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第十話 魔滅少女と“塔”の魔人④

 見張り場を飛び出したエヴァンたちは、城塞都市“サージブル”の城門付近に身を隠していた。


 「――で。実際、どうやって潜入する?」


 「やっぱり、何も考えてなかったのね……」


 呆れた目で見つめてくるルイダから、エヴァンはバツが悪そうに目を逸らす。

 

 「……第一は……ここの人間たちを……どうするか」


 「ええ。アイーシャの言う通りだわ。だから、私が何とかする」


 ルミナスは白金の杖の先端を地面に向ける。


 「“清浄の光よ。庇護を求める者に救いの手を”」


 杖の先端が光り輝く。


 青白いその光は、やがて大地へと吸い込まれた。


 「――何やったんだ? 今」


 エヴァンが当惑した表情で問いかける。


 「街の皆を守る結界を送ったの。突入しても少し時間が稼げる」


 「さすが、お姉ぇ様。これで正面突破ができますわ!」


 パンパン、と膝についた土を払いながらルイダは立ち上がり、他の者もそれに続いた。


 「いい? 魔人相手にはこの四人全員で挑まないと勝ち目は薄い」


 ルミナスは一拍おき、全員を見渡す。


 「――全員、一丸で行くわよ!」


 全員が頷き、エヴァンを先頭に、矢のように城門へと突撃をする。


 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 サージブルの市街は、まるで地獄だった。


 町中、至る所からオークやゴブリンが襲い掛かる。


 上空のハーピーは隙あらば高速で滑空し、エヴァンたちの喉元を抉らんと爪を伸ばす。


 何より、そこかしこで無力な市民を魔物たちが襲っていた。


 「――ったく。惨いことしやがるぜ」


 「でも、お姉ぇ様の魔法、ちゃんと効いています!」


 市民たちの死者は0名。


 魔物から直接負傷を負わせられた者もいない。


 それは、市民を青白い兵士が守っているからだ。


 ユラユラと、炎のように揺れる彼らは、剣と盾を模した魔力を装備する。


 「彼らがいれば、市民は大丈夫。私たちは邪魔してくる魔物を排除しましょう」


 城門から続くまっすぐな大通り。


 その先にある螺旋の塔に向かって駆けながら、ルミナスとルイダは左右に魔法を放つ。


 挟み撃ちを狙った魔物の軍勢が、一瞬にして黒い煙となった。


 「――おい! 塔から何か来るぞ!」


 馬のような騎乗魔獣に乗り、五体の首無しの騎士が正面からエヴァンたちを迎え撃つ。


 「デュラハンとは、珍しいわね」


 「構わねぇ! 横からくる魔物は任せたぜ」


 バシュ、とエヴァンは踵から風魔法を噴射し、デュラハンの正面へ突撃する。


 エヴァンは、正面の敵から目を離さない。


 両脇の妨害者は、清浄と豪火の光の中で、黒煙に姿を変えた。


 エヴァンの速度に呼応するように、デュラハンの速度も上がる。


 そして、唐突にエヴァンは、その突進にブレーキを掛けた。


 続けて、彼は大きく斜め右方向へと進路を変える。


 (――よし、釣れた)


 縦に引き延ばされたデュラハンの隊列は、その重心を大きく横へずらした。


 中央に、僅かな隙が生まれる。


 騎乗魔獣の足元へ滑り込むようにして、エヴァンはデュラハンの隊列の中央へ潜る。

 

 「“風斬りの太刀――昇嵐”!」


 隊列の真ん中で、巨大な竜巻が生まれる。


 上空に巻き上げられたデュラハンへ、無数の風の刃が切りかかった。


 大きく振り回した大剣を担ぎ直したエヴァンの足元で、切り刻まれたデュラハンが消滅する。


 エヴァンの視線は、足元には向いていない。


 ただ一点を、彼は見つめていた。


 「ケホケホ……。ちょっとエヴァン! もっと大人しく――」


 後に続いたルイダの悪態を、エヴァンは右手で制す。


 「――どうやら、お出ましみてぇだぜ」


 彼の言葉に、一同は視線を上へと向けた。


 塔の上階。


 ベランダのように解放されているらしい場所の欄干に、小柄な人影が見える。


 その人影は、下卑た笑みを浮かべながら、大げさに手を叩いていた。


 「いやー、いいね! 実にいいよ。君たちみたいな人間を待ってたんだ!」


 ピエロのような派手な出で立ちで、彼は足をバタつかせている。


 「てめぇ。何者だ。魔人の手先か!」


 「手先ぃ~? ノンノンノン」


 小柄な彼は、人差し指を左右に振る。


 「――魔人は僕さ! “塔”の魔人。そのまんまだろ~?」


 “塔”の魔人が告白した直後。


 魔人を狙ってルミナスとルイダの魔法が飛んだ。


 一直線に飛ばされた清浄の青と雷撃の青。


 しかし、それらが“塔”の魔人に届くことはなかった。


 魔人を覆い隠すほどの黒い大剣に当たり、彼女らの魔法は掻き消える。


 「――危ないなぁ~。まだ話の途中じゃないか」


 大剣を押し退けるようにして、魔人は陽気に話を続ける。


 「僕は、君たちみたいな人類の実力者を待ってたんだ!」


 ギィ、と螺旋の塔の扉が軋みながら開く。


 「入っておいでよ。僕の体内に」


 “塔”の魔人は不敵に笑う。


 「全員もれなく、殺してあげるよ――」


 きゃははは、と甲高い笑い声を残し、“塔”の魔人は塔の奥へと引っ込んだ。


 「――どうやら、入らねぇことには奴を倒せねぇらしい」


 「アイーシャ。この塔は、消せないの?」


 「……これは……無理。魔法じゃ……ないから」


 ルイダの問いにアイーシャは静かに答える。


 「……手段は魔法でも……今は土が形を変えただけ。……ただの、土の塊」


 「なるほどねぇ」


 ルイダは樫の杖を強く構える。

 

 「じゃあ――、入るしかないじゃない」


 「アイーシャ。準備はいい?」


 ルミナスの問いに、アイーシャは小さく頷く。


 そして、彼らは螺旋の塔の中へ。


 魔人が作り出した死地へと、自ら飛び込んでいった。

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