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第十二話 魔滅少女と“塔”の魔人⑥

 “塔”の魔人が作った、禍々しい螺旋の塔。


 第十階層に控える魔人の元へ、アイーシャ達は駆け上る。


 満身創痍の中、各階層を突破する彼らの姿を、“塔”の魔人は中空に投影される映像から眺めていた。


 「なかなか、頑張るなぁ……。いいねいいね! それじゃあ、次の階層からはちょっと難易度上げちゃうよ~」


 パチン、と魔人が指を鳴らすのと同時。


 第四階層の檻にかけられた錠前が弾け飛ぶ。


 無数の魔物の咆哮が、階層全体にこだました――。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 「……何も、いない……」


 第四階層に突入したアイーシャ達の目に飛び込むのは、空になった巨大な檻。


 しかし、その中に封じられていたであろう存在を、誰もが認知できない。


 「――このまま突っ切っちまうか」


 「いいえ。この状況……異様すぎるわ」


 「エヴァンも、少しは頭使いなさいな。ルミナスお姉ぇ様を見習って」


 エヴァンは無言でルイダを睨みつける。


 ここまでの道中、魔物の大群を相手に大立ち回りを続けた彼らの疲労の色は、濃い。


 「……言い合ってても、疲れるだけ……」


 アイーシャの言葉で、エヴァンとルイダは前を向き直る。


 「エヴァン。ルイダ。冷静に、よ。私が索敵するわ」


 ルミナスは城門の前の時と同様に、地面に向けて杖の先端を向ける。


 杖から放たれた青白い光。

 

 無音が、耳をつく。


 日光も、風さえない塔内の静寂は、時間間隔を狂わせる。

 

 ルミナスが放った光は網の目のように広がり、階層の地面と、側面の壁、果ては天井まで至る。


 「――! 上!」


 ルミナスが叫ぶと同時にルイダが放った大量の火球が、天井に衝突する。


 立ち上る爆煙の奥から、黒い影が複数落下してきた。


 「――! やつら、どうやって天井に……!」


 「よく見なさいエヴァン! あれ、天井じゃないわ」


 「……蜘蛛の……糸?」


 アイーシャ達が天井だと思い込んでいたそれは、高密度に練られた糸の束だった。


 爆煙が晴れ、三体の魔物の影が実態を伴っていく。


 「なに、あれ……」


 ルイダから、思わず声が漏れた。


 全員の顔が、驚愕と嫌悪に染まる。


 ――デュラハンの胴体にアラクネの下半身。


 ――オークの巨体にハーピィの翼。


 ――ミノタウロスの胴にケルピーの下半身。


 冒涜の極地とも言える存在が、目の前に立ち塞がる。


 『はっはぁー! どうだい、すごいだろ? 僕の傑作たち』


 アイーシャ達が感じる、吐き気を感じさせるほどの嫌悪とは対照的に、愉悦に満ちた声が階層を満たす。


 『大変だったなぁ~。キメラの生成って、拒絶反応との戦いだから』


 「てめぇ……仲間をどんだけ、殺したんだよ」


 『仲間?』


 エヴァンの問いに、“塔”の魔人は返答をする。


 至極、軽く。


 『魔物は僕たちにとって仲間じゃないよ。――家畜に、近いかな』


 キミたちこそ、と“塔”の魔人はエヴァンたちへ投げかける。


 『どうして、お荷物抱えてこんなとこに来ているんだい?』


 「お荷物?」


 『ほら、そこの、トンガリ帽子の――』


 バクン、とアイーシャの心臓が跳ね上がる。


 自分に向けられた中傷の矛先を、アイーシャは否定することができない。


 『ずーっと見てたけど、キミ、全然戦ってないよね? 守られてばっか』


 “塔”の魔人の声が、陽気で高い声から、低く、威圧感のあるものへ変わる。


 『このゲームに、モブキャラはいらない』


 ミノタウロスの斧が、アイーシャの眼前に迫った。

 

 「――! アイーシャ!」


 不意の初撃に、エヴァンの反応は完全に遅れた。


 魔物から力任せに放られた斧は、的確にアイーシャの頭部を両断する軌道を描く。


 しかし、その刃がアイーシャに届くことは無い。


 キンッ、と甲高い音を立てて、斧は軌道を変え、遥か後方の壁に突き刺さる。


 「――不意打ちは、もう通じません」


 アイーシャを庇うように前に出たルミナスが言い放つ。


 「アイーシャを侮辱したあなたの罪。きっちり、償ってもらいます」


 『……まぁ、いいや。そのお荷物抱えて登ってこれるなら、――やってみなよ』


 ブツリと音声が消えた瞬間。


 三体の魔物は一斉にアイーシャ達へ迫る。


 アラクネの下半身から、粘性の強い糸が広範囲に吐き出された。


 魔物の突進を迎え撃つべく飛び出したエヴァンの足を絡め、止める。


 「――くっ!」


 エヴァンに覆いかぶさるように大上段から振り下ろされたデュラハンの剣。


 その一撃かろうじて受け止めたエヴァンの表情が、歪む。


 (なんだよ、こいつ――。めちゃくちゃ重てぇ)


 拮抗するエヴァンの脇をすり抜け、ケルピーの脚力を持ったケンタウロスが後方へ疾走する。


 「ルミナス!」


 「わかってる! “清浄の盾よ、わが身を守れ”」


 ルミナスの前方に、半球の盾が構築される。


 ケルピーの前脚が、空中からその盾へ叩きつけられた。


 バァン、というけたたましい音と共に、盾に激しく亀裂が走る。


 「こいつ、パワーが桁違いに――」


 盾が砕け散ると同時、ルミナスはアイーシャの腕をつかみ、大きく左へ跳び退る。


 前脚が地面についた瞬間、それは階層全体を大きく揺らした。


 死力を尽くした回避の後、ルミナスとアイーシャはミノタウロスの上半身と睨みあう。


 ミノタウロスは悠然とした足取りで壁に深々と刺さる斧に手を掛け、一息で引き抜く。


 雄たけびと共にルミナスへ迫るミノタウロスと、膂力でエヴァンを押し潰さんとするデュラハン。


 突如、二体の魔物へ一条の雷撃が降り注いだ。


 風魔法を駆使し、飛行するルイダが、樫の杖を目の前の羽をもつオークに向けなおす。

 

 「お姉ぇ様! 大丈夫ですかっ!」


 「ルイダ! 助かったけど、油断しないで!」


 「普通の魔物じゃねぇぜ。こいつら」


 デュラハンでは考えられない膂力。


 ケルピーでは考えられないスピード。


 何かを探るように、アイーシャは魔物たちを見つめていた――。

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