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幼馴染の身体を意識し始めたら、俺の青春が全力疾走を始めた件  作者:
第10章 消えない記憶と二人の葛藤(2月/3月)

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第100話 陽菜を襲う悪夢と温かい光

 その夜、私は、また、あの場所にいた。


 暗くて、カビ臭い体育倉庫。

 ひんやりとした、コンクリートの壁の感触。

 そして、目の前で、ゆっくりと閉ざされていく、重い鉄の扉。


 ガチャン、と、外側から、かんぬきがかけられる、絶望的な金属音。


 完全な、闇。 光の一切ない、闇。


「だ……だれか、いませんかー……」


 叫んでも、声が響かない。

 分厚い闇に吸い込まれていく。



 怖い、怖い、怖い。

 心臓がバクバクと、大きな音を立てている。



 闇の向こう側。

 ゆっくりと、近づいてくる足音。


 そして、あの声。

 ねっとりとした甘い声が、私の名前を呼ぶ。


 獣の匂い。

 獣の息遣い。

 獣の力。



 壁に押し付けられる。

 振りほどけない。


 熱い身体が、私の身体に密着する。

 心臓が凍りついた。



 ビリッ、と、布が裂ける絶望的な音が暗闇に響く。

 そして、私は、古いマットの上に、力強く押し倒される。

 重い身体が、私の上にのしかかってくる。


 獣の手が、私の胸を強く揉み、着ていたワンピースを引き千切る。

 ねっちょりとした口が、私の唇に触れ……

 





「……はっ!」


 私は、息を呑んで目を覚ました。

 全身が、汗で、ぐっしょりと濡れている。

 枕も、涙で冷たくなっていた。


 心臓が、まだ、バクバクと大きな音を立てている。


 夢だ。わかってる。

 あの文化祭の日以来、何度も見ている悪夢。

 その夢は、あまりにもリアルで。 身体が、まだ小刻みに震えていた。


 私は、ゆっくりと身体を起こした。


 そして自分の身体にそっと触れる。

 服は破れていない。胸も触られていない。


 夢だったんだから、当たり前だ。

 あのときも、胸を触られはしなかった……。


 でも、夢の中の、布が裂ける絶望的な音が、胸を揉まれたような感触が、まだ、肌に、残っているような気がした。


 怖い。 やっぱり怖い。


 男の人に、力で押さえつけられることが。

 その恐怖は、私の心の一番深い場所に根を張ってしまっていた。


(……カケル、助けて)


 私は、震える手で、枕元に置いてあったお守りを握りしめた。

 中学の時から、ずっと、大切にしている、古い水色のリストバンド。

 新しいリストバンドをもらったけれど、これも捨てられるわけがない。


 カケルの匂いが、もう残っているわけじゃない。

 でも、これを握りしめると、不思議とカケルの存在を、すぐ近くに感じられる気がした。


 私は、リストバンドを胸にぎゅっと抱きしめる。

 そして必死に思い出す。あのときの体育倉庫の光景。私を守るために戦ってくれた、彼の大きな背中。そして、すべてが終わった後、私を優しく抱きしめてくれた、あの温かい腕。


 あの温もりだけが本物だ。

 あの温もりだけが、私の救いだった。


(……ごめんね、カケル)


 心の中で、彼に謝った。

 あの日、私は、彼を傷つけた。

 彼の優しさを、拒絶してしまった。


 本当は、私も、カケルともっと触れ合いたいのに。

 身体が、勝手に怖がってしまう。


 この、心と身体がちぐはぐな自分が、嫌で嫌で仕方ない。

 でも、舞が言ってくれた。


『陽菜は、何にも心配することないの』


 そうだ。 私は、一人じゃない。

 カケルも、舞も、みんな、私の隣にいてくれる。

 だから大丈夫。 焦らなくていい。


 ゆっくり行こう。

 カケルが言ってくれたように。 私たちのペースで。



 私は、窓の外を見た。

 東の空が、少しずつ白み始めている。



 新しい朝が来る。


 怖い。


 でもそれ以上に。

 彼と会えるのが楽しみだった。



 私は、もう一度リストバンドを、ぎゅっと握りしめた。

 そして心の中で呟く。


 カケル 大好きだよ。世界で一番。


 そのどうしようもないくらい幸せな気持ちを胸に抱いて。

 私は、新しい一日の始まりを、静かに待っていた。


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