第十話 魔滅少女と“塔”の魔人④
見張り場を飛び出したエヴァンたちは、城塞都市“サージブル”の城門付近に身を隠していた。
「――で。実際、どうやって潜入する?」
「やっぱり、何も考えてなかったのね……」
呆れた目で見つめてくるルイダから、エヴァンはバツが悪そうに目を逸らす。
「……第一は……ここの人間たちを……どうするか」
「ええ。アイーシャの言う通りだわ。だから、私が何とかする」
ルミナスは白金の杖の先端を地面に向ける。
「“清浄の光よ。庇護を求める者に救いの手を”」
杖の先端が光り輝く。
青白いその光は、やがて大地へと吸い込まれた。
「――何やったんだ? 今」
エヴァンが当惑した表情で問いかける。
「街の皆を守る結界を送ったの。突入しても少し時間が稼げる」
「さすが、お姉ぇ様。これで正面突破ができますわ!」
パンパン、と膝についた土を払いながらルイダは立ち上がり、他の者もそれに続いた。
「いい? 魔人相手にはこの四人全員で挑まないと勝ち目は薄い」
ルミナスは一拍おき、全員を見渡す。
「――全員、一丸で行くわよ!」
全員が頷き、エヴァンを先頭に、矢のように城門へと突撃をする。
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サージブルの市街は、まるで地獄だった。
町中、至る所からオークやゴブリンが襲い掛かる。
上空のハーピーは隙あらば高速で滑空し、エヴァンたちの喉元を抉らんと爪を伸ばす。
何より、そこかしこで無力な市民を魔物たちが襲っていた。
「――ったく。惨いことしやがるぜ」
「でも、お姉ぇ様の魔法、ちゃんと効いています!」
市民たちの死者は0名。
魔物から直接負傷を負わせられた者もいない。
それは、市民を青白い兵士が守っているからだ。
ユラユラと、炎のように揺れる彼らは、剣と盾を模した魔力を装備する。
「彼らがいれば、市民は大丈夫。私たちは邪魔してくる魔物を排除しましょう」
城門から続くまっすぐな大通り。
その先にある螺旋の塔に向かって駆けながら、ルミナスとルイダは左右に魔法を放つ。
挟み撃ちを狙った魔物の軍勢が、一瞬にして黒い煙となった。
「――おい! 塔から何か来るぞ!」
馬のような騎乗魔獣に乗り、五体の首無しの騎士が正面からエヴァンたちを迎え撃つ。
「デュラハンとは、珍しいわね」
「構わねぇ! 横からくる魔物は任せたぜ」
バシュ、とエヴァンは踵から風魔法を噴射し、デュラハンの正面へ突撃する。
エヴァンは、正面の敵から目を離さない。
両脇の妨害者は、清浄と豪火の光の中で、黒煙に姿を変えた。
エヴァンの速度に呼応するように、デュラハンの速度も上がる。
そして、唐突にエヴァンは、その突進にブレーキを掛けた。
続けて、彼は大きく斜め右方向へと進路を変える。
(――よし、釣れた)
縦に引き延ばされたデュラハンの隊列は、その重心を大きく横へずらした。
中央に、僅かな隙が生まれる。
騎乗魔獣の足元へ滑り込むようにして、エヴァンはデュラハンの隊列の中央へ潜る。
「“風斬りの太刀――昇嵐”!」
隊列の真ん中で、巨大な竜巻が生まれる。
上空に巻き上げられたデュラハンへ、無数の風の刃が切りかかった。
大きく振り回した大剣を担ぎ直したエヴァンの足元で、切り刻まれたデュラハンが消滅する。
エヴァンの視線は、足元には向いていない。
ただ一点を、彼は見つめていた。
「ケホケホ……。ちょっとエヴァン! もっと大人しく――」
後に続いたルイダの悪態を、エヴァンは右手で制す。
「――どうやら、お出ましみてぇだぜ」
彼の言葉に、一同は視線を上へと向けた。
塔の上階。
ベランダのように解放されているらしい場所の欄干に、小柄な人影が見える。
その人影は、下卑た笑みを浮かべながら、大げさに手を叩いていた。
「いやー、いいね! 実にいいよ。君たちみたいな人間を待ってたんだ!」
ピエロのような派手な出で立ちで、彼は足をバタつかせている。
「てめぇ。何者だ。魔人の手先か!」
「手先ぃ~? ノンノンノン」
小柄な彼は、人差し指を左右に振る。
「――魔人は僕さ! “塔”の魔人。そのまんまだろ~?」
“塔”の魔人が告白した直後。
魔人を狙ってルミナスとルイダの魔法が飛んだ。
一直線に飛ばされた清浄の青と雷撃の青。
しかし、それらが“塔”の魔人に届くことはなかった。
魔人を覆い隠すほどの黒い大剣に当たり、彼女らの魔法は掻き消える。
「――危ないなぁ~。まだ話の途中じゃないか」
大剣を押し退けるようにして、魔人は陽気に話を続ける。
「僕は、君たちみたいな人類の実力者を待ってたんだ!」
ギィ、と螺旋の塔の扉が軋みながら開く。
「入っておいでよ。僕の体内に」
“塔”の魔人は不敵に笑う。
「全員もれなく、殺してあげるよ――」
きゃははは、と甲高い笑い声を残し、“塔”の魔人は塔の奥へと引っ込んだ。
「――どうやら、入らねぇことには奴を倒せねぇらしい」
「アイーシャ。この塔は、消せないの?」
「……これは……無理。魔法じゃ……ないから」
ルイダの問いにアイーシャは静かに答える。
「……手段は魔法でも……今は土が形を変えただけ。……ただの、土の塊」
「なるほどねぇ」
ルイダは樫の杖を強く構える。
「じゃあ――、入るしかないじゃない」
「アイーシャ。準備はいい?」
ルミナスの問いに、アイーシャは小さく頷く。
そして、彼らは螺旋の塔の中へ。
魔人が作り出した死地へと、自ら飛び込んでいった。




