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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第10章 消えない記憶と二人の葛藤(2月/3月)

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第104話 親友たちのアドバイス

 ホワイトデーまで、あと数日。


 街は、バレンタインの時とは打って変わって、水色や白を基調とした爽やかな装飾に彩られている。

 だが、俺、桜井さくらいかけるの心は、鉛色の分厚い雲に覆われたままだった。陽菜との関係は、あのバレンタインの日から少しも進展していない。


 いや、むしろ後退しているとさえ言えるかもしれない。

 俺は、あの日以来、陽菜に触れることができなくなってしまった。

 手を繋ぐことすらためらってしまう。


 陽菜を、また怖がらせてしまうんじゃないか。 その恐怖が俺の身体を縛り付ける。

 陽菜は何も言わない。 ただ、時々、寂しそうな、でも俺を気遣うような、優しい目で俺を見るだけだ。その笑顔が何よりも辛かった。


「……はぁ」


 部室の隅で、俺は何度目かわからない深いため息をついた。どうすればいい。俺はどうすればこの見えない壁を壊すことができるんだろう。

 一人で悩んで悩んで。もうどうしようもなくなって。俺は、意を決して二人の親友の元へと向かった。





「……で? 話ってなんだよ、駆。改まっちゃって」


 部活の後、俺たちは、いつものファミレスにいた。

 俺のただならぬ雰囲気を察してくれたのだろう。 健太と蓮は、いつもの軽口も叩かず、真剣な顔で俺の次の言葉を待っていた。


「……俺、……陽菜と、……どうすればいいか、わかんねぇんだ」


 俺の情けない一言に、健太は眉をひそめ、蓮は、やれやれとでも言うように肩をすくめた。 俺は、バレンタインの日の出来事を、ぽつりぽつりと話し始めた。

 キスをしたこと。その先に進もうとして、彼女をベッドに押し倒してしまったこと。 陽菜が怯えて泣き出してしまったこと。そして、それ以来、彼女に触れるのが怖くなってしまったこと。


「……俺は西園寺と同じだ。……あいつを守るって誓ったくせに、俺自身が、あいつを傷つける獣になっちまった……」


 俺の拙い話を、二人は黙って最後まで聞いてくれた。

 そして、すべてを話し終えた俺に、最初に口を開いたのは健太だった。


「……ふざけんなよ、駆」


 その声は静かだったが、強い怒りがこもっていた。


「お前が、あんなクズと同じなわけねぇだろ。……お前は、日高さんを大事に想ってるから止まれたんだ。……あいつは自分の欲望しか考えてねぇ。……全然違う。……自分を卑下すんじゃねぇよ」

「……でも、俺は……」

「……そうか。……でも、そんなことがあったのか」


 健太の声は、どこまでも優しかった。


「……駆。……お前は悪くねぇよ。……日高さんも悪くねぇ。……ただ……時間が必要なだけなんだよ、きっと」

「……時間……」

「おう。……日高さんの心の傷は、俺たちが想像するより、ずっと深いんだと思う。……だから焦んなよ。……お前が、今まで通り、日高さんの隣にいて笑っててくれるだけで、日高さんはきっと救われるはずだから」


 健太のその温かい言葉に。 俺の目から涙がこぼれそうになる。


「……まあ、健太の言うことも、一理あるな」


 今度は、蓮が口を開いた。その目は、いつもの悪戯っぽい光はなく真剣な色を宿していた。


「……でもな、駆。……ただ待ってるだけじゃ、何も変わんねぇぜ?」

「……え?」

「陽菜ちゃんの、その反応はトラウマだ。お前のことが嫌とか怖いとか、そういうんじゃない。身体が勝手に、あの時の恐怖を思い出してるだけだ。……一番辛いのは陽菜ちゃん自身のはずだぜ。『好きな男に応えたいのに応えられない』ってな」


 蓮のその的確な分析に、俺は言葉を失った。

 そうだ。 俺は自分のことばかりで。 陽菜の本当の気持ちを考えていなかったのかもしれない。


「……じゃあ俺はどうすりゃいいんだよ」

「……お前がすべきことは一つだけだ。……陽菜ちゃんに安心感を与えてやることだよ」

「……安心感?」

「おう。……陽菜ちゃんはな、体育倉庫で、男に力で支配されるっていう、コントロールを完全に失った状態を経験したんだ。……だから、お前は、そのコントロールを陽菜ちゃんに返してやらなきゃいけねぇ」


 蓮はそう言って、俺の目を真っ直ぐに見た。


「……つまり『いつ、NOと言ってもいい』っていう絶対的な安心感だ。……お前がキスをしたい、その先に進みたいって思った時、それを無理やり進めるんじゃなくて『陽菜は、どうしたい?』って、ちゃんと聞いてやれ。……そして、もし『怖い』って言うなら、その時は、絶対にそれ以上進むな。……ただ優しく抱きしめてやれ。……その積み重ねが、陽菜ちゃんの心の傷を癒していくんだよ」


 蓮のそのスマートで的確で大人びたアドバイスに、俺は、ただ呆然と頷くことしかできなかった。


「……ホワイトデーもうすぐあるだろ? ……そこでちゃんと伝えろよ。……駆の本当の気持ちをな。『陽菜ちゃんを傷つけるのが怖い』っていう情けない気持ちも、『でも、陽菜ちゃんが、世界で一番大事だ』っていう強い気持ちも全部ひっくるめて。……女はな、そういう不器用な真っ直ぐな言葉に一番弱いんだから」

「……サンキュ二人とも。……なんか……少し楽になった」

「いーってことよ。……まあ俺も、美優と初めての時は、お前みたいに死ぬほど悩んだけどな」


 蓮はそう言って、少しだけ照れたように笑った。

 その顔は、いつものチャラついた蓮とは全く違う一人の男の顔をしていた。

 俺は、こいつらが親友で本当によかったと心の底から思った。





「……で? お前はどうなんだよ、健太。葵ちゃんとは進展あったのか?」


 蓮が、今度は健太の方を向いた。

 その言葉に、健太の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。


「……し、進展ってなんだよ!」

「とぼけんなって。……初詣の時、キス、したんだろ?」

「……っ! な、なんでそれを……!」


 健太は、完全に狼狽えている。

 どうやら、何かあったらしい。


「……まあ、色々とな。……で、どうなんだよ」

「……別に、……いつもと変わんねぇよ」


 健太はそう言って、そっぽを向いてしまった。

 だが、その耳まで真っ赤に染まっているのが、すべてを物語っていた。

 健太も、俺と同じように悩みながら、でも一歩ずつ前に進んでいるのだ。


 その事実に、俺は少しだけ勇気をもらった気がした。

 俺も負けてられない。 そう思った。




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