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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第11章 暗闇に輝く光(4月/5月/6月)

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第117話 二人だけのパーティー

 私の誕生日、当日。

 夕暮れ時、私は隣の家のインターホンの前に立っていた。


 心臓が、いつもに増してドキドキしている。


 カケルが、私の誕生日のために、彼のお家でパーティーを開いてくれる。

 その甘い事実に、私は、朝からずっとふわふわとした夢見心地だった。


 どんな、服を着ていこう。

 どんな、髪型にしよう。

 女の子なら誰でも悩むであろう、その幸せな問題に、私は半日以上も時間を費やしてしまった。


 そして選んだのが、この白い少しだけ大人っぽいワンピース。

 彼に可愛いって思ってもらいたい。その一心だった。


 深呼吸を一つしてインターホンを押す。

 すぐに、「はーい」という、少しだけ緊張したような彼の声が聞こえた。


 ――ガチャリ、とドアが開く。


 そこに立っていたのは、私の想像をはるかに超えるカケルだった。


「……いらっしゃい、陽菜」


 カケルは、顔を真っ赤にして、照れくさそうにそう言った。

 その首には、なぜか、少しだけ曲がった蝶ネクタイ。

 そして、その身体には、お母さんのものだろうか、可愛らしい花柄のエプロンが結ばれていた。


 その、あまりにも愛おしい姿に、私は、思わず、吹き出してしまった。


「ふふっ……! なに、その格好! カケル、すごく似合ってるよ!」

「……う、うるせぇな! ……航の奴が、これが正装だって、言うから……!」


 カケルは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 その初々しい反応が、可愛くて愛おしくてたまらない。


 私は幸せな気持ちでいっぱいになりながら、彼の温かい家の中へと、足を踏み入れた。





 陽菜をリビングへと案内する。

 テーブルの上には、俺が、航に、半ば無理やり手伝わせて飾り付けた、ささやかなデコレーション。


『陽菜、お誕生日おめでとう』


 その拙い文字が、少しだけ恥ずかしい。

 陽菜は、その飾り付けを見て、子供みたいに目をキラキラさせていた。


「すごい……! カケルが、これ、全部……?」

「……おう。まあ、航に、だいぶ手伝ってもらったけど」

「ううん、嬉しい! ありがとう!」


 その、心からの嬉しそうな笑顔を見て、俺は少しだけほっとした。

 俺は、陽菜をソファに座らせると、キッチンへと向かう。


 今日のメインディッシュは、陽菜が一番好きだと言っていたハンバーグ。

 莉子ちゃんから、こっそり、情報を仕入れていたのだ。


 俺は、人生で初めて、玉ねぎをみじん切りにした。

 涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃになりながら。

 航に「ヘタクソすぎだろ」と、散々笑われながら。

 でも、陽菜の喜ぶ顔を思い浮かべたら、不思議と頑張れた。


 ――ジュウ、と。


 フライパンの上で、ハンバーグが美味しそうな音を立てて焼けていく。


「……いい匂い」


 リビングから、陽菜の楽しそうな声が聞こえる。

 俺は、その声に、背中を押されるように、最後の仕上げに取り掛かった。


「カケル、手伝うよ!」

「い、いいって! 陽菜は主役なんだから、座ってろよ」

「やだ。……カケルと、一緒に作りたい」


 そう言って、陽菜は、俺の隣に立った。

 そして、サラダの盛り付けを手伝ってくれる。


 狭いキッチン。

 肩と肩が、触れ合うか触れないかの、距離。

 その幸せな時間。


 二人だけの、ささやかな誕生日パーティー。

 俺が作った、少しだけ形のいびつなハンバーグ。


 陽菜は「美味しい、美味しい」と、何度も言いながら、あっという間に平らげてくれた。

 その幸せそうな顔を見ているだけで、俺の心も、温かいものでいっぱいになった。



 そして。食事が終わった後。俺は冷蔵庫へと向かった。

 今日の、本当のメインイベント。


「……陽菜。……まだ、あるんだ」


 俺はそう言って、一つの大きな箱をテーブルの上に置いた。

 それは俺が、三日間、地獄の特訓をしながら、必死で作り上げた、手作りのバースデーケーキだった。





 目の前に置かれた大きな箱。

 カケルが照れくさそうに、でも、誇らしげな顔で、その蓋を開けた。


 中にあったのは、少しだけスポンジがボコボコで。

 クリームの塗り方も綺麗とは言えない。

 でも、そこに、世界で一番優しい想いが詰まっているのが一目でわかる。

 そんな、手作りの、バースデーケーキだった。


 イチゴが少しだけ不揃いに並べられている。

 その真ん中にはチョコレートのプレート。

 拙い文字で、文字が書かれていた。


『陽菜、誕生日おめでとう』


 その文字を見た瞬間。

 私の目から、堪えていた涙が、ぽろりとこぼれ落ちた。


 嬉しい。嬉しいのに涙が止まらない。


 お菓子作りなんてしたことなかったはずなのに。

 私のために、カケルが、こんな素敵なものを作ってくれた。

 そのことだけで、私の心には、嬉しいの気持ちが溢れていた。


「……ごめん。……あんま、上手くできなかった」


 カケルが申し訳なさそうに頭を掻いている。


 この、鈍感朴念仁は、相変わらず。


 違うんだよ、カケル。

 私は、ぶんぶんと首を横に振った。

 そして、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、彼に伝えた。


「ほんとに嬉しいよ。……ありがとう、カケル」


 その言葉に。

 カケルは、心の底から、ホッとしたように、優しい顔で微笑んでくれた。


 私たちは、二人で、その不器用で、でも、世界で一番美味しいケーキを食べた。

 甘くて優しい味がした。 それはきっと、彼の愛情の味だった。





 陽菜の、その涙と笑顔を見て。俺のすべての努力は報われた。


 ケーキを食べ終え、俺たちは、ソファに並んで座っていた。

 甘くて温かい空気が、俺たちを包み込んでいた。


「……陽菜」

「ん?」

「……まだ、プレゼント、あるんだ」


 俺はそう言って、背中に隠していた一冊の分厚いアルバムを、彼女に手渡した。


「……これ……?」


 陽菜が不思議そうな顔で、その表紙を開く。

 そこには、俺たち二人が、まだ小さかった頃からの写真が貼られていた。


 幼稚園のお遊戯会。

 小学校の運動会。

 中学の卒業式。


 それら一つひとつの写真に、俺の拙い文字でコメントが添えられている。


 陽菜は、一枚、一枚、そのページを食い入るように見つめていた。

 そして最後のページ。そこには修学旅行の時に、蓮が、こっそり撮っていた俺の肩で陽菜が眠っている、あの写真が貼られていた。そして、その下には、たった一言。


『これからも、よろしくな』


 陽菜の瞳から、また大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……ずるいよ、カケル……。こんなの……」

「……俺、陽菜との思い出、全部、宝物なんだ。……だから……これからのページも、二人で埋めていきたいなって、思ったんだ」


 俺の、その不器用な精一杯の言葉に。陽菜は、何も言わずに、ただ、涙を、ぽろぽろとこぼしながら、何度も何度も頷いた。


 俺は、そんな彼女の、小さな身体を優しく引き寄せた。

 そして壊れ物を扱うように、そっと抱きしめる。


 陽菜も、俺の背中に、小さな腕を回してくれた。言葉はない。でも、それで十分だった。

 繋いだ心と、抱きしめ合った身体の温もりだけで、俺たちの気持ちは、確かに一つになっていた。


 この温かい気持ちを胸に。

 俺は、ちょっと勇気を出して、最後のサプライズを、彼女に見せることにした。


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