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第92話 最初の報告

 クリスマスの夜。 カケルとの初めてのデートを終え、私は、自分の部屋のベッドの上で、夢見心地のまま天井を眺めていた。


 身体がふわふわと雲の上にいるみたいに軽い。

 昨日の夜の出来事が、夢じゃなかったことを証明するように。

 私の首元には、月の形をした綺麗なネックレスがキラリと輝いていた。

 そして、左手首には新しい水色のリストバンド。

 私の唇には、まだ、彼の初めてのキスの、甘い感触が残っているような気がした。


(……私、カケルの、彼女に、なれたんだ)


 そのことを、思い返す度に、心の中の幸せな気持ちが溢れ出て、胸がいっぱいで、張り裂けそうだった。


 このどうしようもないくらい幸せな気持ち。

 

 誰かに聞いてほしい。

 世界中に叫んで伝えたい。


 でも、一番に伝えたいのは、やっぱりあの子しかいない。

 私は、ベッドから飛び起きると、スマホを手に取った。そして震える指で、親友の名前を探す。 コールボタンを押す。 数回のコール。そして。


『もしもしー?』


 電話の向こうから、舞の明るい声が聞こえてきた。


「舞ぃぃぃぃぃ!」


 私は、親友の名前を絶叫した。


『うわっ、びっくりした! 何よ、陽菜。……で? どうだったのよ聖なる夜は。ちゃんと進展あったわけ?』

「……う、うん……! あった、の……!」


 言葉が詰まる。

 嬉しさと恥ずかしさと感動と。

 いろんな感情がごちゃ混ぜになって、涙が溢れてきた。


『……ちょ、陽菜!? あったって言いながら、なんで泣いてんのよ! ……まさか、あのヘタレな桜井くんが、また何かやらかしたとか!?』


 電話の向こうで、舞が一気に、覚醒したのがわかった。

 その親友の焦った声がおかしくて。 私は泣きながら笑ってしまった。


「……ううん。……違うよ、舞……。……逆」

『……逆?』

「……私ね、……昨日、……カケルに、告白、されたの」


 私の、その一言に。 電話の向こう側が、しん、と静まり返った。そして、数秒後。


『……はあああああああああああっ!?』


 鼓膜が破れそうなほどの、舞の、絶叫が、響き渡った。


「う、うるさいよ、舞!」

『うるさいじゃないわよ! マジで!? あの、ヘタレの、桜井くんが!? あんたに、告白したっていうの!?』

「……うん」

『嘘でしょ!? 天変地地異の前触れじゃないの!? 明日、槍でも降るんじゃないの!?』

「も、もう! 私の彼氏に失礼だよ!」


 私は、ぷうっと、頬を膨らませた。

 でも、舞がそれくらい驚いてくれるのも無理はない。

 私だって、まだ、信じられないのだから。


『……で? で、どうだったのよ! 詳しく、教えなさいよ! 一から、十まで、全部!』


 舞の、その食い気味な質問に、私はくすくすと笑った。

 そして、昨日の夜の出来事を、ゆっくりと話し始めた。


 イルミネーションが、すごく綺麗だったこと。

 彼が震える声で、「好きだ」って言ってくれたこと。

 月のネックレスをプレゼントしてくれたこと。

 そして彼の家で二人きりでクリスマスパーティをして。

 新しいリストバンドをお守りとしてくれたこと。


 最後に、初めてキスをしたこと。


 私の拙い話を、舞は、相槌を打ちながら黙って聞いてくれた。

 時々、「きゃー!」とか、「マジで!?」とか合いの手を入れながら。


 そして、私がすべてを話し終えると。 電話の向こうで、舞が鼻をすする音が聞こえた。


『……よかった……! ……本当によかったね、陽菜……!』


 その震える声は涙声だった。

 親友が、自分のことのように喜んで泣いてくれている。

 私の目からも、また、涙が溢れ出した。


「……うん。……うん……! ……ありがとう、舞……!」

『……バカね。……礼なんて、いいのよ。……陽菜が、ずっと、頑張ってきたの、私、知ってるんだから』


 舞の、その優しい言葉に。 私の心は温かいものでいっぱいになった。

 この最高の親友がいてくれて本当によかった。


『……で?』


 舞が、不意に、声のトーンを変えた。


「え?」

『……キス、……どんな、感じだったわけ?』

「……っ!」


 その、舞の直接的な質問に。 私の顔は、一瞬で沸騰した。


『教えなさいよ、ケチ! ……柔らかかった? ……長かった? ……レモン、の味、した?』

「も、もう! 舞の、エッチ!」


 私はそう叫んで、一方的に電話を切った。

 すぐに舞から、『教えろー!』というスタンプが大量に送られてくる。

 私は、それを見て、また笑ってしまった。そしてベッドの上に、大の字に寝転がる。


 窓の外は、もうすっかり、夜の闇に包まれていた。

 

 私は、首元の月のネックレスに、そっと触れた。

 そして心の中で呟く。カケル、大好きだよ。世界で一番。


 そのどうしようもないくらい幸せな気持ちを胸に抱いて。

 私は、最高のクリスマスの夜を、締めくくったのだった。




第二部はここまでです。

ここまでお読みいただいてありがとうございます。

物語は、もう少しだけ続きます。

最後まで応援よろしくお願いします。

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