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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第5章 天使のひだまり(10月)

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第41話 もう一つの巨大イベント

 体育祭の熱狂が冷めやらぬ九月が過ぎ去り、十月に入ると、学校の空気はまた別の種類の熱気に包まれ始めた。


 あれだけ猛威を振るっていた太陽の熱も、朝晩にはすっかり和らぎ、空には高く澄んだ秋の雲が浮かんでいる。


 俺たちの高校二年生の秋は、学校中がどこか浮足立った、そわそわとした空気の中で過ぎていく。


 原因は、十月の終わりに控えた、もう一つの巨大イベント――文化祭だ。



「よっしゃあ! 俺たちのクラスで、グランプリを獲るぞー!」


 ホームルームの時間。

 教壇に立ったクラス委員長が、拳を突き上げて叫ぶ。

 その声に、クラスメイトたちが「おぉー!」と鬨の声を上げた。


 俺、桜井さくらいかけるは、自分の席で頬杖をつきながら、その光景をどこか他人事のように眺めていた。


 文化祭。

 正直、あまり好きじゃない。

 人前に出るのも、大勢で何かをやるのも、得意じゃないからだ。


 去年は、確か、段ボールでお化け屋敷を作ったんだったか。

 俺は、ひたすら段ボールを黒く塗りつぶすだけの、地味な作業に徹していた記憶がある。



「で、だ! 俺たち二年五組の出し物だが……喫茶店でいこうと思う!」


 クラス委員長の宣言に、教室が、わっと沸いた。

 特に、女子たちの目の色が、キラキラと輝いている。


「え、喫茶店!? やりたーい!」

「可愛い衣装とか、着れるかな?」

「メニューは、何にする?」


 その盛り上がりように、俺は、内心で深いため息をついた。


 喫茶店。

 それはつまり、接客がメインということだ。

 俺にとっては、地獄でしかない。


「いいじゃん、喫茶店! 駆も、ウェイターとかやれば? 黙ってればイケメンなんだから、絶対、客来るって!」


 隣の席の健太が、俺の肩をバンバン叩きながら、無責任なことを言う。


「……死んでもやらねぇ」

「まあまあ、そう言うなって。日高さんとお揃いのエプロンとか、着れるかもしんねぇぜ?」

「……っ!」


 健太の、悪魔のような囁きに、俺の心臓がドクンと大きく跳ねた。


 陽菜と、お揃いのエプロン。

 その光景を想像してしまって、顔がカッと熱くなる。


「駆の奴、想像してやがるぜ、蓮」

「だな。わかりやすすぎだろ。……まあ、俺は、キッチンで、愛のこもったパンケーキでも焼いてやろうかな。俺のファンたちが、殺到しちまうだろうけどな」


 前の席の蓮が、振り返ってキザに髪をかき上げた。

 こいつらの、このノリには、一生ついていけそうにない。



 俺は、ちらりと陽菜の席に目をやった。

 彼女は、親友の舞と楽しそうに何やら話し込んでいる。

 その横顔は、文化祭への期待でキラキラと輝いていた。


 その笑顔を見ているだけで、俺の胸は温かくて、そして少しだけチクリと痛んだ。

 陽菜が楽しそうなら、まあいいか。

 俺は、今年も、教室の隅で皿洗いでもして過ごそう。

 そう心に決めた。





 放課後。

 教室は、文化祭の準備のための熱気に包まれていた。


 喫茶店のテーマは、『天使の癒しカフェ』という、聞いているこっちが恥ずかしくなるようなものに決まったらしい。


 そして今、それぞれの役割分担を決めているところだった。


「じゃあ、ホールスタッフやりたい人ー!」


 クラス委員長の声に、陽菜や舞を始め、クラスの女子のほとんどが、ぱっと手を上げた。

 男子も、蓮や、クラスのムードメーカーたちが、意気揚々と立候補している。


 と、その時。 教室の後ろのドアが、ガラリと開いた。


「よぉ、悪い。ちょっと、話、聞かせてもらってもいいか?」


 そこに立っていたのは、別のクラスの神崎だった。

 あいつは、悪びれる様子もなく、ずかずかと教室に入ってくると、陽菜の席のすぐ近くに陣取った。


「神崎? なんで、お前がここにいんだよ」

「俺のクラス、出し物、決まんなくてさ。なんか、面白そうなことやってるから、参考にさせてもらおうと思ってな」


 そう言って、神崎は、陽菜に爽やかな笑顔を向ける。

 陽菜は、少しだけ、困ったように曖昧に笑い返した。


(……嘘つけ。絶対、陽菜が目当てだろ)


 俺は、心の中で悪態をついた。

 胸の奥が、また、チリチリと焦げるような嫌な感覚に襲われる。


「はいはい! じゃあ、日高さんと、結城さんは、ホールスタッフのリーダー、お願いできるかな?」

「「はい!」」


 陽菜と舞が、元気よく返事をする。

 その姿を、神崎が、熱っぽい視線で見つめているのを、俺は見逃さなかった。


「それじゃあ、次は、キッチンスタッフ!」


 俺は、その言葉を待っていたかのように、そっと手を上げた。

 俺の他にも、数人のあまり目立ちたくないであろう男子たちが、同じように控えめに手を上げている。


「よし、じゃあ、桜井くんたちは、キッチンな! メニュー開発、頼んだぞ!」

「……おう」


 よかった。

 これで、陽菜たちの、あの、天使だか悪魔だか知らないが、キラキラした世界とは無縁でいられる。

 俺が、ホッと胸を撫で下ろした、その時だった。


「えー、待ってよ、委員長!」


 蓮が、立ち上がって声を上げた。


「駆を、キッチンに閉じ込めておくのは、もったいねぇって! こいつ意外と力仕事とか得意なんだから、買い出しとか内装の設営とか、そういうのもやらせようぜ!」

「あ、それいいね! 健太も手伝うよな?」

「当たり前だろ! 駆と俺の、筋肉コンビに任せとけ!」


 健太まで、蓮の提案に便乗しやがった。

 俺は、「おい、余計なことを」と、二人を睨みつける。

 だが、時すでに遅し。


「確かに! それは助かる! じゃあ、桜井くんと佐藤くんは、キッチン兼雑用係ってことで色々お願いしていいかな?」

「「おう!」」


 俺の意思とは全く無関係に、健太と蓮が勝手に返事をしてしまった。

 こうして、俺は、厨房の平和な世界から引きずり出されることが決定してしまったのだった。





(……よかった。カケルも、一緒だ)


 教室の隅で、ホールの衣装デザインについて舞と話し合いながら、私、日高陽菜は、内心で小さく喜んでいた。


 カケルが、キッチンだけじゃなく、内装とか買い出しも手伝ってくれる。

 つまり、これから、彼と一緒にいられる時間が、もっともっと増えるっていうことだ。

 そのことが、嬉しくて嬉しくて、たまらない。


「……陽菜、顔、ニヤけてるよ」

「へっ!? そ、そんなことないし!」


 舞に指摘され、私は慌てて顔を引き締めた。

 

「ふーん? まあ、いいけど。それで、衣装のデザイン、どうする? テーマは、『天使の癒しカフェ』なんでしょ? やっぱり、白を基調にする?」

「うん、そうだね。フリフリの白いエプロンとか可愛いかも!」

「いいね! あと、頭に天使の輪っかとか付けちゃう?」

「きゃー! それ、絶対可愛い!」


 私たちは、ノートに思いつくままに、デザインのアイデアを描いていく。

 その作業は、すごく楽しかった。


 ちらりとカケルの方を見る。

 彼は、健太くんと、教室の壁の寸法を測っているようだった。


 真剣な顔でメジャーを操るその横顔。

 時々、健太くんと何か話して、少しだけ笑う。

 その、一つひとつの仕草から目が離せない。


(……この衣装、カケル、見てくれるかな)

(……可愛いって、思ってくれるかな)


 夏のプールでの出来事が蘇る。


 カケルが、私の水着姿を「えっちい」って言った、あの瞬間。

 思い出すだけで、顔から火が出そうになる。


 でも、それ以上に嬉しかった。

 カケルが、私を「女の子」として見てくれている。

 その事実が、私に、勇気をくれる。


「……ねぇ、舞。男子の衣装は、どうしようか?」

「男子? うーん、執事みたいな、黒いベストとか、カッコよくない?」

「いいね! カケル、絶対、似合うと思う!」

「……はいはい。惚気は、後で聞きますから。とりあえず、デザイン決めちゃお?」


 舞に、呆れたように笑われて、私は、顔を真っ赤にしながら頷いた。

 文化祭当日が、すでに今から楽しみで仕方なかった。





 数日後の、放課後。


 俺は、陽菜と二人で、駅前の大型手芸用品店に来ていた。

 文化祭の、衣装の材料の買い出しだ。


 なぜ、こうなった。


 最初は、陽菜と舞、それに、俺と健太の、四人で来るはずだったのだ。

 だが、健太は「ごめん  急に、葵とのデートの約束が入った!」と、満面の笑みで去っていき。

 舞は「ごめん、陽菜! 私、今日、歯医者の予約があったの忘れてた! あとは、二人でお願い!」と、申し訳なさそうに手を合わせて去っていった。


 絶対に嘘だ。

 あの二人のアイコンタクトを、俺は見逃さなかった。

 完全に、ハメられたのだ。


「……すごいね、ここ。いろんな布があるんだ」


 陽菜は、そんな俺の心境など露知らず。

 目をキラキラさせながら、色とりどりの布が並ぶ棚を見上げている。


「……だな」


 俺は、そう答えるのが精一杯だった。


 周りは、女子高生や女子大生、そして主婦のグループばかり。

 その中に、俺一人だけ、場違いなむさ苦しい男。

 居心地の悪さは、最高潮に達していた。


「あ、このレース、可愛い! エプロンの裾につけたら、絶対、いい感じになるよ!」


 陽菜は、白いレースを手に取り、嬉しそうに俺に見せてくる。


 その、無邪気な笑顔。

 その笑顔を見ているだけで、俺のささくれだった心も、少しだけ癒される気がした。


「……いいんじゃねぇか」

「でしょ? あと、リボンもいるよね。天使の輪っか作るための、ワイヤーと、羽も……」


 陽菜は、メモ帳を片手に、次々と必要なものをカゴに入れていく。

 そのてきぱきとした姿は、頼もしくて、そして、すごく魅力的だった。


 俺は、ただその後ろを、カゴを持ってついていくだけ。


 まるで、新婚夫婦の買い物みたいだ、なんて。

 そんな馬鹿なことを考えてしまって、一人で顔が熱くなる。


「……よし、こんなもんかな。……あ、そうだ。カケル、ちょっと、こっち来て」


 陽菜が、俺を手招きする。



 連れて行かれたのは、男子用の、ベストやシャツが置いてあるコーナーだった。


「カケル、ちょっと、これ、合わせてみてくれない?」


 陽菜は、そう言って、一枚の黒いベストを俺の胸に当てた。


「……なんでだよ」

「男子の衣装の、参考にしたいの。カケルは、スタイルいいから、モデルに、ぴったりだもん」


「……やめろよ、恥ずかしい」

「いいから、じっとしてて」


 陽菜は、俺の抵抗などお構いなしに、俺の肩幅や胸囲を、メジャーで測り始めた。


 近い。

 近い、近い、近い。


 陽菜の顔がすぐ目の前にある。

 真剣な眼差しで、メジャーの目盛りを読んでいる。


 その、長いまつ毛。

 少しだけ開かれた、潤んだ唇。


 俺は、息を止めた。

 このまま、時間が、止まってしまえばいいのに。

 そう、本気で思った。



「……うん、オッケー。ありがとう、カケル」


 計測を終えた陽菜は、満足そうに頷いた。


 俺は、まだ、ドキドキしている心臓を、必死に落ち着かせようとしていた。

 手芸用品店の、柔らかな照明が、陽菜の横顔を優しく照らしている。


 その光景が、あまりにも綺麗で。

 俺は、ただ見惚れることしかできなかった。







文化祭編スタートです。

少しでも面白いなとおもってもらえたら、ブックマーク、リアクション、評価(★)など、よろしくお願いします。感想も大歓迎です。全部読みます!

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