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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第7章 修学旅行と恋模様(11月)

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第76話 小さな体の大きな勇気

『……今、少しだけ、いいかな。……ホテルの、中庭で、待ってる』


 ホテルに戻ってきた俺、桜井さくらいかえでに届いたのは、小野寺おのでらかえでからのメッセージだった。


 その、メッセージに、俺は、ハッとした。


 ――小野寺

 そうだ、俺は、あいつに、まだ、何も伝えられていない。

 合宿での、あの出来事への謝罪のこと。

 そして、俺の本当の気持ち。


 逃げてはいけない。

 ちゃんと向き合わなければ。

 俺は、静かに、部屋を抜け出した。





 中庭は、ひんやりとした夜の空気に包まれていた。

 ベンチに、小野寺が一人座っている。

 その、小さな後ろ姿はどこか儚げで、消えてしまいそうだった。


「……小野寺」


 俺が声をかけると、彼女はびくりと肩を震わせ、ゆっくりと振り返った。

 その顔は、覚悟を決めたような強張った顔をしていた。



「……来てくれて、ありがとう」

「……どうしたんだよ」

「……うん。……あのね」


 小野寺は、一度、言葉を切った。

 そして、深呼吸を一つして、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。


 しばらくの沈黙……。

 小野寺の小さな身体が震えている。

 唇が開いては閉じてを繰り返している。


 小野寺の目を、しっかりと見る。


 小野寺は覚悟を決めたように口を開いて、小さな声で、でも、はっきりと俺に向かって告げた。


「……私、桜井くんのことが好きです」


 あまりにもストレートな告白だった。

 俺は、言葉を失った。


 わかっていた。

 心のどこかで。

 でもこうして、はっきりと言葉にされると。


 その重みが、ずしりと俺の胸にのしかかってくる。


「……困らせたいわけじゃ、ないの。……桜井くんが、日高さんのことを好きなのは、わかってる。……見てれば、わかるもん。……二人が、お似合いなのも、ちゃんと、わかってる」


 小野寺の瞳から、一筋涙がこぼれ落ちた。

 でも、彼女は、それを拭おうともせず、話を続ける。


「でも、言わせてほしい。……私が、どれだけ、桜井くんのこと、好きだったか。……私が、好きになったのは、いつも、誰よりも、真面目に、練習に取り組んでる、桜井くんでした。……走るのが、得意じゃない私にとって、その姿は、すごく、眩しくて。……私も、頑張らなくちゃって、思えたの」


 小野寺は、そこで、一度、言葉を区切った。


「合宿の朝、二人でストレッチした時、……事故だったけど、あなたの手に、触れられたとき。……夏の大会で、私の、ドリンクを、受け取ってくれたとき。……体育祭で、あなたが、私のことを見てくれたとき。……その、一つひとつが、私の、宝物なの。……この恋をして、私は、少しだけ強くなれた気がする。……だから、この気持ちを、伝えないまま終わるのが嫌だったの……」


 その健気で強い言葉に、俺は、胸が締め付けられるようだった。


 そうだ……。

 小野寺は、怖いのに、傷つくとわかっているのに。

 それでも、自分の気持ちから逃げなかった。


 それに比べて、俺はどうだ。


 「陽菜がいなくなるのが怖い」なんて言い訳をして、ずっと、本当の気持ちから、目を逸らしてきただけじゃないか。一番ヘタレなのは、俺だ……。



 小野寺のこの勇気が、俺に、最後の覚悟を決めさせてくれた。

 俺は、この真っ直ぐな想いに、誠実に応えなければならない。

 嘘は、つけない。


「……小野寺」


 俺は、彼女の名前を呼んだ。


「……ありがとう。……俺のこと、好きになってくれて」

「……うん」


「……俺、気づいてた。……お前が、いつも、俺のこと、見ててくれたこと。」

「……うん」


「……合宿のときも、大会のときも。……俺が、陽菜のことで、いっぱいいっぱいで、周りが見えてなかったときも、お前は、いつも、俺のこと気にかけてくれてた。……事故で、お前の胸を触っちまったときも……。俺、自分の、汚い気持ちで、頭がいっぱいで、お前のこと傷つけてたかもしれない。……本当に、ごめん」


 俺が、そう言って頭を下げると、楓は、ぶんぶんと首を横に振った。


「……嬉しかったよ。……あなたが、私を、見てくれてるってわかったから」

「……ごめん」


 俺の口から出たのは、その一言だけだった。


「……俺、大切にしたい人がいるんだ。ずっと変わらず近くにいてくれて、俺にとって、すごくすごく、大切にしたい、たった一人の女の子なんだ。小野寺のおかげで気づけた。……だからごめん。小野寺の気持ちには、応えられない……」


 俺がそう言うと、小野寺は静かに頷いた。

 そして、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま最高の笑顔で笑った。


「……うん。……知ってた。……ありがとう、桜井くん。……ちゃんと、振ってくれて」


 小野寺はそう言って、立ち上がった。


「……これからも、同じ、陸上部の、仲間として、……よろしくね。……ライバル、だから」

「……おう。……俺も、負けねぇから」


 俺たちは顔を見合わせて、少しだけ笑った。

 小野寺は、くるりと背中を向けた。

 そして、一度も振り返ることなく、建物の中へと去っていった。


 その、小さな後ろ姿が闇の中に消えていくのを、俺は、ただ見送ることしかできなかった。



 ごめん。

 そして、ありがとう。

 俺は、心の中でそう呟いた。


 小野寺の、あの涙と笑顔を。

 俺は一生忘れないだろう。


 そして、俺の心は決まった。 もう迷わない。




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