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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第7章 修学旅行と恋模様(11月)

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第74話 遊園地とチュロス

 修学旅行三日目。


 ゲートをくぐった瞬間、俺たちは、現実とはかけ離れた世界に足を踏み入れた。


 どこまでも続くカラフルな街並み。

 陽気で壮大なBGM。

 そして、キャラクターたちの陽気な声と、ゲストたちの弾けるような笑顔。


 その、圧倒的な非日常の空間に、俺、桜井さくらいかけるは、ただ、息を呑んだ。


「うわあああああっ! すごい! 本物だ!」


 隣で、陽菜が、子供みたいに目をキラキラさせて叫んでいる。

 その、あまりにも無邪気な姿が可愛くて、俺は、思わず顔が緩んでしまう。


 昨夜の、あの気まずくて甘い出来事が嘘のように。

 いや、 あの夜があったからこそ、今の、この温かい空気があるのかもしれない。


「よっしゃあ! まずは、フライングダイナソー、行くぞ!」


 健太が、拳を突き上げて叫ぶ。

 その隣では、葵ちゃんが、「ええ!? む、無理だよ、あんなの!」と、顔を真っ青にしている。


「大丈夫だって、葵! 俺が、ぎゅっと手を握っててやるから!」

「そ、そういう問題じゃ……!」


 健太と葵ちゃんの、いつもの微笑ましいやり取り。

 舞と翔平くんも、すっかり自分たちの世界に入っている。


「ねぇ、舞ちゃん。あそこの、ミニオンの被り物しない?」

「えー、やだよ、翔ちゃん。恥ずかしいって」

「いいじゃねぇか! 絶対、似合うって!」


 そして、蓮は。

 俺たちの少し後ろで、スマホをいじりながら、ニヤニヤとこちらを見ている。

 あいつ、絶対に俺たちの写真を撮ってやがる。


「……さて、と。リーダーさん」

 

 蓮が、俺の肩をポンと叩いた。


「ここからは、終日、自由行動だ。……まあ、俺たちは、俺たちで大人なデート楽しませてもらうからさ。……お前らも、せいぜいガキんちょなりの青春してこいよ」


 蓮はそう言って、悪戯っぽくウインクをした。

 そして、いつの間にか合流していた、彼女である篠崎美優さんの手を当たり前のように取った。

 美優さんは、相変わらずクールな顔で、蓮を一瞥すると、「……うるさい」と小さく呟いた。

 その二人の、完成されたカップルの空気に、俺は、何も言い返せない。


 蓮と美優ちゃん、舞と翔平くん、そして、健太と葵ちゃん。

 三組のカップルは、それぞれ手を繋ぎ、楽しそうに人の波の中へと消えていった。


 後に残されたのは、俺と、そして、少しだけ不安そうな顔で俺を見上げている、陽菜だけだった。



「……行くか、陽菜」


 俺は、そう言って陽菜の小さな手をそっと取った。  

 陽菜は、びくりと肩を震わせたが、すぐに嬉しそうにはにかんで、俺の手をぎゅっと握り返してくれた。

 その温もりだけで、俺は、もう十分だった。





 最初に向かったのは、大型のローラーコースターだった。


 空を飛んでいるかのような浮遊感。

 耳元で鳴り響く大音量の音楽。

 そして、隣で絶叫する陽菜の甲高い声。

 そのすべてが最高に楽しかった。


 次に、俺達は黄色いボートに乗り込んだ。

 恐竜たちの中を黄色いボートでゆっくりと進み……。

 最後の急流滑りで、二人してびしょ濡れになった。


「きゃー! 冷たい!」

「ははっ! バカ、お前、髪、すごいことになってんぞ!」

「カケルだって!」


 私たちは、顔を見合わせて、子供みたいに笑い合った。

 気まずさなんて、もうどこにもない。ただ、ひたすらに楽しくて幸せな時間。


 だが、問題があった。どのアトラクションも、待ち時間が尋常じゃないのだ。

 九十分待ち。 百二十分待ち。それが、当たり前の世界。


 でも、不思議とその時間は苦痛じゃなかった。

 陽菜が隣にいてくれるなら、どんな、退屈な時間も、特別な時間に変わってしまう。


 俺たちは、他愛ない話をたくさんした。

 小学生や、中学生の時の馬鹿な話。

 それぞれの部活の話。


「……カケルは、大学でも、陸上、続けるの?」

「……あぁ。そのつもりだ」

「そっか。……すごいね」

「……陽菜は?」

「……私も、テニス、続けたいな。……でも、それ以上に、やりたいことも、あるんだ」


 陽菜はそう言って、少しだけ意味深に微笑んだ。

 その意味を、俺は、まだ聞くことができなかった。





 長い、長い、待ち時間の結果。

 夕食まではまだ早いが、俺たちのお腹は、正直に、空腹を訴え始めた。


「……なんか、食うか」

「うん!」


 俺は、陽菜を、ベンチに残し、近くのフードカートへと向かった。

 メニューには、ポップコーン、チュロス、ターキーレッグ……。

 どれも、美味そうだ。


 俺は、ふと、文化祭のあの日のことを思い出した。

 今なら、 今ならできるかもしれない。

 俺は、意を決して、店員さんに注文した。


「……チュロスを、一本ください」





「……ほらよ」


 俺は、陽菜の元へと戻ってきた。

 その手には、一本の、とても長くて温かいチュロス。


「え? 一本だけ?」


 陽菜が、不思議そうな顔で俺を見る。

 俺は、顔が熱くなるのを、必死で抑えながら言った。


「……半分こしようぜ」


 その、俺の不器用な精一杯の言葉に。

 陽菜は、一瞬だけきょとんとした顔をした。

 そして、次の瞬間、その顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。


「……う、うん……! す、する……!」


 陽菜はそう言って、か細い声で頷いた。

 その陽菜の可愛い反応に、俺の心臓はもう限界だった。


 俺たちは、一本のチュロスを、両端から食べ始めた。

 サクサクとした食感。 シナモンの甘い香り。

 でも、味なんて、ほとんどわからなかった。


 ただ、目の前の陽菜の顔が、近い。

 少しずつ、短くなっていくチュロス。

 それに合わせて近づいていく、俺たちの距離。


 陽菜の、大きな瞳が、潤んでキラキラと輝いている。


 その瞳に、吸い込まれそうだった。

 あと、数センチ。 唇と、唇が、触れ合う、その瞬間。


「……あ」


 陽菜が、小さな声を上げて顔を逸らした。

 そして、ちぎれたチュロスの、最後の一口をぱくりと食べてしまった。


「……ご、ごめん! なんか、恥ずかしくなっちゃって……!」


 陽菜は、顔を真っ赤にして俯いている。

 俺も同じだった。心臓が痛い。

 嬉しくて、恥ずかしくて、そして、どうしようもないくらい愛おしくて。

 俺は、この爆発しそうな感情を、どう処理すればいいのかわからなかった。





 夢のような時間は、あっという間に過ぎていく。

 気づけば、空は、オレンジ色と、紫色が混じった、美しいグラデーションに染まり始めていた。


 パーク内に、イルミネーションが灯り始めた。

 俺たちは、ゆっくりとエントランスへと向かう。

 そこで、他のメンバーと合流した。


「いやー、マジで、最高の一日だったな!」


 健太が、満足そうに叫ぶ。

 誰もが、遊び疲れているはずなのに、その顔は、充実感でキラキラと輝いていた。


「……さて、と」


 蓮が、全員の顔を見渡した。


「このままホテルに帰るのも、なんか勿体なくない? こっからシャトル船ですぐの所に、大きな観覧車があるらしいぜ。せっかくだから、みんなで夜景、見に行こうぜ!」


 その提案に、俺たちは、顔を見合わせた。

 そして、誰からともなく同意の声が上がった。

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