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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第9章 新しい年のはじまり(1月)
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第94話 最高の幕開け

 初詣を終え、俺たちは、屋台が並ぶ参道を歩いていた。


 りんご飴、たこ焼き、ベビーカステラ。

 その甘くて香ばしい匂いに、俺たちのお腹は正直に反応した。


「……なんか、食うか」

「うん!」


 俺たちは、顔を見合わせて笑い合った。

 そして、二人でたこ焼きを一パック買った。


 湯気の立つ熱々のたこ焼き。

 俺たちは、境内のはずれにある空いたベンチに腰掛けた。


「……あちっ!」


 俺が、たこ焼きを一つ口に入れた途端、その熱さに思わず声が漏れた。


「ふふっ。大丈夫?」


 陽菜が楽しそうに笑う。

 そして、たこ焼きを、ふー、ふー、と、小さな唇で、息を吹きかけて冷ましている。その何気ない仕草が、たまらなく愛おしい。

 俺は、その優しい仕草を、じっと見つめていた。


 恋人として初めて迎える新年。

 それは、どうしようもなく温かくて幸せな一年の始まりだった。


 陽菜は、たこ焼きを食べ終えると、満足そうに、ふぅと息をついた。

 そして、ごく自然に、俺の身体に体重を預け、肩に頭を乗せてきた。


「……少し、……疲れちゃった」


 その甘えたような声と、肩にかかる柔らかな重みと温もり。

 髪の毛から香る甘いシャンプーの匂い。


 俺の心臓は、また、大きく鳴り響いている。


 でも、もう以前のようなパニックにはならない。

 俺は、そっと自分の頭を、彼女の頭に寄りからせた。

 それが、今の俺たちの正しい答えだった。



「あれ? 駆に陽菜じゃん。お前らも初詣かよ!」


 不意に、聞き慣れた声が背後から聞こえた。

 振り返ると、そこには、蓮と、その彼女の美優さんが呆れた顔で立っていた。


「……へぇ。……ようやく、くっついたってわけか。……ったく、世話の焼ける奴らだぜ」


 蓮は、俺と陽菜の間で繋がれた恋人つなぎの手と、寄り添う姿を一瞥すると、すべてを察したようにニヤリと笑った。


「なっ……!」

「蓮くん!」


 俺と陽菜は慌てて身体を離した。

 なんてタイミングが悪いんだ。


 俺たちが同時に抗議の声を上げると、蓮は楽しそうに笑っていた。



「おやおやー? 年明け早々、いちゃついてるカップルがいると思ったら、やっぱり陽菜たちだったのね!」


 今度は別の方向から快活な声が聞こえてきた。

 舞と、その彼氏の翔平くんが、ニヤニヤしながらこちらに歩いてくる。


「陽菜から、電話で報告は受けてたけどさー。実際に見てると、こっちが恥ずかしくなるわね!」


 舞の、からかうような言葉に、陽菜は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「よっしゃ! ……おめでとう、お前ら! やっとかよ!」


 翔平くんが、俺の肩をバンバンと叩く。 そのストレートな祝福の言葉に、俺は、もうどうすることもできず、陽菜と一緒に顔を真っ赤にして俯くことしかできなかった。





 結局、俺たちは六人で、もう一度、境内を見て回ることになった。

 さっきまでの二人きりの、甘い空気はどこかへ消え去り、代わりに、いつもの賑やかで楽しい空気が、俺たちを包み込んでいた。


「よし! じゃあ、みんなで、おみくじ、引こうぜ!」


 翔平くんの一言で、俺たちは、おみくじ売り場へと向かった。

 それぞれ百円を、賽銭箱に入れて筒を振る。

 カラカラと心地のよい音。


「……せーの!」


 俺たちは、一斉におみくじを開いた。


「よっしゃあ! 大吉だ!」


 一番に、声を上げたのは翔平くんだった。

 その手には「大吉」と書かれたおみくじが握られている。


「す、すごい! 翔ちゃん、やったね!」

「おう! これで、今年もラブラブだな!」


 舞と翔平くんが、手を取り合って喜んでいる。

 その幸せそうな光景に、俺の心も温かくなる。


「……俺は、末吉。……微妙だな」


 蓮が、つまらなそうに呟いた。

 その隣で、美優さんが、くすりと笑う。


「……私は、大凶」

「「「ええええええっ!?」」」


 美優さんの、その衝撃的な一言に、俺たちは、全員固まった。


「だ、大凶!? マジかよ!」

「……うん。……『失せ物、出ず。待ち人、来ず。恋愛、諦めなさい』だって」


 美優さんはそう言って、淡々とおみくじを読み上げた。

 そのあまりにも悲惨な内容に、俺たちは、かける言葉も見つからない。

 だが、蓮だけは違った。


「……ふーん? 面白いじゃねぇか」


 蓮はそう言ってニヤリと笑うと、美優さんの大凶のおみくじをひったくった。

 そして、それを、近くの木の枝に、固く結びつける。


「……これで、大丈夫だ」

「……え?」

「俺が、お前の、大凶を、大吉に、変えてやるよ。……だから、俺の、そばから、離れんなよ」


 蓮の、そのあまりにもキザで、でも、どうしようもなくカッコいいセリフに、女子たちは、全員、顔を真っ赤にしていた。

 美優さんだけが、クールな顔で「……バカ」と、小さく呟いていたが。 その耳が真っ赤に染まっているのを俺は見逃さなかった。


「……で? 駆と、陽菜は、どうだったんだよ」


 舞が、俺たちの方を向いた。

 俺は、自分のおみくじを開く。

 そこに書かれていたのは「吉」という、なんとも、平凡な文字。


「……俺は、吉、だな」

「……私も、吉」


 陽菜も同じだったらしい。

 俺たちは、顔を見合わせて、少しだけ笑った。


「なんだよ、二人とも、普通だなー」


 翔平くんが、つまらなそうに言う。


 でも、俺はそれでいいと思った。

 大吉じゃなくてもいい。 この平凡で、でも幸せな日常が、これからもずっと続いていきますように。 俺の願いは、ただそれだけだった。



 おみくじを引き終えた後も、俺たちは六人で屋台を見て回った。

 りんご飴を頬張り。 射的ではしゃぎ。 ただくだらない話で笑い合う。

 その何気ない時間が、たまらなく愛おしかった。


 俺たちの新しい年は最高の形で幕を開けた。

 きっと、今年は忘れられない一年になる。


 俺は、隣で笑う陽菜の温かい手をぎゅっと握りしめながら、そう感じていた。




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