへ突進する。


 (タイミング、しっかり合わすぜ……)


 エヴァンは大剣を両手で持ち、体の右側へ下げるように持つ。


 横薙ぎの一閃。


 その軌道上に、キメラの接合部が当たることをイメージする。


 (――! ここだろ!)


 エヴァンは、ミノタウロスの左へ。


 状態を高くしてその首を狙うように走りだす。


 ミノタウロスの斧は、その左肩から逆袈裟に振り下ろされた。


 「――“雷装演舞”!」


 ミノタウロスの視界から、エヴァンの姿が、消える。


 瞬間的な身体能力の強化。


 雷撃を纏ったエヴァンの体は、大きく空いたミノタウロスの右脇腹へと飛び込んだ。


 「――“雷装演舞・狼爪一閃”!」


 横薙ぎの落雷が、階層の空間を鮮烈な白で満たす。


 遠吠えのような反響と共に、大剣を振り抜いたエヴァンの後ろで、上下が分けられたキメラが黒煙となって消えていく。


 「――魔物は嫌いだけどよ……」


 家畜扱いされ、悪趣味に弄られた、キメラとなった魔物の黒煙を、エヴァンは憐憫を込めた目で見つめる。


 「まぁ、ちったぁ同情するぜ。……ちょっとな」


 「エヴァン! 終わったんならさっさとこっち! 手伝いなさい」


 興奮と安堵からか、僅かに上擦った声でルイダがエヴァンを急き立てる。


 「――人遣い荒いぜ、まったく」

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