表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第11章 暗闇に輝く光(4月/5月/6月)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/124

第116話 フレンチレストランと巨大な看板

 六月の末。インターハイ予選の熱狂も少しずつ落ち着き、俺たちの日常は、夏の匂いを色濃くし始めていた。梅雨なんてどこにいったのか。じりじりと照りつける太陽。グラウンドから立ち上る陽炎。


 そして、日に日に近づいてくる、一つの、とてつもなく重要な日。 そう、陽菜の誕生日である。


 俺、桜井さくらいかけるは、自分の部屋のベッドの上で、カレンダーの赤く丸をつけられた日付を睨みつけながら、何度目かわからない深いため息をついた。


(……やばい。……どうしよう)


 俺は、陽菜の「彼氏」なのだ。彼女の十八歳という特別な誕生日を、世界で一番幸せな一日にしてやらなければならない。その使命感が、俺の肩にずしりと重くのしかかっていた。


 でも何をすれば、陽菜が本当に喜んでくれるのか、全くわからなかった。ネットで色々調べてはみた。


『彼女が涙する! 感動サプライズ10選』

『予約必須! 誕生日に行きたい、お洒落レストラン』


 だが、そのどれもが、今の俺には、あまりにもハードルが高すぎた。

 俺は、蓮じゃない。あんなにスマートなエスコートをできるはずがない。

 俺は、健太じゃない。あんな、ストレートな愛情表現は、恥ずかしくてできやしない。

 俺は、ただの桜井駆だ。不器用で、ヘタレで、自分の気持ちすら、まともに伝えられない、ただの男。考えれば考えるほど自信がなくなっていく。


「……駆、お前、またその顔してんのかよ」


 部活の帰り道。 俺の死んだ魚のような目を見かねてか、健太が呆れたように言った。


「……日高さんの誕生日のことだろ。わかりやすすぎんだよ、お前は」

「……うるせぇ」

「まあまあ。……で? なんか、プランはあんのかよ」


 健太の、その悪気のない一言が、俺の心を抉る。

 俺が口ごもっていると、隣を歩いていた蓮がニヤリと笑った。


「簡単だって、駆。……女なんてのはな、キラキラしたもんと美味いもんに弱いんだよ。……とりあえず、夜景の見えるフレンチでも予約しとけ。で、デザートの時に、さりげなくプレゼント渡すんだよ。……完璧だろ?」

「……フレンチ……」


 俺が、そんな店に入った瞬間、緊張でフォークとナイフをカチカチ鳴らす未来しか見えない。


「違うね、蓮! 愛は、金じゃ買えねぇんだよ!」


 今度は、健太が熱く語り始めた。


「いいか、駆! 女子が一番嬉しいのは、男の汗と情熱だ! お前が、日高さんのために、でっけぇサプライズを仕掛けるんだよ! 例えば、日高さんの家の庭に、お前の手作りで『陽菜 HAPPY BIRTHDAY』って書いた、バカでけぇ看板を立てるとか!」

「……看板……?」


 俺が、ノコギリとトンカチを手に、汗だくで木材と格闘する姿。 絶対に近所迷惑で、叔母さんに怒られる未来しか見えない。


「……だめだ。……どっちも、無理だ」


 俺は、力なく、その場にしゃがみ込んだ。蓮と健太は顔を見合わせて、深いため息をついている。 親友たちの優しさが、今は少しだけ痛かった。



 その日。俺は、最後の、そして、最強の助言者に助けを求めた。

 陽菜の家のインターホンを押す。 出てきたのは、案の定、陽菜の妹の莉子ちゃんだった。


「あれ? カケルお兄ちゃん。……ふーん? その、追い詰められた顔……。さては、お姉ちゃんの誕生日のことで悩んでるわね?」


 さすがに、すべてを理解している。俺は観念して頷いた。


「……助けてくれ、莉子ちゃん」

「はぁ……。しょーがないわねぇ、ヘタレなお兄ちゃんは」


 莉子は、やれやれとでも言うように肩をすくめてみせた。

 俺たちは近くの公園のベンチに腰を下ろす。俺は、莉子ちゃんに、蓮と健太に言われたことを、正直に話した。フレンチレストランと巨大な手作り看板。その、二つの選択肢に、莉子は、ふんと鼻で笑った。


「……どっちも、不正解ね」

「え!?」

「いい? カケルお兄ちゃん。クリスマスのときも言ったよね。お姉ちゃんが本当に欲しいのはね、物や、場所じゃないの」


 莉子ちゃんは、そう言って、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。


「……カケルお兄ちゃんが、お姉ちゃんのために、一生懸命悩んで頑張ってくれたこと、その背後にある想いよ。……だから、背伸びしたお洒落さも、暑苦しいサプライズもいらないの。……ただ……不器用でも、カケルお兄ちゃんらしい優しさが、一番嬉しいはずよ」


 俺らしい優しさ……。


「……サンキュ、莉子ちゃん。……なんか、……わかった気がする」

「ふふん。どういたしまして。……まあ、せいぜい頑張りなさいよね! 私の可愛いお姉ちゃんを泣かせたら、承知しないんだから!」


 莉子ちゃんはそう言って、悪戯っぽく笑った。


 自分の部屋に戻り、俺は、もう一度、計画を練り直した。


 俺らしいやり方。

 一生懸命悩んで頑張る……。


 そうだ。フレンチレストランじゃなくて、俺の家で。

 俺が、陽菜の好きなハンバーグと、そして、ケーキを手作りする。

 料理なんてしたことがない。でも、必死になって俺が作ったお粥を、陽菜は美味しいと言ってくれた。今度は、もっとちゃんとしたものを作ってあげたい。


 そしてプレゼントは「物」だけじゃない。 巨大な看板ではなく、俺にしか、あげられないものを……。


 そしてもう一つ、これまで、ずっと思い悩み、考えてきたこと。そのために。俺は最後の切り札に頼ることにした。


 俺は、弟の航の部屋のドアをノックした。中から、ゲームの電子音が、聞こえてくる。


「……航。……頼みが、ある」


 俺がそう言うと、ゲームの音はぴたりと止んだ。ドアが、ゆっくりと開く。

 航は、俺の真剣な顔を見て、俺の話を聞いて、ニヤリと笑った。


「……へぇ? 兄貴が、俺に頭を下げるとはな。……いいぜ。……面白そうじゃねぇか。……その、代わり」


 航はそう言って、意地の悪い笑みを浮かべた。


「……一週間、ポテチのコンソメ味な。切らしたら許さねぇからな」

「……っ! わかったよ……!」


 俺は、苦笑いしながら、そう答えるのが精一杯だった。

 でも、こうして、俺が陽菜の誕生日を最高の一日にするための、不器用で、でも、どうしようもなく、真剣な戦いが始まったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ