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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第7章 修学旅行と恋模様(11月)

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第81話 マッサージふたたび

 陽菜の家にお邪魔したものの……。


 俺、桜井さくらいかけるは、陽菜の部屋の前に立ち尽くしたまま動けずにいた。

 リビングでは、おばさんが、「カケルくん、ゆっくりしていってね!」と、お茶とお菓子を用意してくれている。

 だが陽菜は、俺を、まっすぐ自分の部屋へと案内したのだ。


「……足、マッサージしてくれるんでしょ? ベッドの方が、やりやすいかなって」


 そう言って、いつものように悪戯っぽく笑う陽菜。

 その陽菜の、小悪魔のような笑顔に、俺はもうなすすべもなかった。


 心臓が、バクバクと音を立てている。


 修学旅行の、四日間で、俺たちの距離は確かに縮まったはずだ。

 手を繋ぐことも当たり前になった。

 観覧車では、キスだってしそうになった。


 でも、それでも。

 女の子の部屋に二人きり。

 その状況は、俺のなけなしの理性を、崖っぷちまで追い詰めるには十分すぎた。


「……さあ、カケル。どうぞ?」


 陽菜が、ベッドの縁にちょこんと腰掛け、俺を手招きしている。

 俺は意を決して、部屋に一歩足を踏み入れた。


 白とピンクを基調とした、いかにも女の子らしい部屋。

 勉強机の上には、可愛いキャラクターの文房具が並んでいる。

 そして部屋全体が、陽菜の甘い匂いに満ちていた。

 俺は、ゴクリと唾を呑んだ。


「……じゃあ、……失礼します」


 俺は床に膝をつき、陽菜の前に座った。

 陽菜は、少しだけ恥ずかしそうに、自分の小さな足を、俺の前に差し出してきた。


 その小さな足には、駅で見た時と同じ、痛々しい靴擦れの跡が赤く残っていた。

 俺のために、お洒落をして無理をさせてしまった。

 その事実に、俺の胸がチクリと痛んだ。


「……陸上部だから、足のマッサージは得意なんだ。……だから、その、変な意味はねぇからな」


 俺は、自分でも何を言っているのかわからない、そんな言い訳を口走っていた。

 陽菜は、そんな俺の様子を見て、ふふっ、と、楽しそうに笑った。


「……うん。わかってるよ。……お願いね、カケル先生?」


 その甘えたような声に、俺の、理性の糸はもう切れかかっていた。

 俺は、震える手をゆっくりと伸ばし、彼女の小さな足にそっと触れた。





(……うわぁ……)


 柔らかい。

 信じられないくらい、柔らかくて、すべすべしていた。


 俺の、ゴツゴツした硬いマメだらけの手のひらで、それを包み込むのが申し訳なくなるくらいに。


 そして温かい。

 まるで、小さな生き物みたいに温かい。


 俺は、その感触に、頭の中が真っ白になった。

 これが、陽菜の、身体の一部。

 そう思うだけで、身体中の血液が、沸騰しそうだった。


 俺の視線は、陽菜の赤くなった靴擦れの跡に注がれた。


 痛そうだ。

 こんなになるまで我慢してたのか、こいつは。

 俺に、可愛いって思ってもらいたくて。


 その、陽菜の健気な気持ちが痛いほど伝わってきて、胸が、ぎゅっと締め付けられる。


 もっと優しく触れてやらなければ。

 俺は、ゆっくりと陽菜の足の裏を、親指で押していく。

 繊細なガラス細工にでも触れるように。


「んっ……」


 陽菜が小さく、甘い声を漏らした。

 その声が、俺の理性を容赦なく揺さぶる。


(……やめろ、変な声出すな)


 心の中で、悪態をつく。

 集中できない。


 これは、ただのマッサージだ。

 そうだ、部活のトレーニングの一環だと思えばいい。


 でも、無理だった。

 これは、健太や、蓮の、汗臭い脚じゃない。

 陽菜の、白くてすべすべで甘い匂いのする脚なんだ。


 その当たり前の、圧倒的な事実が、俺のなけなしの理性を粉々に砕いていく。

 俺は、ただ無心で、陽菜の脚を揉み続けた。

 その柔らかな感触と温もりを、この手のひらに刻みつけるように。





(……どうしよう)


 カケルの、大きな手のひらが、私の足を優しく包み込んでいる。


 そのゴツゴツした指先が、私の肌の上を滑るたびに。

 私の身体中に甘い痺れが走る。


 気持ちいい。

 でも、それ以上に恥ずかしい。


 カケルの真剣な眼差し。

 私の足をじっと見つめる、その熱っぽい視線に。

 私の身体は、もうどうにかなってしまいそうだった。


 体育祭の後の、あの夜とは違う。

 あの時は、私が、彼をからかっていた。

 でも、今は違う。 完全に、私が彼のペースに飲まれている。

 それが、悔しくて、でも、どうしようもなく嬉しかった。


 カケルの指が、足の裏から足首へ、そしてふくらはぎへと、ゆっくりと移動していく。


 その、丁寧な手つき。

 私の靴擦れの跡を避けるように、優しく、優しく、揉みほぐしてくれる。

 私のことを、本当に大切に扱ってくれているのが伝わってくる。

 その優しさが、嬉しくて愛おしくてたまらない。


 私の心も身体も、彼の手のひらの中で、とろとろに溶かされていくようだった。





「……どうだ? 少しは、楽になったか?」


 俺は、彼女の脚からそっと手を離した。

 陽菜は、少し潤んだ瞳で、とろけるような笑顔を浮かべている。


「うん……。すごく楽になった。ありがとうカケル。……魔法みたい」

「……大げさだな」


 俺は、照れ隠しにそう言った。

 陽菜は、自分の足をぱたぱたと動かすと満足そうに頷いた。

 そして、不意に、俺の顔をじっと見つめてきた。


「……ねぇ、カケル」

「……なんだよ」

「……カケルも疲れてるでしょ? 四日間、ずっとリーダーで大変だったんだから。……今度は、私がやってあげる」

「は!? いや、いいって! 俺は平気だ!」


 俺が慌てて断ると、陽菜はむっとしたように頬を膨らませた。


「だめ。……私ばっかり、カケルに優しくしてもらってばっかりじゃずるいもん。……それに私も、カケルのこと、癒してあげたい」


 そう言って、彼女はベッドから降りると、俺の隣にちょこんと座った。

 そして、有無を言わさず、俺の肩に小さな手を置いた。


「……ほら、力抜いて」

「……お、おう」


 陽菜の、小さな手のひら。

 でもその指先は、驚くほど的確に、俺の凝り固まった筋肉のツボを捉えてくる。


「……ん」


 思わず、気持ちのいい声が漏れた。


「ふふっ。カケル凝ってるね。……いつも頑張ってる証拠だね」


 耳元で囁かれる、優しい声。

 肩から伝わる、彼女の温もり。

 そして、ふわりと香る甘い匂い。


 俺は、もうダメだった。

 全身の力が抜けていく。

 このまま、こいつに、すべてを委ねてしまいたい。

 そんな、危険な思考が頭をよぎる。


 マッサージを終えた陽菜は、「どう?」と、得意げに笑った。


「……すげぇ。……お前、うまいな」

「でしょ? 舞と、いつもやってるからね」


 その何気ない一言に、俺の胸がチクリと痛んだ。

 舞と。 こいつは舞と、いつもこんなことを……。

 そんな、醜い嫉妬心が顔を出す。


「……カケル?」


 俺が黙り込んでいると、陽菜が不思議そうに、俺の顔を覗き込んできた。


 その、潤んだ瞳。

 吸い込まれそうだった。

 俺は気づけば、彼女の柔らかな頬に手を伸ばしていた。

 そして、ゆっくりと顔を近づけていく。


 陽菜は、驚いたように目を見開いたが、やがて、そっと目を閉じた。

 その答えに、俺の最後の理性が吹き飛んだ。


 俺たちの、唇が、触れ合う…………。



「陽菜ー? カケルくん、まだいるのー?」


 階下から、おばさんの明るい声が聞こえてきた。

 その声に、俺と陽菜はびくりとして、慌てて身体を離した。


「……っ!」

「……は、はい! 今、終わったところ!」


 陽菜は顔を真っ赤にして、大声でそう叫んだ。

 俺も同じだった。 心臓が痛い。


 惜しいとか、そういうんじゃない。

 ただ、どうしようもなく恥ずかしい。


 俺たちは、顔を見合わせることができず、気まずい沈黙が流れた。



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