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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第11章 暗闇に輝く光(4月/5月/6月)

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第115話 暇を持て余した神々の遊び

 六月のある晴れた土曜日の昼下がり。


 私、日高ひだか莉子りこは、自分の部屋のベッドの上で、スマホを片手にごろごろと転がりながら深いため息をついた。


 私の愛すべきお姉ちゃん、日高ひだか陽菜ひなは、最近、分かりやすいくらいに恋する乙女モード全開だった。


 カケルお兄ちゃんの話をする時の、あのとろけそうな顔。

 スマホを眺めてはにやにやしている、あの締まりのない顔。


 見てるこっちが恥ずかしすぎて、砂糖を吐きそうになるくらいだ。

 でもその光景は、私の心を、この上ない誇らしい気持ちで満たしてくれていた。


 そう。すべては、この私、日高莉子と、私の唯一にして最強の相棒バディ桜井さくらいわたるくんの完璧な後方支援バックアップのおかげなのだから。


「……ふふん」


 私は、満足げに鼻を鳴らした。でも。


「……なんか、……暇ね」


 ぽつりと、そんな言葉が漏れた。


 兄と姉の恋が順調に進展すればするほど、私たちの出番はなくなっていく。

 世界征服を成し遂げてしまった悪の秘密結社の総統は、きっとこんな気持ちだったに違いない。達成感と、そして、ほんの少しの寂しさ。


(……そうだ)


 私はベッドから飛び起きるとスマホを手に取った。

 そして、あの生意気な隊長さんの名前を探す。コールボタンを押す。こういう時は、作戦会議という名のおしゃべりに限るのだ。





『……暇を持て余した、神々の遊び、ってとこかしらね』


 電話の向こうから聞こえてくる、莉子の大げさなセリフに。俺、桜井航は、やれやれと肩をすくめた。

 こいつは、いつだってそうだ。自分のことを物語の主人公か何かだと本気で思っている。


「……神様じゃなくて、暇人だろ」

『なんですって!』

「で? 何の用だよ。俺は、今、新しく出たゲームの攻略で忙しいんだけど」

『決まってるじゃない! 私たちの、輝かしい功績を称え合うための祝勝会よ! 今すぐ、いつものファミレスに来なさい! これは命令よ、隊長!』


 一方的に、そう告げると、電話はぷつりと切れた。

 俺は、深いため息をつくと、セーブをして重い腰を上げた。


 まあ、いいか。俺も少しだけ、退屈していたところだったから。


 兄貴の、あの幸せそうな間の抜けた顔を、毎日見せつけられるのも悪くない。でも、やっぱり何か物足りない。あのスリリングな秘密の作戦を練っていた日々が、少しだけ恋しいような、そんな気分だった。





「……で? どうだったのよ、航くん。お兄ちゃんたちの、あの、イチャつきっぷりは」


 ファミレスのいつもの席。莉子は、メロンソーダのストローをかき混ぜながら、ニヤニヤと意地の悪い顔で聞いてきた。


「どうだったも何も最悪だよ。朝から陽菜姉ちゃんの話しかしねぇんだから。『陽菜のあの時の顔が可愛かった』だの、『陽菜の作ったドリンクは世界一美味い』だの。……聞いてるこっちの身にもなれってんだ」


 俺が、うんざりした顔で言うと、莉子は満足そうに「ふふん」と鼻を鳴らした。


「まあ、お姉ちゃんも同じようなものだけどね。『カケルの走り、カッコよかった』って百万回くらい聞かされたわ」

「……はぁ。……まあ、でも、よかったじゃねぇか。俺たちのお膳立ては無駄じゃなかったってわけだ」

「ええ。私たちの、深慮遠謀バックアップのおかげで、あのヘタレな二人も、ようやく、スタートラインに立てたのよ」


 俺たちは、顔を見合わせてニヤリと笑った。

 そして同時に深いため息をつく。


「「はぁ……」」


「……私たちの仕事も、これで終わりね」


 莉子が、少しだけ寂しそうにそう呟いた。


 そのいつもより少しだけ大人びて見える横顔に、俺の心臓が、少しだけチクリと痛んだのは気のせいだろうか。


「……ああ。なんか、手持ち無沙汰だな」


 俺は、照れ隠しのようにそう言って、そっぽを向いた。

 その言葉に、莉子の顔が、ぱっと、花が咲いたように明るくなる。


「……そうね! じゃあ、景気づけに、あそこに行きましょう!」


 莉子が、何かを決意したように立ち上がった。


「……あそこって……」

「決まってるじゃない! ゲームセンターよ! 今日こそ、あんたを、レースゲームで、ぎゃふんと言わせてやるんだから!」


 莉子はそう言って、自信満々に胸を張った。

 その、あまりにも子供っぽい挑戦状に、俺は思わず吹き出してしまった。


「……ふっ。……返り討ちにしてやるよ」





 ゲームセンターの中は、電子音と若者たちの熱気でむせ返っていた。


 俺たちは、まず、レースゲームの筐体に並んで座る。

 結果は言うまでもなく、俺の圧勝だった。


「むぅ……! もう一回よ!」


 悔しそうに唇を尖らせる莉子。

 俺は、そんな彼女を見て腹を抱えて笑った。


 次に向かったのはクレーンゲームのコーナーだ。

 景品の中には、初詣の時、俺が取ってやった、あのクマのぬいぐるみの色違いがあった。


「……あれ、欲しいの?」

「べ、別に! 欲しくなんかないんだからね!」


 莉子は、顔を真っ赤にして、ぷいと、そっぽを向いた。

 なんだ、そのツンデレキャラみたいな反応は。俺は、また笑ってしまった。


「……しょーがねぇな」


 俺は、百円玉を投入すると、慣れた手つきでクレーンを操作する。

 そして、一手目で位置を調整し、二手目でそのぬいぐるみをゲットした。


「……ほらよ」


 俺が、ぶっきらぼうに、それを差し出すと、莉子は信じられないという顔で固まっていた。


「……航くん、……すごい……」

「まあな。……伊達に、ゲーマー、やってねぇからな」


 俺が得意げに言うと、莉子は嬉しそうに、そのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


 その心からの、嬉しそうな笑顔を見て、俺の心臓が、また少しだけドキリと音を立てた。やばい。こいつの、この顔には弱い。

 



(……うそ)


 なんなのよ、これ。

 いつもの生意気で、ゲームばっかりやってる、ただの幼馴染のはずなのに。なんで、こんなにドキドキしてるのよ……。


 沈黙を破ったのは、航くんだった。


「……あ、あのさ、喉、渇かねぇか? なんか、飲むか」

「……う、うん」


 私たちは、ゆっくりと、ゲームセンターの出口へと向かった。


(こういうのも、悪くないかな……)


 私は、隣を歩く航くんの、少しだけ赤くなった耳を見て、心の中で誰に言うでもなく呟いた。

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