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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第11章 暗闇に輝く光(4月/5月/6月)

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第118話 星空の約束

 陽菜の温かい涙。

 俺の不器用な想いを、全部、受け止めてくれた、そのどうしようもない優しさ。


 俺たちは、しばらくソファの上で言葉もなく、ただお互いの温もりを確かめるように抱きしめ合っていた。やがて、陽菜がゆっくりと顔を上げた。その目は、まだ泣き腫らして真っ赤だったけど、今まで見た中で一番穏やかで、美しい色をしていた。


「……ありがとう、カケル。……最高の、誕生日だよ」

「……おう」


 その心からの笑顔を見て、俺は、ようやく息をすることができた気がした。


 俺は、ゆっくりと彼女から身体を離すと、少しだけ悪戯っぽく笑ってみせた。


「……陽菜。……実は、まだプレゼントがあるんだ」

「え?」


 陽菜が、きょとんとした顔で俺を見る。

 俺は何も言わずに、彼女の小さな手を引いて立ち上がった。


 そしてリビングを出て、二階へと続く階段へと彼女を導いた。

 向かった先は、俺の部屋だった。





(……カケルの、部屋)


 通されたのは、彼のプライベートな空間だった。

 足を踏み入れるのは、彼が風邪をひいたあの日以来。

 でも、あのときは、それどころじゃなかった。


 こうして、ちゃんとした意識で彼の部屋に入るのは、本当に小学生のとき以来かもしれない。


 男の子らしい、少しだけ雑然とした部屋。

 でも、不思議と嫌な感じはしない。


 壁には陸上の大会でもらったであろう賞状がいくつか飾られていて、机の上には参考書が積み上がっている。

 そこかしこに、彼の生活の匂いがして、私の心臓はドキドキと音を立てた。


「……これ、なに?」


 部屋の真ん中に、ぽつんと置かれた見慣れない機械。

 私が不思議そうにそれを指さすと、カケルは何も言わずに、私の手を強く、でも優しく握った。


「……こっち」


 彼に導かれるまま、私はベッドの縁に腰を下ろした。

 カケルも隣に座る。彼の真剣な眼差しが、私を真っ直ぐに見つめていた。


「……陽菜。俺を信じてくれるか?」


 彼の、その少しだけ震えた声に、私はこくりと頷いた。


「……大丈夫。少しだけ暗くなるけど。絶対に怖がらせたりしねぇから」


 彼はそう言うと、机の上に置かれていたリモコンを手に取り、部屋の照明を消した。 遮光カーテンに外の光も遮られて、完全な暗闇が私たちを包む。


 心臓が、どきりと音を立てた。

 体育倉庫の、あの息の詰まるような闇が、一瞬、脳裏をよぎる。


 びくりと私の肩が震えたのを、彼は見逃さなかった。

 握られた手に、きゅっと力がこもる。

 その温もりが、私に「ここは安全だ」と告げているようだった。



 そしてカケルは何も言わずに、その機械のスイッチを、そっと押した。

 

 次の瞬間。 今まで、ただの暗闇だった私の世界が一変した。


 息を呑んだ。

 目の前に広がるのは、無数の星の海。


 部屋の天井と壁に、ゆっくりと天の川が流れ、時折、流れ星がすうっと尾を引いていく。

 それは、幻想的で美しい光景だった。


「……すごい……」


 私の口から、感嘆のため息が漏れる。


 暗闇。


 ほんの数ヶ月前まで、私にとってそれは恐怖の象徴でしかなかった。

 息をすることも許されない、閉ざされた絶望の色。


 でも、今、目の前に広がる暗闇は、少しも怖くなかった。

 温かくて、キラキラしていて、そしてどこまでも優しい闇。


 私が知っていた闇は、私を閉じ込める閂で閉ざされた檻だった。

 でも、この闇は無限の宇宙みたいに、どこまでも広がっていて、私を自由にしてくれる。


 なぜなら。


 私の隣には、カケルがいてくれるから。

 私のために、彼が、この美しい暗闇を作ってくれたから。


 その温もりだけで。

 私の心の中の、最後の小さな氷の欠片が、すうっと溶けていくのがわかった。


「……カケルが、私のために作ってくれたの? この、暗闇」

「……おう。陽菜に見せたかったんだ。……怖くない、綺麗な暗闇もあるんだって」


 カケルの、そのどうしようもなく優しい言葉に。

 私の目から、また涙がこぼれ落ちそうになる。

 私は必死で、それを堪えた。


 そしてカケルに最高の笑顔を見せる。


「……ありがとう」


 絞り出した、わたしの気持ち。その五文字に全部あらわれていた。





 陽菜の、その心からの笑顔を見て。 俺はこのサプライズが成功したことを確信した。

 よかった。笑ってくれた。


 俺が作り出した、このささやかな暗闇を受け入れてくれた。

 俺たちは、ベッドの縁に並んで座り、しばらく無言で星空を眺めていた。


 陽菜が、俺の肩に頭を乗せ、その体重を預けてくる。

 その重みと温もり。髪の毛から香る甘いシャンプーの匂い。

 俺は、そっと自分の頭を、彼女の頭に寄りかからせた。


 言葉なんていらなかった。

 ただ、こうして隣にいるだけで、俺たちの心は、確かに一つになっていた。


 やがて、俺は、意を決して陽菜の肩を優しく抱き寄せた。

 彼女の身体がびくりと震える。でも、陽菜は逃げなかった。

 それどころか、俺の胸に、その顔をうずめてくる。


 俺は、彼女の柔らかな髪を、そっと撫でた。


「……陽菜」

「ん?」

「……俺。……陽菜のこと、絶対に守るから。どんな暗闇からも」


 俺の、その誓いの言葉に。

 陽菜は何も言わずに、ただ俺の背中に、その小さな腕をぎゅっと回してくれた。


 俺は、ゆっくりと彼女の顔を見つめる。潤んだ大きな瞳が、俺を見上げている。

 俺は、ゆっくりと顔を近づけていった。 そして、二人の唇がそっと重なった。


 それは、どこまでも穏やかなキスだった。


 怖くない。この腕の中は安心できる場所。そう、陽菜が思ってくれているのが伝わってくるようだった。


 この夜の出来事が。星空の記憶が。

 彼女の心の暗闇を照らす、新しい「光」になってくれればいい。


 満点の星空の下で、俺たちの間に、新しい輝きが広がっていた。


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