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魔滅少女の戦場譚  作者: 阿月 結希


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第十三話 魔滅少女と“塔”の魔人⑦

 柔らかな薄い青色のカーテンの隙間から、淡い陽光が入り込んでくる。


 窓のそばに置かれたベッドの上に、年端もいかぬ少女と妙齢の女性が並んで座っている。


 「どうして、私はみんなと遊んじゃダメなの?」


 少女は悲し気な瞳を、女性に向けた。


 少女の髪を優しく撫でながら、その女性は諭すように答える。


 「それはね、あなたが他人と違う、とっても不思議な力があるからよ」


 「……でも、私もみんなと遊びたい」


 少女の無垢な願いを叶えられない無力感が、女性の体を蝕んでいく。


 ――この子が外に出れば、嫌悪と迫害の渦に飲み込まれることは明らかだった。


 「外で遊べない代わりに、これあげる」

 

 女性は少女を宥めるように、一冊の本を手渡す。


 「これ、なぁに?」


 「んー。旅人が描いた冒険のお話、かな。次に会えた時、書かれていることを覚えてたら、ご褒美あげるね」


 「――ご褒美! なにくれるの?」


 女性は口元に立てた人差し指を添える。


 「それは、その時までの秘密。頑張って読むんだよ」


 少女は、手渡された手作りの本を眺める。


 ページをめくると、デフォルメされた魔物の絵と、戦闘時の対処法が平易な言葉と満載のイラストで記載されていた。


 「――ちょっと、怖そう」


 「大丈夫大丈夫!」


 女性はそう言って、少女の頭をワシワシと撫でる。

 

 「いつか、きっと役に立つ時が来るから。頑張って覚えるのよ、アイーシャ」


 幼いアイーシャは、元気に頷く。


 そうして、その女性は、またね、と言い残して去っていった。

 

 ――その後、アイーシャが、その“ご褒美”を得ることはなかった。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 三体の合成魔物キメラが縦横無尽に暴れまわる第四階層。


 高い天井に迫る上空で、ルイダはハーピィの翼をもつオークと対峙する。


 「“エアロスレイ”!」


 ルイダの詠唱と同時に、風の刃がオークへと直線的に飛ぶ。


 棍棒による横薙ぎの一撃。


 たった一つの行動で、ルイダの刃は容易く掻き消えた。


 オークは、急速にルイダとの距離を詰める。


 (回避を――)


 ガクン、とルイダの視界が一瞬、大きく右へ沈む。


 満身創痍の体を無理やりに立て直した視界の先で、振り下ろさせれる棍棒を認めた。


 (――! ヤバーー)


 ガンッ、と振り下ろされた棍棒が、ルイダが放つ風魔法の障壁に激突する。


 その衝撃のまま、ルイダの小柄な体は地面へと急速に落下していった。


 「くそっ! 馬鹿力め……」


 小さくなるオークの影を睨みながら、ルイダは空中で体勢を立て直し、水平に移動する。


 地上を見ると、エヴァンがデュラハンの一撃で大きく体勢を崩していた。


 追撃の一刃が、エヴァンの首元へ襲い掛かる。


 「エヴァン!」


 ルイダは最速の雷魔法をデュラハンへ向けて放ち、その動きを一瞬止めた。


 「“豪嵐の槌”!」


 エヴァンが放った横薙ぎの一閃は、デュラハンの胴体へぶつかると、その体を大きく後ろへ吹き飛ばす。


 「ルイダ! こっちはいい! 無駄に魔力使うな」


 「何よ! ピンチを助けてあげたんじゃない! お礼の一つもないわけ!?」


 悪態をつきながら、ルイダはエヴァンの隣に降り立つ。


 互いの武器が干渉しないよう、二人は背中合わせに構えを取った。


 「――さて、どうするか。何か妙案は? ルイダ先生」


 「あったらとっくにやってるわよバカエヴァン」


 「ですよね~」


 ドンッ、と。


 突然、エヴァンの背中に何かがぶつかった。


 足元に転がったそれを見て、エヴァンの表情が強張る。


 「アイーシャ! おい、大丈夫か!」


 アイーシャは頭から血を流してエヴァンの足にもたれかかっていた。


 「……大……丈夫。……それより、ルミナスが……」


 「――! お姉ぇ様!」


 ルイダの視線の先で、ルミナスの頭部がミノタウロスによって鷲掴みにされていた。


 ――握りつぶされていないのは、僅かに張られた魔法のおかげか。


 力任せで暴力的な動作で、ルミナスの体がエヴァンたち目掛けて投げ込まれる。


 「エヴァン!」


 「分かってる!」


 ルイダの風魔法を緩衝材にして、多少勢いを殺されたルミナスの体を、エヴァンは受け止めた。


 「ル、ルミナス……」


 「お姉ぇ様! しっかりしてください」


 ルミナスの体には、何度も激しく打ち付けられたように無数の痣があった。


 純白だった鎧は所々が血で汚れ、斑の装飾へと変貌している。

 

 呼吸は浅く、ひどく不規則。


 エヴァンの中で、何かが爆発的に燃え上がる。


 「――ざけんじゃねぇぞ、クソ魔物ども……」


 ユラッ、と立ち上がるエヴァンの手を、アイーシャが掴む。


 「……待って」


 「離せアイーシャ。俺が叩き斬ってやるよ」


 「……多分……無理。エヴァン……突っ込んだら……死んじゃう」


 「あぁ!?」


 エヴァンはアイーシャの眼前へ顔を近づける。


 「誰に言ってんのか分かってんのか、アイーシャ!」


 「……分かっている。……でも、エヴァンはあのデュラハンには勝てない」


 凄みにも負けず、アイーシャは今まさに起き上がろうとしているデュラハンを指さす。


 そして次に、反対側にいるミノタウロスに指を向けた。


 「……エヴァンは、あっちの奴には……勝てる」


 「お前、何を言って――」


 「……エヴァン。……ルイダ」


 アイーシャはエヴァンとルイダを見る。


 「……私を、信じて……ほしい」


 懇願と、覚悟を灯した瞳が、エヴァンとルイダを映す。


 しかし、その瞳は小刻みに揺れていた。

 

 自らの意志を貫くことによる恐怖。


 それは、エヴァンとルイダにも経験がある、一般的で、打ち勝つことが難しい恐怖。


 アイーシャのその瞳は、二人の感情を突き動かした。

 

 覚悟を決めたように、二人はしっかりと頷く。


 ポンッ、とアイーシャは横になるルミナスの肩に手を添える。


 「……ごめん、ルミナス。……もう少しだけ、頑張って」


 アイーシャの言葉に、ルミナスは微笑み、小さく頷いた。

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― 新着の感想 ―
始まりのエピソード、魔滅の少女と戦車の魔人で、一気に惹き込まれました! 圧倒的な強さを誇る魔人との戦いの中で、登場人物たちのキャラクターもしっかり伝わってきました。なかでも、アイーシャの魔滅の力は圧巻…
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