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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第12章 これからも君の隣に(7月/8月/9月)

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123/124

第123話 最後の夏、君と見た空。

 八月の突き抜けるような青空の下、巨大なスタジアムは、全国から集まった猛者たちの熱気と観客たちの期待で、陽炎のように揺らめいていた。


 インターハイ本番。


 俺、桜井さくらいかけるは、二百メートルの予選、そのスタートラインに立っていた。


 心臓が早鐘を打っている。でも、それは春先の焦燥感に満ちたものとは全く違った。心地よい緊張感。そして、どうしようもないくらいの感謝の気持ち。


 ここまで連れてきてくれてありがとう。


 俺は、観客席の一番前に視線を送った。

 そこにいた。 俺の名前が書かれた、手作りのうちわを、少しだけ恥ずかしそうに振る親父とおふくろ。チームのジャージを着て、俺以上に緊張した顔で、固唾をのむ、親友で部長の健太。同行部員としてストップウォッチを握りしめ、真っ青な顔でこちらを見つめる中村沙織。そして、その中心で、祈るように手を組んでいる陽菜。


 遠くまで、わざわざ来てくれた、俺のかけがえのない応援団。

 その光景を見た瞬間。 俺の全身に、力がみなぎっていくのがわかった。

 俺は、俺のすべてを、この一本のレースにぶつけるだけだ。


 ――パンッ!


 乾いた号砲と共に。俺は地面を蹴った。

 隣のレーンを走る選手たちの、息遣いが聞こえる。


 速い。レベルが違う。

 地方大会とは比べ物にならない、圧倒的な速さ。

 コーナーを曲がり、最後の直線。


 俺は、明らかに後れを取っていた。

 予選を通過できない。その残酷な事実が頭をよぎる。


 でも、俺の心は折れなかった。


 頬に残る、地方大会での陽菜の唇の感触。

 仲間たちの声援。


 そして、今、俺を見守ってくれている、あいつらの顔。

 俺は、歯を食いしばった。


 腕を振れ。

 脚を前に出せ。


 陽菜の笑顔を目指して。


 俺は、最後の最後の力を振り絞った。

 ゴールラインが、目の前に迫ってくる。

 俺は、そこに、身体を投げ出すように飛び込んだ。





(カケル……!)


 最後の直線、彼の順位が絶望的なのは、私にもわかった。

 でも、私は目を逸らさなかった。


 彼の、あの必死な形相。

 最後まで諦めずに腕を振る、その雄々しい姿。

 私の目に、彼のすべてを焼き付けたかった。


 ゴールラインを、駆け抜けた瞬間。

 彼の、高校最後の夏が終わった。


 周りからは、ため息にも似た声が漏れる。

 でも、私はなぜか泣いていなかった。


 ただ胸がいっぱいで、誇らしくて、どうしようもなかった。

 頑張ったね。 本当に頑張ったね、カケル。





 ゴールした後も、しばらく俺は、トラックの上から動けなかった。

 全身が痛い。 でも不思議と心は穏やかだった。


 俺は、すべてを出し切った。


 結果は予選敗退。

 でも、電光掲示板に、表示されたタイムは、自己ベストを更新していた。


 人生で、一番の走りだった。

 俺の口元からは、自然と笑みがこぼれた。


 悔しさなんて、どこかへ吹き飛んでしまうくらいの、晴れやかで、満足げな最高の笑顔。

 俺は、ゆっくりと身体を起こした。そして、仲間たちの元へと歩き出す。


「お疲れ、駆! ナイスランだったぜ! 自己ベスト更新、すげぇじゃねぇか!」


 健太が、俺の肩を力強く叩く。


「桜井くん、本当にお疲れ様……! すごく、カッコよかった……!」


 中村が、タオルを渡してくれながら、涙ぐんで笑ってくれた。

 父さんは、何も言わずに、俺の頭を、一度だけわしわしと撫でた。

 母さんは、もう涙でぐしゃぐしゃだった。


 そして、陽菜が、俺の前に立った。

 彼女は、ただ、俺の汗まみれの身体を、力いっぱい抱きしめてくれた。


「……お疲れ様。カケル。……私にとっては、カケルが、世界で一番速かったよ。世界で一番カッコよかった」


 その震える声と、温もりが、俺のすべての疲れを溶かしていく。

 俺も、彼女の小さな身体を、優しく抱きしめ返した。


 ありがとう。


 ただ、その一言だけを、心の中で、何度も何度も繰り返した。



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