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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第7章 修学旅行と恋模様(11月)

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第67話 旅館の夜と男子の悪巧み

 嵐山から京都市内の旅館へと戻るバスの中、俺の右手は、ずっと陽菜の左手と、固く、固く、繋がれたままだった。


 もう離せなかった。

 一度、その温もりを知ってしまったら、もう、元には戻れない。

 陽菜も、同じ気持ちでいてくれているのが、握り返してくる、その小さな指先の力から伝わってくる。


 俺たちは、何も話さなかった。

 でも、その沈黙が、どんな言葉より雄弁に俺たちの気持ちを語っていた。





 旅館は、鴨川のほとりに佇む風情のある古い建物だった。

 畳の匂い、木の廊下が軋む音、そして、中庭から聞こえてくる、鹿威し(ししおどし)の心地よい響き。

 そのすべてが、俺たちの高揚した心を、静かに落ち着かせてくれるようだった。


 夕食は、大広間で学年全員で食べた。


 豪華な、京料理。

 だが、正直、味なんてほとんどわからなかった。

 俺の意識は、すべて、斜め向かいの席で楽しそうに湯豆腐を頬張っている、陽菜の姿に奪われていたからだ。


 時々目が合うと、二人して顔を真っ赤にして慌てて逸らす。その繰り返し。


 周りの、健太や蓮たちが、ニヤニヤしながら俺たちのことを見ているのに気づいていた。

 でも、もうどうでもよかった。

 俺の世界には、今、陽菜しか映っていなかった。



 夕食の後、俺たちはそれぞれの部屋へと戻った。


 部屋割りは男子四人の部屋だった。

 俺と、健太、蓮、そして、クラスのムードメーカーの、田中たなか健吾けんご

 そう、体育祭の時、陽菜と二人三脚を組もうとして蓮に阻止された、あの田中だ。


 田中は、まだ陽菜のことを諦めていないらしく、時々、俺に、ライバル意識むき出しの視線を向けてくる。


「いやー、食った食った! 京料理、最高だったな!」


 田中が、満足そうに腹をさすっている。

 俺たちは、それぞれ布団の上に、大の字に寝転がった。

 その時だった。 蓮が、悪魔のような笑みを浮かべた。


「……さて、と。腹も満たされたことだし、そろそろ始めようじゃねぇか。男だけの聖なる儀式をな」


 蓮のその一言で。 部屋の空気が一気に熱を帯びた。





「で、だ。今日の、MVPは、間違いなく健太、お前だ」


 蓮が、俺の親友を指さした。

 健太は、「え、俺?」と、きょとんとした顔をしている。


「当たり前だろ。あの葵ちゃんとの感動の再会シーン! 俺、マジで泣きそうになったぜ」

「や、やめろよ、蓮! からかうな!」


 健太は、顔を真っ赤にして照れている。

 だが、その顔は最高に幸せそうだった。


「いやー、でも、マジで良かったよな健太。……で? あの後どうなったんだよ。キスくらいは、したんだろ?」


 蓮の、あまりにも直接的な質問に、健太は、さらに顔を赤くした。


「……す、するわけねぇだろ! あんな大勢の前で!」

「ちぇっ。ヘタレだなー」

「う、うるせぇ!」


 そんな健太の初々しい反応を見て、俺は少しだけ心が和んだ。


 だが、その穏やかな時間は長くは続かなかった。

 部屋の襖が、すっと開いたのだ。


「よぉ。面白そうなことしてんじゃねぇか。俺も、混ぜてくれよ」


 そこに立っていたのは神崎たち数人の男子だった。

 あいつらは、俺たちの部屋の隣の部屋らしい。


「……神崎。……ノックくらい、しろよ」


 健太が、不機嫌そうに言った。

 だが、神崎たちは気にも留めず、ずかずかと部屋に入ってくると、俺たちの輪の中にどかりと腰を下ろした。


「で? 何の話してたんだよ。……ああ、さては、女の話か?」


 神崎はそう言って、下卑た笑みを浮かべた。

 その目に、俺は強烈な嫌悪感を覚えた。



「なあ、桜井」


 不意に、田中が俺に話を振ってきた。


「お前、日高さんと付き合ってんのか?」

「……は?」

「いや、だって、今日ずっと手繋いでたじゃん。あれは、どう見てもただの幼馴染じゃねぇだろ」


 田中の探るような視線に俺は言葉に詰まる。

 その気まずい沈黙を破ったのは神崎だった。


「付き合ってるわけねぇだろ。こいつは、ヘタレだからな。……なあ、桜井。お前が手ぇ出せねぇんなら、俺がもらってやってもいいんだぜ?」

「……てめぇ」


 俺が、神崎を睨みつけると、あいつは楽しそうに笑った。


「日高の舞妓姿も悪くなかったがな。……まあ、あんなもん、ただのお人形遊びだ。俺が見たいのは、あいつの本当の裸だよ」


 そのあまりにも下劣な言葉に。

 俺の頭の中で、何かがぷつりと切れる音がした。

 だが、俺が何かを言う前に、蓮が動いた。


「……へぇ。……でも、残念だったな、神崎。……お前みたいなガキの妄想じゃ、日高さんの裸なんて一生見れねぇよ」

「……は? 何言ってんだ、てめぇ」



「まあいいや。……それより、お前ら知ってるか? この旅館、女湯と男湯を仕切ってる壁、一部薄いらしいぜ?」


 神崎が、今度はそんなことを言い出した。


 その言葉に。

 俺以外の、男子たちの目の色が変わった。


「「「マジで!?」」」

「ああ。去年来た先輩から聞いた。……覗き放題、らしいぜ?」


 神崎の、その悪魔のような囁きに。

 部屋の空気は完全に支配されてしまった。


 田中がゴクリと唾を呑む。


「……日高さんの、裸……」


 まずい。


 このままでは、本当に、こいつらやりかねない。


 俺は、どうすればいい。

 焦りだけが、俺の心を支配していた。





「きゃー! 陽菜、今の、可愛すぎ!」

「もう! 舞まで、からかうんだから!」


 旅館の女子部屋。

 私と、舞、葵ちゃん、そして、他の班の女子数人で枕を投げ合ってはしゃいでいた。

 修学旅行の夜はやっぱりこうでなくちゃ。


「でも、本当にすごかったよね、健太くん! 葵のこと見つけた時のあの顔!」

「う、うん……。……私もびっくりした」


 葵ちゃんは、顔を真っ赤にして俯いている。

 でも、その顔は最高に幸せそうだった。


「いいなー、葵は。私も、翔ちゃんにあんなふうにされたいなー」


 舞が、天井を仰ぎ見てうっとりとした顔で呟いた。

 その恋する乙女の顔に、私たちは思わず吹き出してしまった。


 ひとしきりはしゃぎ疲れた後。

 私たちは、布団を並べて恋バナを始めた。


 話題は、自然と今日のカケルのことになった。


「陽菜、桜井くんと、手繋いでたでしょ。見たよー」

「きゃー!」


 舞の指摘に、私は布団の中に顔を埋めた。


 恥ずかしい。

 恥ずかしくて死にそうだ。

 でも、それ以上に嬉しくてたまらない。


「どんな感じだった? 桜井くんの手」

「……お、大きくて……。……ゴツゴツしてて……。……でも、すごく温かかった……」


 私が、か細い声でそう答えると。

 周りの女子たちから「きゃー!」と、黄色い悲鳴が上がった。


「いいなー! 青春だねー!」

「なんで、まだ付き合ってないの?」

「陽菜から、もう、早く告白しちゃいなよ!」

「む、無理だよ!」


 私が、ぶんぶんと首を横に振っていると。

 ふと、葵ちゃんが不安そうな顔で呟いた。


「……でも、男の子って、……手ぇ繋いだら、その、……キ、キスとか、したくなっちゃうんじゃないかな……?」


 その、あまりにも純粋な質問に。

 部屋が、一瞬だけしんと静まり返った。

 そして次の瞬間、舞が腹を抱えて笑い出した。


「あはははは! 葵、あんた、マジでウブすぎ! 可愛すぎる!」

「だ、だって……!」

「当たり前じゃん! 手ぇ繋いだら、キスしたくなるし! キスしたら、その先もしたくなるのが男の子なんだって!」


 舞の、そのあまりにもストレートな言葉に。

 私と葵ちゃんは、顔を真っ赤にして固まった。


 その先。


 合宿の夜、水野先輩が話していた、あの大人の世界。


 カケルと私が。

 そんなことになったら。

 私は、どうなってしまうんだろう。

 想像しただけで、頭が沸騰しそうだった。



「ね、ねぇ、舞ちゃん。その、『その先』って、どんなこと……?」


 葵ちゃんが、純粋な好奇心に満ちた瞳で舞に尋ねた。

 その、あまりにも無垢な質問に、今度は私が慌てふためく番だった。


「あ、葵ちゃん! そ、それは、まだ知らなくていいことだと……!」

「えー、なんで? 気になるよー」


 舞は、そんな私たちを見て悪戯っぽく笑うと、葵ちゃんに手招きをした。


「こっちおいで、葵。……こっそり教えてあげる」


 舞は、葵ちゃんの耳元に何かを囁いた。

 葵ちゃんは、最初は、きょとんとした顔で聞いていたが、やがてその意味を理解したのだろう。

 その顔が、みるみるうちにトマトみたいに真っ赤に染まっていく。


「……っ! ば、ばか! 舞ちゃんの、エッチ!」


 葵ちゃんはそう叫ぶと、布団の中に勢いよく潜り込んでしまった。

 そのあまりにも可愛い反応に、部屋中が笑いに包まれる。



「……まあ、でも、桜井くんは、誠実そうだから大丈夫だよ。……陽菜のこと、すごく大事にしてるのがわかるもん」


 舞はそう言って、優しく微笑んでくれた。


 その言葉に、私は、少しだけ救われた気がした。

 そうだ。 カケルは大丈夫。

 カケルは、絶対に私を傷つけるようなことはしない。

 そう信じている。



「さーて! それじゃあ、そろそろ、お風呂行こっか! 汗かいちゃったし!」


 舞のその一言で。

 私たちは、浴衣とタオルを手に部屋を出た。



 これから、男の子たちが、とんでもない悪巧みを企んでいることなど何も知らずに。

 ただ、キラキラとした修学旅行の夜に、胸をときめかせながら。




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