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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第6章 天使と悪魔(10月)

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第61話 獣の独白、砕け散った心

 俺は、何も悪いことなんてしていない。


 ただ、欲しいものを、欲しいと言っただけだ。

 ただ、好きな女を、自分のものにしようとしただけだ。


 男が女を支配する。

 それは、この世界の当たり前のルールのはずだった。


 俺、西園寺さいおんじたくみが、物心ついた時から、ずっと見てきた光景。


 親父が、オフクロを殴りつける音。

 オフクロの、甲高い悲鳴。


 そして、すべてが終わった後、親父の足元で、許しを乞うように、すがりつくオフクロの姿。


 あれが、家族の形なのだと信じて疑わなかった。

 男は、強くあらねばならない。

 女は、男に従うものなのだと。



 中学の時、初めて、親父のパソコンでAVを見た。隠しフォルダの中にあった、大量の動画。


 そのほとんどが、抵抗する女を、男が力でねじ伏せるという内容だった。


 女は、最初は「やめて」と泣き叫ぶ。

 でも、男が、その身体を貪るように求め始めると、やがてその声は、甘い、甘い、嬌声に変わっていく。『もっと、もっと』と、男の身体を、求めるようになる。



 俺は、興奮した。

 これがセックスなのだと。

 これが正しい「愛し方」なのだと。

 そう、信じて疑わなかった。



 だから、俺は、それを実践してきただけだ。




 今まで、俺が「食べた」女は、両手の指じゃ足りない。

 最初は、皆、抵抗するフリをした。


 でも最後には、皆、俺の腕の中で悦んでいた。

 それが、当たり前だと思って生きてきた。


 今さら、それが、許されないことだと言われても。俺は、困る。



 日高陽菜。


 あいつを、初めて見たのは、いつだったか。

 テニスコートで、楽しそうにボールを追いかける、小さな姿。


 太陽みたいな、笑顔。


 その笑顔が、俺の心を、射抜いた。


 一目惚れ、だった。



 俺は、今まで、女を、ただの性欲処理の道具としか見ていなかった。

 でも、あいつは、違った。




 ――欲しい。


 心の底から、そう思った。

 あの、笑顔を俺だけのものにしたい。

 あの、優しさを、俺だけに向けてほしい。



 俺の母親は、一度も、俺に、あんな顔で、笑いかけてくれたことはなかったから。

 いつも、親父の顔色を窺って、怯えているだけだったから。



 日高陽菜は、俺にとって、天使だったのだ。

 姿も、心も、天使だった。


 だから、俺は、その天使を、自分のものにすることで、俺の、渇ききった愛情への渇望を、満たそうとしたのだった。

 それが、俺の、唯一の、愛し方だったから。




 あの体育倉庫での瞬間を、俺は忘れない。


 俺の腕の下で、涙を浮かべて震える小さな天使。

 ビリッと破いたワンピースの肩口から覗く、白い肌。


 最高に、興奮した。


 ようやく、手に入れた。

 この、純粋で、穢れを知らない天使を、俺が、初めての男として、めちゃくちゃにしてやれる。

 俺の色に、染め上げてやれる。


 その、圧倒的な、支配感と、高揚感。



「それじゃ、日高。今から、お前を、おいしくいただかせてもらうな」


 俺は、勝利を、確信していた。


 なのに。



 鈍い音と共に、鉄の扉が、無理やりこじ開けられた。そして、そこに立っていたのは、桜井駆だった。


 鬼の形相で。

 あいつの、あの、目。


 俺は、生まれて初めて、本当の殺意というものを見た。



 そこからの記憶は断片的だ。


 顔面に叩きつけられる、鉄槌のような拳の一撃。

 たった一発で、俺の意識は飛びそうになった。


 俺は、ただ無様にマットの上に転がることしかできなかった。


 でも、それは、間違いだったのだろうか。

 体育倉庫での、あの光景が、頭から離れない。


 俺が、ようやく手に入れられるはずだった天使。

 その前に、立ちはだかった桜井駆。



 あいつは、俺を殴った後、日高を抱きしめて泣いていた。

 そして、日高も、あいつの腕の中で泣いていた。



 二人は、ただ、お互いの温もりを確かめるように、静かに涙を流していた。

 その光景を見た瞬間、俺は、理解してしまった。


 俺の、入る隙間なんて、どこにもないのだと。

 俺が、どんなに手を伸ばしても、絶対に手に入れることのでない絆が、そこにはあった。



 俺の心は真っ黒だった。

 嫉妬と憎しみと、そして、どうしようもない孤独感で。



 これから、俺は、罪を償えと言われている。

 学校を辞めさせられ、警察にも行かなければならないらしい。


 体育祭の日に遊んでやった、あの一年の女が、余計なことを、チクったからだ。


 これから、俺はどうなるんだろう。

 どうすれば、よかったんだろう。


 何も、わからない。



 ただ、一つだけわかること。


 俺は、もう二度と、あの天使の笑顔を見ることはできない。

 その残酷な事実だけが、俺の空っぽになった心に重くのしかかっていた。


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