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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第10章 消えない記憶と二人の葛藤(2月/3月)

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第105話 ホワイトデーの誓い

 三月十四日、ホワイトデー。


 バレンタインの時とは別の意味で、男子たちが、そわそわとした空気を醸し出している。

 俺、桜井さくらいかけるも、その一人だった。いや、俺こそが、この学校で、一番、そわそわしていた男かもしれない。


 俺の、スクールバッグの中には、陽菜へのお返しのプレゼントと、そして、蓮と健太にもらった、たくさんのアドバイスが詰まっている。


今日、俺は、陽菜に、ちゃんと、伝えなければならない。 俺の、本当の、気持ちを。


 放課後。 俺は陽菜を、いつもの帰り道とは少しだけ違う場所へと誘った。

 街を見下ろす小高い丘の上にある小さな公園。 子供の頃、よく二人で遊んだ秘密の場所だ。


「……わぁ、懐かしいね、ここ」


 陽菜が、嬉しそうに言った。

 放課後の夕日が、公園の古いブランコをオレンジ色に染めている。


「……おう。……なんか、話するなら、ここかなって、思ったんだ」


 俺たちは、並んでベンチに腰を下ろした。

 俺は、こっそりと軽く深呼吸をしてから、口を開いた。


「……あのさ、陽菜」

「ん?」

「……これ、……バレンタインデーのときの、お返し」


 俺はそう言って、小さな紙袋を彼女に手渡した。

 中に入っているのは、彼女が好きだと言っていた洋菓子屋のマカロン。


「……わあ! ありがとう! 美味しそう!」


 陽菜は、子供みたいに目を輝かせている。

 その笑顔を見て、俺の緊張していた心が少しだけほぐれた。


 でも、本題はここからだ。


「……それと、……もう一つ、……話があるんだ」


 俺の、その真剣味を帯びたような声に、陽菜の笑顔が少しだけ陰った。

 彼女もわかっているのだ。 俺が、何について話そうとしているのか。


「……バレンタインのとき……悪かったな」

「……ううん」

「……俺……最低だった。……陽菜の……気持ち、考えないで……欲望のままに……陽菜を求めようとした。……あの西園寺と同じだ」


 俺が、そう言うと、陽菜は、ぶんぶんと、首を横に振った。


「違うよ、カケル! ……全然、違う!」

「……でも、俺は、陽菜を傷つけた。……怖がらせた。……その事実は、何も変わんないんだよ」


 俺は、自分の膝の上で、強く強く、拳を握りしめた。


「……俺、怖いんだ。……陽菜に……触れるのが。……また、陽菜を傷つけちまうんじゃないかって。……陽菜の……あの怯えたような顔は、もう二度と、見たくないんだ」


 それは、俺の情けない、でも、偽らざる本心だった。

 陽菜は、何も言わずに、黙って俺の言葉を聞いてくれている。


「……でもな、陽菜。……俺……陽菜のことが、世界で一番大事だ。陽菜の笑顔を守りたい。……だから。……だから、俺……」


 言葉が詰まる。


 その時だった。

 陽菜の小さな手が、俺の握りしめていた拳の上に、そっと重ねられた。





 彼の震える拳。

 その、痛々しいほどの強さから、彼の後悔と苦しみが、全部伝わってくるようだった。


 違う。違うんだよ、カケル。


 あなたが、悪いんじゃない。

 あなたが、怖いんじゃない。


 ダメなのは、私の方なのに。



「……知ってるよ」


 私はそう言って、今までで、一番、優しい顔で微笑んだ。


「……カケルが、私のこと、すごくすごく大切に想ってくれてるの、ちゃんと伝わってるよ。……だから、ありがとう」

「……陽菜……」

「……私もね、カケルと同じだよ。……怖い。……体育倉庫の、あの出来事は、やっぱり……まだ怖い。……でもね。それ以上に……私……カケルと、もっと、繋がりたいとも、思うの」


 その、あまりにも、真っ直ぐな告白に。 俺は、息を呑んだ。


「……だから。……カケルが、言ってくれたみたいに、……私たちのペースで、ゆっくり行こう? ……私が大丈夫だって思えるようになるまで……隣で、待っててくれる?」





 陽菜の温かい言葉に。 俺の心の中の分厚い壁が音を立てて崩れ落ちていくのが、わかった。


 なんだよそれ。


 俺が、悩んでたこと、全部わかってたのかよ。涙が溢れて止まらなくなった。


「……ごめん。……ありがとう、陽菜」

「……ううん」


 俺は、ゆっくりと、彼女から身体を離した。

 そして、ポケットの中から、もう一つのプレゼントを取り出す。

 小さな箱が二つ。


「……陽菜。……これは、俺の誓いだ」

「……え?」


 俺は、箱を開けて中身を見せた。

 それは、色違いのお揃いのスマホケースだった。 俺のが、夜空を思わせる深い藍色に銀色の三日月。陽菜のが、朝焼けのような淡いピンク色に金色の太陽。


「……陽菜を、一人にしないっていう誓い。……いつでも繋がってるっていう証。……受け取ってくれるか?」


 俺の、不器用な言葉に、陽菜は、何も言わずに、ただ涙をぽろぽろとこぼしながら、何度も頷いてくれた。


 俺は、陽菜のスマホに、太陽のケースをそっとつけてやる。そして、自分のスマホにも月のケースを。

 俺が二つのスマホを、そっと隣に並べると、太陽と月が寄り添い、一つの柔らかなハートの形が現れた。


 夕日に照らされて、二つのマークがキラリと輝いた。





 もう、何も怖くない。そう思えた。

 でも、まだ、足りなかった。


 私の、わがままな心が、もう一つだけ、彼に求めていた。


「……ねぇ、カケル」

「ん?」

「……お願い……あるんだけど」

「……なんだよ」

「……だ、抱きしめて……ほしい……かな」


 私の、か細い、震える声を聞いて、カケルの肩が、びくりと震えたのがわかった。


 彼の顔に、戸惑いの色が浮かぶ。

 

 わかってる。

 彼は優しいから。


 私に不用意に触れて。

 私を傷つけてしまうのが怖いんだ。。


 わかってる。

 だから、今度は私からお願いをする。


「……カケルが、いいの」


 私は、彼の潤んだ瞳を、真っ直ぐに見つめた。


「……カケルに……抱きしめてもらえたら……私……きっと大丈夫だから。……お願い」


 私の、その必死な想いが伝わったのだろうか。

 カケルは、一度、ぎゅっと目を瞑った。

 そして、ゆっくりと、その大きな腕を広げてくれた。


 私は、その温かい胸の中に飛び込んだ。

 彼の腕が、私の背中を、おそるおそる、でも、優しく包み込む。

 彼の匂い。 彼の体温。 彼の心臓の音。 そのすべてが、私の身体中に染み渡っていく。 「怖い」なんて少しも思わない。ただ温かくて、安心できて、どうしようもなく幸せだった。


「……嬉しい……」


 私の目から、また、涙が溢れ出した。

 幸せで、愛おしくて、たまらない、温かい涙だった。


「……嬉しいよ、……カケル……」





 陽菜の、その涙声を聞いて、俺の腕に少しだけ力がこもったのがわかった。

 よかった。 俺は、ちゃんと陽菜を抱きしめてやれた。 怖がらせずに、傷つけずに、ただ温もりだけを伝えることができた。


 ホワイトデーの夕暮れの光を感じながら、俺は、一生、この腕の中の可愛い恋人を守り続けるのだと誓った。




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